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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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1936/2487

女神の神殿にて

 廊下を歩いて通用口から外に出たところで、驚いた事に衛兵が鞍を載せた大きなラプトルの手綱を引いて待っていたのだ。

「ご苦労様です。こちらのラプトルをお使いください」

「急に言ってすまないね。では借りていくよ」

 当然のようにそう言って衛兵の手から手綱を受け取るルディ僧侶を見て、クラウディアの足が止まる。

「あの、一体どこへ行くのでしょうか?」

 戸惑うようなクラウディアの問いに、振り返ったルディ僧侶が苦笑いして街の方を指差した。

「心配しなくても街の外へは行かない。行くのは街の女神の神殿だよ。本当なら馬車を用意したかったんだけど、この時期のオルダムの街の中は、馬車で行くより歩いた方が早いくらいに人が多いからね。それで移動が早いラプトルを借りたんだ」

 それを聞いて一安心したクラウディアだったが、見上げるくらいに大きなラプトルを見て思わず下がってしまう。

 騎獣は人に慣れているから噛むような事はしないと聞いているが、少し開いた口から見える牙は、彼女の腕くらいは軽く噛みちぎれそうだ。

「怖がらなくてもいいよ。ああそうか。もしかしてラプトルに乗った事がなかったりする?」

「いえ、以前少しだけ一緒に乗せていただいた事はありますが……」

「それなら大丈夫だね。では失礼するよ」

 笑ってそう言ったルディ僧侶は、少しかがんでクラウディアを軽々と抱き上げた。そして、その場に座ってくれたラプトルの背中に、彼女を横向きにして座らせてくれた。そしてルディ僧侶もまたがると、ラプトルはゆっくりと立ち上がった。

「きゃあ!」

 予想以上に大きく動いたラプトルの背から落っこちそうになり、咄嗟にルディ僧侶にしがみつく。

「おっと、大丈夫かい」

 左腕一本で彼女を支えてくれたルディ僧侶は、苦笑いしながらそう言って自分にしがみつくクラウディアの背中をそっと撫でた。

「ちゃんと支えているから、大丈夫だよ。ではいってきます」

 敬礼して見送ってくれている衛兵にそう言うと、ゆっくりとラプトルを進ませる。

「シルフ、お願いだから私が落ちそうになったら助けてね」

 小さな声でそうお願いすると、集まってきたシルフ達が笑顔で頷きクラウディアの腕や背中を押さえるふりをした。


『任せて任せて』

『落っこちないように支えてあげるね』

「ええ、よろしくね」

 照れたように笑ってそう言うクラウディアを、ルディ僧侶は面白そうに眺めていたのだった。



 一の郭を通り過ぎるまではかなりの早足で、城壁を越えて街の中へ入った後は人の流れに沿って進み、かなりの時間をかけてようやく女神の神殿が見えるところまでやって来た。

「それにしても、女神の神殿が、私に何の御用なのでしょうか?」

 まだ用事の内容を聞いていなかった事を思い出し、小さな声でルディ僧侶を見上げながらそう尋ねる。

「ああ、君には浄化処置をお願いしたいそうだよ。詳しい話は、向こうへ着いてからな」

 通常、浄化処置は軍の第四部隊から光の精霊魔法を扱える兵士が派兵されてくるはずだが、わざわざ自分に頼むなんて、人が足りないのだろうか?

 密かに首を傾げつつ、それならばルビーのついたあの守り刀を持ってくれば良かったと思い、密かにため息を吐いたクラウディアだった。



 ようやく到着した懐かしい街の女神の神殿は、いつも以上に大勢の参拝客達であふれかえっていた。

「まあまあ、よく来てくれましたね。待っていましたよ」

 出迎えてくれた懐かしい人の顔を見て、ラプトルから下ろしてもらったクラウディアも笑顔になる。

「イサドナ様、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」

 笑顔で手を取り挨拶を交わす。

「とにかく中へ」

 ルディ僧侶にそう言われて、イサドナ様と一緒に中へ入る。

 豪華な応接室へ通されて驚いていると、何とそこには数名の竜人の兵士達と一緒に、竜騎士であるルーク様がソファーに座っていたのだ。

「ああ、女性を寄越してくれるように頼んだんだけど、君が来てくれたんだね。ご苦労様。何だ、それならレイルズも連れてくればよかったな」

 からかうようにそう言われて、耳まで真っ赤になる。

「ああ、悪い悪い。まあ座って。事情を説明するから」

 笑ったルークにそう言われて、何とか深呼吸をして息を整えてから向かい側のソファーにルディ僧侶と並んで座る。

 そしてルークの口から、ここで何があったのかを聞かされて驚きに言葉を無くすクラウディアだった。



「まさかここでそんな事が……それで、ペリエルは大丈夫なのでしょうか?」

「うん、そっちは心配ないよ。施療院へ入院しているのは、彼女を一人にしない為の口実だよ。一応、ラピスが寄越してくれた光の精霊達とシルフ達が、彼女についてくれている」

「蒼竜様がついていてくださっているのならば大丈夫ですね。では、私がするのは部屋の浄化ですね」

 顔を上げたクラウディアの言葉に、真顔のルークが頷く。

「ああ、君には寮の部屋の浄化をお願いしたいんだ。流石に巫女達が住んでいる寮に、男性兵を寄越すわけにはいかないからね。その際にはルディ僧侶に立ち会ってもらうから、部屋の鍵は彼女に開けてもらってくれ」

 ルークの言葉に、真顔のクラウディアも頷く。

「かしこまりました。ではすぐにでも始めます」

「ああ、ちょっと待って」

 立ち上がったクラウディアを見て、慌てたルークも立ち上がる。

「作業の際にはこれを使ってくれ。浄化処置をするのなら石の付いた杖が必要だろうからさ」

 渡されたのは、柄の部分に彼女の親指の爪よりも大きなルビーが(はま)ったミスリルの短剣だった。

「こ、こんな高価なものを……」

「気にしないで良いよ。それがある方が作業が楽だろう?」

 笑ったルークの言葉に一つ息を飲んで頷く。

「確かにその通りですね。では、遠慮なくお借りいたします」

 真顔でそう言って、両手で受け取り深々と一礼する。

「ああ、じゃあよろしく。万一何か問題があれば、いつでも俺にシルフを飛ばしておくれ」

「かしこまりました。では行ってまいります」

 もう一度深々と一礼したクラウディアは、ルディ僧侶と一緒に神殿の裏にある巫女達が住む寮へ向かったのだった。

 彼女の後を、何人ものシルフ達が慌てたように追いかけていくのをルークは見送り、自分も竜人の兵士達と一緒に現場の確認の為に倉庫へ向かったのだった。

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