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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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1939/2488

お菓子の袋詰め

「では、いってきますね」

 ルークとタドラと一緒に立ち上がったレイの言葉に、ロベリオとユージンが振り返る。

「おう、ご苦労さん」

「いってらっしゃい。楽しんでおいで」

 二人揃って、笑顔でそう言って手を振ってくれた。

 マイリーとヴィゴとカウリも、立ち上がった三人を見て笑顔で頷いてくれた。

「じゃあ、精霊王にご挨拶してから退場だな」

 ルークの呟きにレイも真剣な顔で頷く。

 降誕祭前のこの期間中、基本的に竜騎士達は交代でずっとこの祭壇前に用意された竜騎士専用の席に座って、祭壇の正面にある専用の大きな燭台に灯された蝋燭の守りをしている。

 これは祭壇の守り役と呼ばれるお役目で、この国を守護する竜の伴侶である彼らがここにいる事で、この国が精霊王の祝福をうけているのだと示す意味があるのだ。

 なので、別の務めや休憩などで席を外す際には、必ず精霊王の祭壇に正式に参って離席する事を報告しなければならない。

 ルークとタドラに続き、レイもそれはそれは真剣な顔で精霊王の祭壇に正式に参拝していたのだった。



「僕、この役をすっごく楽しみにしていたんです」

 廊下を歩きながら小さな声で隣を歩くタドラにそう伝える。

「ああ、確かにこの役目は他と違って楽しいよね。甘いお菓子の香る部屋で、普段接する機会のほとんどない若い神官達や第二部隊や第四部隊の兵士達と一緒に、のんびり作業しながらお話出来る貴重な機会だからね。僕も初めての年には第二部隊や第四部隊の兵士達とたくさんお話ししたよ。それに、久し振りに会えた神官様なんかもいたからね。ちょっと嬉しかったよ」

 元々見習い神官だったタドラにしてみれば、このお勤めは人目も気にしないし、久し振りに会える神官もいてとても楽しい時間だったのだ。

「あ、甘い香りがしてきましたね」

 廊下を歩きながら漂ってきた甘い香りに思わずと言ったふうにレイがそう呟くと、横を歩いていたルークとタドラも笑顔になる。

「ああ、毎年この香りを嗅ぐと降誕祭なんだなあって思うんだよな」

 笑ったルークの言葉に、タドラも笑顔で頷く。

「とにかく作業する部屋中にこの甘い香りが立ち込めているからね。俺達は甘いのは好きだから平気だけど、甘いものが苦手なマイリーやヴィゴは、毎年このお役目の時は口呼吸しているって聞くよ」

 笑ったルークの言葉にタドラも小さく吹き出す。

「そうそう。ロベリオ達から聞いたんですが、今年はマイリーとヴィゴとカウリの三人でお菓子の袋詰めを担当していたんですけど、その時にカウリの発案で、定期的にシルフ達に頼んで部屋に甘い香りが立ち込めないように風を吹かせて空気を入れ替えていたそうですよ。おかげでずいぶんと寒かったみたいで、膝掛けの取り合いになったんだとか」

 笑ったタドラの説明に、ルークとレイが堪えきれずに吹き出す。

「なるほどねえ。しかしそこまで嫌な香りかねえ。良い香りだと思うんだけどなあ」

 笑ったルークの呟きに、レイも何度も頷いていたのだった。



 到着した広い部屋には、真ん中に大きな机が置かれていて、机の上には平たい木箱がいくつも積み上がっていた。

「お役目ご苦労様です!」

 部屋に入ってきた三人に気が付いた第四部隊の兵士が大きな声でそう言って立ち上がる。

 その言葉に、部屋にいた全員が慌てたように手を止めて立ち上がった。兵士達は全員直立して敬礼している。

「ああ、ご苦労様です。構わないから座って作業してください。ここは身分は関係ない場ですからね」

 笑ったルークの言葉に敬礼を解いた兵士達が、苦笑いして一礼するとそのまま着席して作業を再開した。

 それを見て満足そうに頷いたルークは、振り返ってレイの腕を叩いて扉の横の壁側を指差した。

「まずはここで手をしっかり洗ってからな。まあ、俺達はウィンディーネに頼んで綺麗にしてもらうんだけどさ」

 ルークが示した部屋の入り口には簡易の手洗い場が設けられていて、綺麗な水が大きな水瓶の中に用意されている。

 言われた通りに洗い場で、ウィンディーネ達にお願いしてしっかりと手を洗ったレイは、一つ深呼吸をしてから広い部屋を見まわした。

 中央に置かれた大きな机の左右には、何人もの若い神官達や第二部隊と第四部隊の制服を着た兵士達が座って作業をしている。

「一応この作業中は、俺達は離れて座るからな。出来るだけ周りの人達と話をするといい。ただしおしゃべりは大歓迎だけど作業の手は止めないようにな」

「わかりました。えっと、じゃあどこに座ろうかな?」

 頷いて改めて部屋を見回しているとニコスのシルフ達が飛んでいって、部屋の奥の方に空いていた椅子を揃って指差した。

「あそこに座れって意味だね。わかりました」

 小さくそう呟いたレイは、ルークに頷いてから嬉々として言われた場所へ向かった。

 それを見たルークとタドラも、離れてそれぞれ空いていた椅子に座った。



「えっと、ここよろしいですか?」

「は、はい! どうぞ!」

 一応そう声をかけると、両隣に座っていた少し年長の二位の神官と第四部隊の上等兵の身分証をつけた兵士が揃ってそう言って立ち上がった。

「だから、ここでは身分は無しなんでしょう? どうぞ座ってください」

 笑って二人の背中を軽く叩くと、椅子を引いて座る。それを見て両隣の二人も一礼してから座った。

「失礼します。ライジェルと申します。二位の位をいただいております」

 隣に座った神官が、レイを見て軽く一礼して名乗ってくれる。

「レイルズ・グレアムです。どうぞよろしく」

「では、作業内容についてご説明させていただきます」

 軽く咳払いしたライジェル神官は、目の前に置いてあった大きな平たい木箱を引き寄せた。

「こちらが用意してある焼き菓子です。これをこちらの薄紙にこのように包んでいただき、こちらの袋に入れてください」

 そう言って、隣の木箱の中から一枚布の袋を取り出して包んだビスケットを入れた。

「この紐を引いていただき、余った部分を折り込んでからここに並べていきます」

 そう言って、また別の木箱に袋を並べた。

「ビスケットを一枚包んで、この袋に入れて紐を引いて口を縛る。余った部分を折りたたんでここに入れる。こうですね」

 真剣な様子で言われた通りに一枚だけビスケットを手に取り、薄紙で丁寧に包んで袋に入れるレイを見て、ライジェル神官だけでなく周りにいた人たちも揃って笑顔で小さく手を叩いてくれた。

「よろしくお願いします。いろんなお話聞かせてくださいね」

 笑顔で一礼するレイの言葉に、こっそり様子を見ていたルークとタドラも笑顔になるのだった。



『ふむ、ここにも特に悪しき影を持つ者はおらぬようだ。となればあとはもう。好きに楽しんでもらうとしよう』

 積み上がった木箱の縁に座っていたブルーの使いのシルフの呟きに、集まっていたオパールとエメラルドの使いのシルフ達も揃って笑顔で頷き、早速作業をしながら話を始めた愛しい主達を目を細めて眺めていたのだった。

 第四部隊の兵士達の中には、突然現れた他のシルフ達よりも大きな竜の使いのシルフ達に気がついている者もいたが、小さく笑って一礼しただけで、素知らぬ顔でせっせとビスケットを袋に詰めていたのだった。

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