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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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猫と子供達

「いらっしゃいませ!」

「お待ちしていました!」

「うわあ〜〜痛い!」

 竜騎士達が全員到着したと執事に言われたジャスミンとティミーは、二人揃って満面の笑みでそう言って振り返り、それぞれ膝を占領していた猫を退けて立ちあがろうとした所で、またしても二人揃ってそう叫んで仲良くすっ転んだ。

 慌てた執事達が駆け寄って二人を抱えて起こそうとしたが、どちらも悲鳴を上げて首を振っている。

「ちょっと待ってください。足が痺れて動けません!」

「僕もです! 膝から下の感覚が無いです〜〜!」

 それぞれ助け起こしてくれた執事にしがみついての叫びを聞いて、呆気に取られてその様子を見ていた竜騎士隊が全員揃って吹き出したのだった。



「うわあ、これは確かにちょっと驚くくらいの倍増っぷりだね」

「確かにそうだな。これは俺の知ってる猫とは違う生き物な気がする」

「ううん、確かにそうだよな。俺の実家の屋敷にいる猫達はもっと細いし小さいぞ」

 タドラの呆れたような呟きに、ロベリオとユージンが揃って笑いながらそう言ってまた吹き出してる。

「確かに、ちょっと別の猫なんじゃあないかってくらいに大きくなってるよね。ねえレイ、ちょっと聞きたいんだけど、毎日何を食べたらそんなに大きくなるの?」

 自分の足に、甘えたように鳴きながら頭突きを繰り返している猫のレイを見て、一つため息を吐いたレイは大真面目にそう話しかけた。

「フリージアも、俺の記憶にあるのより、絶対に毛の量が倍増しているし、大きくなっている気がするぞ」

 そしてレイの隣では、同じようにカウリの足に甘えて擦り寄るフリージアがいたのだが、こちらも別の猫かと思うくらいにふわふわになっている。

「毎年の事だが、長毛種の猫の冬毛は本当に冗談かと思うくらいに倍増しているからなあ。いやあ、今年も見事な倍増っぷりだな」

 腕を組んだヴィゴのしみじみとした呟きに、また皆で顔を見合わせて、揃って吹き出したのだった。



「まあまあ、にぎやかだ事」

 その時笑う声がして、マティルダ様とティア妃殿下が揃って部屋に入ってきた。後ろには笑顔の陛下の姿もある。

 順番に挨拶を交わし、改めて昼食を食べるために部屋を移動した。

 猫のレイは、当然のように得意げに尻尾を立てながらレイのあとを追いかけてきているし、フリージアとタイムは、ジャスミンとティミーが気に入ったらしく、ずっと足元にまとわりついて離れようとしない。

「もう、いたずらっ子ちゃんね。危ないから、足元に転がるのはやめてください」

 笑ったジャスミンが、隙あらば撫でてもらおうとじゃれついて足元に転がるフリージアを見て屈み、大きな体をそっと両手で抱き上げようとして固まった。

「ええ、なにこれ。すごく重いわ!」

 割と本気で驚くジャスミンの言葉に、また笑いが起こる。

「確かに、猫達はこのひと月ほどで一気に毛が倍増したからなあ。それに秋以降、三匹とも体が一回りは大きくなった気がするぞ」

 笑った陛下の言葉に、マティルダ様とティア妃殿下も笑いながら何度も頷いている。

「初めて会った時とは、別の猫みたいだわ」

 困ったように笑ったジャスミンが抱き上げるのを諦めてその場にしゃがんで、足元に転がるフリージアを撫でてやる。

「可愛い。いいなあ、私も猫ちゃん飼いたいなあ」

 甘えて喉を鳴らすフリージアを見て、ジャスミンが少し寂しそうにそう呟く。

「残念だけど、本部は愛玩動物は禁止だよ。ボナギル伯爵様にお願いすれば、猫くらい飼ってくれると思うけど?」

 優しいタドラの言葉に顔を上げて立ち上がったジャスミンは、小さく首を振ってタドラを見上げた。

「ええ、せっかくだから一緒に寝たり遊んだりしたいです。ううん、本部は愛玩動物は飼えないんですね。残念です」

 しょんぼりとしたその様子に、マティルダ様が笑顔になる。

「ねえ、陛下。ネズミ取りの猫は愛玩動物でしょうか?」

「ん? ネズミ取りの猫は正式な職員だぞ……ああ、確かにその通りだな。本部の貴重な資料を齧られては大変だ」

 マティルダ様が何を言いたいのか即座に理解した陛下がにっこりと笑ってそう言い、その場にいた全員の目が見開かれる。

 実を言うと国立図書館には、正式な図書館の職員として数匹の猫が敷地内で飼われている。

 本を齧るネズミは、図書館にとっては天敵とも言える存在で、図書館の猫達はそのネズミを獲る役目を果たしているのだ。

 国立図書館設立の初期の頃から、ずっと途切れる事なく数匹の猫達がその職についている。

「確かに、それはいい考えですねえ」

 笑ったルークの言葉に、ヴィゴも笑いを堪えて頷いている。

 竜騎士隊の本部は、実際のところ精霊達による駆除が日常的に行われているので、ネズミによる資料室や蔵書の被害は皆無なのだ。

 もちろん、レイも含めて全員がその事を知っているが、今は全員それには気が付かない振りをして笑顔で陛下を見た。

 レイとティミーとジャスミンは、それぞれ目を輝かせて陛下を見た。

 三人の言いたい事を理解した陛下が笑顔で頷くのを見て、三人は揃って手を取り合って歓声をあげた。

「まあまあ、それなら次に生まれる子達の中から良かったら選んでやってちょうだいな。恐らくだけど、年が明けたらまた生まれるんじゃあないかって先生が言っていたからね」

 マティルダ様の言う先生とは、猫達の健康を管理するために奥殿に勤める獣医の事だ。

「ええ、そうなんですね。生まれたら、ぜひお願いします!」

 嬉しそうなレイの言葉に、ジャスミンとティミーも笑顔で頷く。

『おやおや、これは面白い事になってきたな』

 両陛下の思わぬ提案に笑ったブルーのシルフの呟きに、ニコスのシルフ達も笑顔で頷いていたのだった。

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