良い子達への贈り物
「それじゃあまた後でな」
立ち上がったルークの言葉に、満面の笑みの二人が揃って振り返る。
「はい! 本当にありがとうございました!」
贈り物の山をようやく全部開封して、嬉しそうにお互いにもらった贈り物の本を見せ合いっこをしていたジャスミンとティミーは、声を揃えてそう言い直立すると、二人揃って綺麗な敬礼をした。
もちろん竜司祭となるジャスミンには軍隊式の敬礼は必要無いのだが、笑顔で手を振るレイやルーク達を見送りながら直立したティミーの隣で一緒に敬礼しているジャスミンは、とても嬉しそうな良い笑顔だった。
「それじゃあシルフ達、俺は離れるからティミーとジャスミンについていてやってくれよな」
ロベリオが、自分の指輪から呼び出した古代種ほどではないがかなり大きなシルフ達に小さな声でそう言って軽く宙に飛ばす。
この、ロベリオと仲の良いシルフ達は、ロベリオとユージンの二人が揃ってティミーから離れる時には、いつも彼の側についていてくれる子達だ。もちろん、この子達以外にもルークやマイリー達がそれぞれに付けたシルフ達や、それぞれの竜の使いのシルフ達も様子を見てくれている。
『了解了解』
『しばらく一緒にいるからね』
『一緒一緒〜〜』
嬉しそうにそう言ったシルフ達は、揃ってロベリオにキスを贈ってから揃って部屋へ戻っていった。
「それにしても……なんて言うか、二人とも本当に良い子達だよなあ」
ゆっくりと階段を降りながらルークがしみじみとそう呟く。
「本当にそうだよな。だけどまあ、今日の贈り物を開けている時の二人は年相応の子供に見えて、実を言うとちょっと安心したよ」
「確かに年相応だったね。なんて言うか、嬉しそうに満面の笑みで贈り物を開ける二人が、すっごく可愛かった」
苦笑いするロベリオの呟きに、隣でユージンも同じように苦笑いしつつそう言って何度も頷いた後、何故か二人揃って顔を見合わせて大きなため息を吐いていた。
散々好き勝手してわがまま言いたい放題していたティミーと同じ歳頃の自分の子供時代を思い出して、今のあまりにも良い子すぎるレイやティミー、それからジャスミンの様子を見て、今更ながらに恥ずかしくなっている二人なのだった。
「僕も嬉しかったです。無邪気に贈り物を喜んでくれているティミーとジャスミンを見て、ちょっとだけ大人になれたなあって思いました。それに……母さんやゴドの村の皆、それからタキス達も、贈り物を貰った時の僕を見てこんな気持ちだったのかなあって……」
恥ずかしそうに小さな声でそう言ってそっぽを向いたレイの言葉にロベリオとユージンが揃って胸を押さえて立ち止まる。
「ええ、二人揃ってどうしたんですか? 何? 胸が苦しいの?」
慌てたようにそう言ってロベリオとユージンの顔を覗き込むレイに、胸元を押さえたままの二人が揃って大きなため息を吐く。
「ああ、もうティミーやジャスミンだけでなく、成人年齢のはずのレイルズ君までが良い子過ぎて、俺は胸が苦しいよ。なんだか子供の頃の自分が、とんでもないわがまま放題の暴君だった気がしてきた」
「俺もだ。もう眩しくて眩しくて、レイルズの事も、ティミーやジャスミンの事もまともに見られないって」
悲壮感漂う芝居がかった二人の言葉に、レイだけでなく一緒に聞いていたルークとタドラも揃って吹き出していた。
のんびりとそんな話をしながら階段を降りてようやく一階に到着した一行は、素知らぬ顔で一列になり、そのまま揃って精霊王の神殿の分所へ向かった。
「おかえり、どうだった?」
順番に精霊王の彫像へ帰還の挨拶をしてから席に戻るレイ達を、留守番してくれていたアルス皇子が笑顔でそう言いながら振り返った。
「はい、二人ともそりゃあ無邪気に喜んでくれていましたよ。一応本部に積み上げていた贈り物は、俺達竜騎士以外は二人のご両親やお身内の方々、後は本部やロディナの関係者くらいでしたから、数はまあそれなりでした。一応、家へ届いているその他の贈り物のリストも見せてもらいましたけど、あっちはそりゃあまあ……凄かったですよ」
代表してロベリオが答える。
「ああ、そうだろうね。そっちの詳しい報告は私も聞いているよ。久々のオルダム在住で大貴族の、しかもティミーは嫡男だからね。今年は張り切った方もさぞかし多かった事だろうさ」
小さな声でそう言って笑うアルス皇子の言葉に、その辺りの貴族間の思惑や事情に詳しいロベリオとユージンは、揃って遠い目になったのだった。
ちょうどその時、時を告げる鐘の音が礼拝堂に鳴り響き、ほぼ全員同時に背筋を伸ばして居住まいを正す。
進み出てきた神官達を見て立ち上がった竜騎士隊の面々は、神官達がミスリルの鈴を鳴らしながら祈りを唱えるのを黙って聞いた後に、揃って精霊王を讃える歌を歌い始めた。
その後、降誕祭当日のみ行われる午前中の生誕と感謝の祈りの間は、歌を歌うだけでなく、肩掛けをして楽器の演奏を行ったりもしたのだった。




