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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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1947/2488

降誕祭の贈り物と大人になるという事

「おはようございます!」

 カナエ草のお茶を飲み終えてツリーを眺めながらのんびりと休憩していたところへ、すっかりと身支度を整えたティミーとジャスミンが駆け込んでくる。

「おはようございます! レイルズ様! お久しぶりです!」

 降誕祭が始まって間もなくの頃から少し風邪気味で咳が出ていた為、訓練所へも行けず朝練もお休みしていたティミーが、目を輝かせて立ち上がったレイに飛びついてくる。

「五日ぶりだね。えっと風邪気味だって聞いていたけど、もう大丈夫なの?」

 ティミーの小さな体を小揺るぎもせずに受け止めたレイが、少し心配そうにティミーの顔を覗き込みながらそう尋ねる。隣では、タドラとルークも心配そうにしている。

 昨夜のうちにティミーに会って、体調にもう問題が無いと分かっているロベリオとユージンは、苦笑いしながらそんな彼らを見ている。

「はい、ちょっと咳が出ただけで少し休んだらもう治りました! ちゃんとハン先生にも、もう大丈夫だって言っていただきました!」

 得意げに笑顔で胸を張るティミーを見て嬉しくなったレイは、思わずティミーをギュッと抱きしめやり、そのまま高々と抱き上げてやった。

「よし、じゃあこのままツリーを見に行こうか。ほら、ジャスミンもおいで。ツリーの下に二人への贈り物が山積みになっているよ」

 大はしゃぎのティミーを見て、少し下がった位置で苦笑いしながら見ていたジャスミンも、レイの言葉に笑顔で進み出る。

 そして、今日初めて見るツリーの左右に本当に文字通り山積みになった大小の贈り物を見て、二人は揃って歓声を上げたのだった。



「はい、自分で開けないとね」

 笑ったレイが、ティミーをツリーの前まで行って下ろしてやる。

 しかし、ティミーは自分の贈り物を開ける前に不意にツリーを見上げて目を輝かせた。

「新しい飾りが増えていますね。あれはどなたかの贈り物ですか?」

 ティミーの言葉に、自分の贈り物に気を取られていたジャスミンも慌ててツリーを見上げた。

「ああ、本当ですね。へえ、クロスステッチで、青の竜の紋章ですね。それにこれって、ちょっと……」

 何か言いたそうに口ごもってツリーの飾りにそっと手を触れる。

 もっと刺繍が上手であろうジャスミンに、自分の初作品を無言でしげしげと見つめられてしまい、レイはなんだか不意に恥ずかしくなった。

 自分ではそれなりに上手く出来たと思っていたが、改めて側に飾ってあるニコスの刺繍と並べて見ると、隠しきれない仕上げの拙さやステッチの歪みがあちこちにあってひどく目立っている気がした。それに今気がついたけれど、仕上げの縁取りをした際に使った縫い糸の端っこの玉止め部分が、いつの間にか縫い目の隙間から小さくはみ出している。

 恥ずかしさのあまり顔を赤くしたレイがそっぽを向くと、二人は揃ってレイを見上げた。

「もしかして、あれってレイルズ様の作品ですか?」

 胸元に手を握りしめて自分を見上げるジャスミンの質問に、レイは恥ずかしそうに無言で頷いた。

 二人の口からまた歓声が上がる。

「ええ、初作品でこれって。凄いです。私の刺繍の初作品なんて、絶対誰にも見せられませんわ」

 笑って顔の前で大きくばつ印を作ったジャスミンは、改めて飾りにそっと触れて細い指の爪を使って、はみ出していた玉止め部分をさりげなく直してくれた。

「うう、恥ずかしいからあんまり見ないで。ちょっと、出来れば離れて遠くから見てよ。それなら(あら)が目立たないからさあ」

 顔を覆ってそっぽを向くレイの叫びに、少し離れて見ていたルークと若竜三人組が揃って吹き出していたのだった。



「うわあ、すごくたくさんある!」

「そうね。どれから開けようか、迷っちゃいます!」

「では、開けさせていただきますね!」

 最後は綺麗に声が揃い、笑顔で頷き合った二人は、執事の案内でそれぞれの贈り物の元へ駆け寄っていった。

 目を輝かせながらまるで示し合わせたように揃って深呼吸をした二人は、積み上がっていた一番上の贈り物を手に取ってからリボンを解き始めた。

 ティミーには本の贈り物が多いようだが、レイも貰ったような武具関係の大きな包みから、手のひらに乗るくらいの小さなものまで本当に様々だ。

 逆にジャスミンの方には小さめの箱が多い。これはレイも贈ったように宝飾品や装飾品が多いからだろう。

 一つずつ添えられたカードを確認しながら贈り物を開ける二人は、普段の背伸びして頑張る様子と違い、本当に年相応の子供のように見えた。

「そっか、降誕祭の贈り物って……普段は無理をして大人達に負けないように必死になって頑張っている良い子達が、子供に戻る事を無条件で許される日でもあるんだね」

 思わずそう呟いたレイは、ゴドの村にいた頃の、質素な、それでも想いのこもった贈り物や、蒼の森での初めての降誕祭でもらった豪華な贈り物の事。そして、ここへ来てからのとんでもないくらいの豪華な贈り物の数々を思い出していた。

 それと共に、目を輝かせて贈り物を開ける自分を見つめていた大人達の優しい笑顔が次々に思い出されて、不意に涙がこぼれそうになったレイは慌てて手拭き布でさりげなく涙を拭った。

「きっと、母さんや村の皆も、それからタキス達やルーク達もこんな気持ちだったんだね。僕も、こっち側になったって事は、少しは大人になれたのかなあ」

 ごく小さな声でそう呟いたレイは、次々に贈り物を開けては堪えきれない歓声を上げてお礼を言うティミーとジャスミンをこれ以上ないくらいの優しい笑顔で見つめていたのだった。

 そして、そんなレイの独り言をちゃんと全部聞いているブルーのシルフとニコスのシルフ達は、愛おしくてたまらないと言わんばかりにレイを見つめ、先を争うようにしてその柔らかな頬に何度もキスを贈っていたのだった。

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