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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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1941/2488

降誕祭前夜

「いよいよ明日は、降誕祭当日だな。今夜から明日の朝にかけては、またずっと火の守り役で祭壇前にいるんだけど、今夜だけの特別な祭事があるから楽しみにしているといい」

 その日、お城の中庭で行われた始まりの歌に参加していたレイは、無事に役割を終えて子供達と交流したあと精霊王の神殿の別館へ戻る途中にルークからそう教えられて、降誕祭前にもらった分厚い資料に書いていた事を頭の中で必死になって思い出していた。

「えっと、何だっけ。えっと……あ、そうだ! 降誕祭当日の深夜、日付が変わるのに合わせて行われる、生誕の祝福の奉納……でしたよね」

 名前が出てこなくて困っていると、こっそりニコスのシルフ達が教えてくれたので素直にその通りに言ってみる。

「おお、ちゃんと覚えていたな。素晴らしい」

 マイリーのわざとらしく感心した言葉に、タドラもこっそり吹き出して笑っている。

「えっと、今までは深夜の日付が変わる時も、特に何も無かったと思うんだけど、奉納って事は何かあるんですか?」

「それは、自分の目で見て確かめてくれたまえ」

 笑ったルークはそれ以上教えてくれなかったので、廊下を歩きながらこっそりニコスのシルフを見る。


『内緒だよ』

『きっと主様は喜ぶと思うからね』

『楽しみ楽しみ』


 笑ったニコスのシルフ達は、そう言って笑いながら口の前に指を立てた。

「ええ、そんなあ」

 思わずそう言ったレイは、精霊王の神殿の別館へ到着したところで周りの人達が笑顔で自分を見つめているのに気付き、慌てたように一つ深呼吸をしてから何事もなかったかのように顔を上げて胸を張った。

 順番に、精霊王の祭壇に帰還の報告をしてから用意された席に戻る。

「あ、そうだ。これ、エイベルの腕に付けてあげよう」

 ベルトにつけた小物入れから、大急ぎで新しく作った幸運のお守りである十二色のまじない紐を取り出し小さくそう呟いたレイは、立ち上がって軽く一礼してからエイベルの像の前へ向かった。

「なんだ?」

 予定外のレイの動きに、ルーク達が不思議そうにその後ろ姿を見ている。



「エイベル。まじない紐で幸運のお守りを作ったから贈らせてね」

 普段よりもかなり華やかに飾り付けられた祭壇を見て笑顔になり、エイベルの像に向かって小さな声でそう言ったレイは、まずは像の前の小さな祭壇に用意されていた蝋燭を一本手に取りそっと火蜥蜴に火を灯してもらい、いつもよりも大きな燭台に火のついた蝋燭を捧げた。

 そして周囲に人がいない事を確認してから、そっとミスリルの剣を抜いて正式な参拝を行った。

 立ち上がってミスリルの剣を鞘に収めたレイは、手にしていた細いまじない紐をエイベルの像の左手首に手早く結んでいった。

「きっと、いつもはタキスが作ってくれていたんだろうね。タキス程上手じゃあないけど、これも良いでしょう?」

 ごく小さな声でそう言い、改めて深々と一礼してからゆっくりと歩いて席に戻った。

 突然のレイの行動に、何事かと様子を見に行った神官は、エイベル像の左手首に結ばれた真新しいまじない紐を見て笑顔になり、席に戻ったレイに向かって深々と一礼してから戻って行ったのだった。



 そのあとは定刻になる度に、決められた歌や楽器の演奏を皆と一緒に行っていたレイだった。

 用意された夕食を頂いた後、また戻って祭壇の守り役を果たしていたが、次第に集まってきた参拝者達の人数がこの数日とは明らかに違う事に気付いて密かに驚いていた。

「そりゃあお前、今から生誕の祝福の奉納があるんだから、皆それを見に集まって来ているんだよ」

 笑ったルークの言葉に、もう一度こっそりと堂内を見回したレイは、集まってきているものすごい人数を見て、一体何があるのだろうと密かに楽しみにしていたのだった。




「さあ、いよいよ降誕祭当日の一番最初の祭事、一年に一度しか舞う事の無い生誕の祝福の奉納の舞の時間よ。失敗の無いように頑張りましょうね!」

 振り返った笑顔のペトラの言葉に、いつも以上に豪奢(ごうしゃ)な衣装と髪飾りに身を包んだ舞い手の巫女達も揃って笑顔で頷く。

 クラウディアも、胸元のルビーの付いた守り刀をそっと撫でて真剣な顔で頷き、順番に舞い手仲間達と手を叩き合ったのだった。

 最後にお互いの衣装を背中側までしっかりと問題がない事を確認し合ってから、机の上に置いてあった大きなミスリルのハンドベルをそれぞれ手にする。

 その際に小さな音が立ち、集まってきていたシルフ達が一斉に大喜びしてはしゃぎ出す。

 しかし、慌ててハンドベルを手で押さえたクラウディアを見て、シルフ達が一斉にしょんぼりしてみせる。

「ごめんね。これは後で祭壇の前で舞を舞うときに思い切り打ち鳴らすから、それを楽しみにしていてね」

 笑ってシルフ達に謝るクラウディアの言葉を聞いて、一気に機嫌を直したシルフ達が巫女達に優しい風を送ってくれる。巫女達の衣装の裾が、優しい風をはらんでふわりと(ひるがえ)る。

「ありがとうね。じゃあ行きましょうか」

 改めて胸元を整えたクラウディアの言葉に全員揃って真剣な顔で大きく頷き、いつもの倍近くある大きなミスリルのハンドベルを手にした巫女達は揃って部屋を出て行った。


『ミスリルの鐘』

『綺麗な音』

『素敵素敵』

『楽しみ楽しみ』


 顔を見合わせて嬉しそうにそう言って笑ったシルフ達は、部屋を出て行った彼女達の後を追いかけるようにして次々にくるりと回って消えてしまったのだった。

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