降誕祭の贈り物の準備とそれぞれの事情
「はあ、今頃それぞれのお家に降誕祭の贈り物が届いて、ツリーの下に並べられている頃だね」
間も無く夜明けの時間だが、まだ薄暗い玻璃窓を眺めながら、レイが嬉しそうに小さな声でそう呟く。
「そうだな。頑張って選んだ贈り物、喜んでもらえるといいな」
笑ったカウリの言葉に、並んで座っていたルーク達も笑顔で頷く。
「朝には、マイリーとヴィゴ、それから殿下がここの守りを交替してくれるから、俺達は本部へ一旦戻って、ティミーとジャスミンに降誕祭の贈り物を届けるところを見届けないとな」
「そうなんですね。了解です」
それぞれに頑張って選んだ贈り物を思い出して嬉しくなり、軽く咳払いをしてから小さく深呼吸をして顔を上げる。気を引き締めておかないと、顔が笑み崩れてしまいそうだ。
「ああそうだ。一応報告な」
その時、隣に座っていたカウリが、小さな声でそう言ってレイの腕を叩いた。
「ん? どうかした?」
小さな声でそう言ってカウリを見る。
「俺の古巣の第六班の連中に、降誕祭に合わせてちょっとした贈り物をしたんだよ。万年筆とか作業用のナイフとか、あとは部屋で使える食器とか、まあ大したものじゃあないんだけどさ」
「ああ、皆喜びそうだね」
働き者の第六班の皆ならば、事務用品や作業用のナイフなんかは喜ばれるだろう。あとは、部屋でちょっと休憩でお茶を飲む時なんかには、マイカップがあれば嬉しいだろう。
「で、せっかくなんで全体にちょっと良いものにして、お前の名前も連名で贈らせてもらったんだ。まあ、大した金額じゃあないんだけど一応ラスティにその分の伝票を渡してあるから、後で確認しておいてくれよな」
「ああ、確かに! ありがとうカウリ! それは全然思いつかなかったです!」
降誕祭の贈り物は、もともと未成年の子供に送るのが主なのだが、気のおけない友人同士で贈り合う習慣もある。
実は休暇前に子供達の贈り物選びをした時に、終了直前に思いついてクッキーに相談して、国境の砦にいるリンザスとヘルツァーだけでなく、精霊魔法訓練所の仲の良い友人達にも事務用品を中心にいくつか贈り物を選んだのだ。それを考えれば、確かに、世話になった第六班の皆にレイが贈り物をしても構わないだろう。
満面の笑みで頷くレイを見て、カウリはちょっと得意げに笑った。
「いや、お前のご友人のポリティス商会のクッキーに確認したら、追加で頼まれたのは精霊魔法訓練所のご友人達だけで、第六班の連中の名前は上がっていなかったって聞いたし、念の為ラスティにも後で確認したら、贈り物の届け先の一覧にも載っていなかったから、ちょっとしたおせっかいを焼かせてもらっただけだよ」
「ありがとうカウリ!」
もう一度嬉しそうにお礼を言うレイを見て、反対側に座っていたルークがおもしろそうに笑う。
「ちなみに、後で言うつもりだったけどロディナの竜の保養所にいる職員達には、竜騎士隊の名前で毎年贈り物をしている。まだ見習いだけど、もう成人年齢だから今年からはお前にも一口参加してもらってるよ。これもラスティに伝票を回してあるから、後で手の空いた時にでも確認しておいてくれよな」
「了解です。それでロディナの皆には何を贈っているんですか?」
かなりの人数がいるので、全員に違うものを贈るのは選ぶだけでも大変だろう。密かにそう思って心配していると、笑ったルークが教えてくれた。
なんでも、それぞれに数字の入ったカードが届けられ、後日商人達が、職員達からそれぞれの希望を聞いて品物を届けるのだという。
その際にカードに書かれた数字に応じて選べる品物が変わるらしい。
「まあ例えば、そこで働くのが一年目の職員と十年目の職員だったら、十年目の方が当然数字が大きいんだよ。って事は、それだけいい物が貰える」
「へえ、そんな制度があるんですね」
「まあ、ロディナの連中には本当にお世話になってるからな。これは竜騎士隊とロディナの間での伝統みたいなもんだ」
「へえ、いい伝統ですね。じゃあ、大事に守っていかないとね」
嬉しそうに小さな声でそう呟くレイの言葉に、皆も笑顔で同意するように頷いたのだった。
「さて、これでいいでしょう」
「お二人分ですから、かなりの量になりましたね」
本部の休憩室に飾られた大きなツリーの下には、左右に分かれて大きな二つの山が積み上げられている。
ここにあるのは、ティミーとジャスミンのための贈り物の数々だ。
ここにある竜騎士達をはじめ主だった貴族の方々から届けられた山のような贈り物以外に、実を言うと二人のそれぞれの実家にも大量の降誕祭の贈り物が届けられている。
竜騎士隊の本部へ贈り物を届ける事が出来るのは、竜騎士隊側で確認して許可を出した人物だけで、はっきり言って彼らと直接なんらかの関係がある人物に限られている。
もちろん個人的な友人などもいるので、その辺りは本人に確認を取る事もあるが、未成年の場合は保護者と周りの大人達がほぼ全て管理してくれる。
ティミーの実家には、彼が予想した通りに数年ぶりに名前を見る人物達からの贈り物も多数届いていて、ティミー本人に確認を取った上で、それらの贈り物はすでに全て開封して内容のみが書き出されてティミーに届けられている。
ティミーの書く文字とそっくりに書く事の出来る執事がいるヴィッセラート家では、すでに夫人の指示の元でサインをしただけのお礼のカードの準備が進められている程だ。
「まあ、今年の未成年のお二人は、どちらもオルダム在住の大貴族の嫡男であるご子息と、養女とはいえ一人娘ですからねえ。色々な思惑もあって下心ありの贈り物を寄越してくださるお方も多いようですね」
両家から届けられた贈り物のリストに目を通しながら、ティミーの従卒であるグラナートがしみじみと呟く。
「確かにその通りです。いやあ、ここしばらく竜騎士見習いに貴族ご出身の未成年の方はおられませんでしたからね。降誕祭の贈り物のお世話をするのも久しぶりで腕が鳴ります」
年配の執事の妙に嬉しそうな呟きに、その辺りの貴族の思惑や事情を理解している従卒達は揃って吹き出し、控えていた執事達からも密かな笑いがもれたのだった。




