二人への贈り物とティミーの身長
「あの、本当にこんなにたくさんの贈り物をいただいて……すっごくすっごく嬉しいです。本当にありがとうございます!」
積み上がっていた自分宛の贈り物の山をようやく全部開けて、最後に積み上がっていた何冊もの本のリボンを解いて背表紙を確認したティミーが満面の笑みで振り返る。
「ああ! これ欲しかった本なんです。大学の教授から、良い本だから読んでみるようにって教えていただいたんですけど図書館ではずっと貸出中になったままで、司書の方に返却されたら連絡してもらうようにお願いしていたんです。まさかこんな高価な本まで贈っていただけるなんて」
一番上にあった政治経済学の分厚い本を手に取ったティミーは、嬉しそうにそう言って本を両手でギュッと抱きしめるみたいに抱え込むと、嬉しさを堪えきれないかのようにその場でぴょんぴょんと何度も飛び跳ねた。
ティミーの前髪横の辺りの細い三つ編みが、その反動でまるで生きているかのように跳ねる。
するとそれを見て、解いたプレゼントのリボンで遊んでいたシルフ達が集まってきてティミーの前髪を引っ張って遊び始めた。
すると、何人かのシルフ達が突然顔を見合わせてから揃って手を叩き合い、床に落ちていた細いリボンを引っ張って持ってきて、ティミーの三つ編みに結びつけ始めた。
それを見て、あちこちから吹き出す音と笑う声が聞こえる。
慌てたように顔を振ってシルフ達を追い払ったティミーも吹き出し、一つ咳払いをしてからシルフ達を見上げた。
「シルフ、今は僕の三つ編みで遊ばないでください。ほら、レイルズ様の真っ赤な髪ならその白いリボンはきっとよく似合うと思いますよ」
真剣な様子でシルフ達に言い聞かせるティミーの言葉に、もう一回若竜三人組が揃って吹き出し大笑いしていた。
「ちょっとティミー! 僕を巻き込まないでよ。シルフ! 僕の髪で遊ばないでってば!」
嬉々としてリボンを引っ張って自分の方へ飛んできたシルフを見て、椅子に座っていたレイが慌てたように立ち上がって逃げる。当然リボンを引っ張ったままでそれを追いかけるシルフ達。引っ張られて右に左に動くリボンを見て、また別のシルフ達がそれを追いかけて遊び始める。
大爆笑になった部屋の中を、髪を押さえたレイはリボンを手にしたシルフ達に追いかけ回されては、必死になって逃げ回っていたのだった。
「うわあ、すっごく可愛い!」
ようやくシルフ達が諦めてくれて、若干息を切らせたレイが苦笑いしながら席に戻ったちょうどその時、ジャスミンの堪えきれないような歓声に、椅子に座ったところだったレイは思わず振り返った。
ジャスミンは、一つ開ける度に大喜びしては装飾品を試しに身につけたりしているので、まだ本の山まで辿り着いていない。
レイがシルフ達に追いかけられた最初の頃は一緒に笑って見ていたけれど、しばらくすると知らん顔でまた自分の贈り物をせっせと開け始めていたのだ。
ジャスミンの手にあるのは、レイが選んだあの三日月に座る猫のペンダントだ。
添えられていたカードを見たジャスミンが、目を輝かせてレイを振り返る。
「これ、レイルズ様が選んでくださったんですね。すっごく可愛いです。ありがとうございます!」
満面の笑みで目を輝かせるジャスミンは、普段のちょっと生真面目で大人びた様子とは違い、年相応の子供の笑顔に見えて、なんだか嬉しくなる。
「えっと、三日月に猫が座るなんて実際には有り得ないんだけど、揺れるダイヤモンドも星みたいだし、可愛いかなって思ったんだ。頑張って選んだから、気に入ってもらえて嬉しいです」
「ありがとうございます! 最高に可愛いわ」
ペンダントを胸元に当てて、執事が持っていた鏡を覗き込んでまた笑顔になる。
もう一度お礼を言ってペンダントをケースに戻したジャスミンは、一つ深呼吸をしてからまた次の贈り物の包みを開けて嬉しそうな歓声を上げたのだった。
「昼食は、奥殿で皆一緒にいただくから、それまではゆっくりしているといい。俺達は一旦神殿の分所へ戻らせてもらうからな」
立ち上がったルークの言葉に、並んだティミーとジャスミンが揃って笑顔で頷く。
その時、レイは少し考えてティミーの側へ行った。
「ん? どうかなさいましたか?」
首を傾げながら近くで自分を見るレイの視線に、ティミーも不思議そうに首を傾げながらレイを見上げる。
「ティミー、また背が伸びたね。ほら、ジャスミンと並ぶと、もうあんまり変わらないよ」
さっき会った時から思っていた違和感にようやく気付いたレイが、笑顔でそう言ってティミーの頭をそっと撫でる。
「そうなんです! 夏からこっち、確実に5セルテは伸びてますよ!」
「ええ、そうなんだね。凄いよティミー!」
笑ったティミーの言葉に、レイも笑顔で大きく頷く。
「このところ、上着を何度も交換しています。今日の昼食会で着る第一級礼装の上着も、今まさに直しをしていただいている真っ最中です」
ティミーの従卒のグラナートの言葉に、レイだけでなくルークと若竜三人組も笑顔で拍手を送った。
「ただ少し成長痛が酷いようで、何度か痛み止めをハン先生に出していただいております」
少し心配そうなその言葉に、レイは自分のティミーくらいの時に、成長痛が酷かった事を思い出した。
「えっと、以前僕がティミーくらいの時にも成長痛が酷かったんだ。何度か痛くて我慢出来なくてね、タキスにお願いして痛み止めを作ってもらった事があるよ。あれって本当に痛いんだよね」
「レイルズ様もそうだったんですね! どこまで背が伸びるか、楽しみにしておきます!」
「まあ、確かにティミーはもう少し背は伸びて欲しいだろうから、気持ちは分かるけど、いくらなんでもここまでデカくなる必要は無いからな。何事も程々がいいんだぞ」
割と本気のロベリオの言葉に、またしても全員揃って大爆笑になったのだった。




