詳しい報告とレイの役目
交代で休憩を取りながら、一晩中ずっと精霊王の祭壇の前で定刻の祈りと歌や演奏を捧げていたレイ達だったが、突然、マイリーが伝言のシルフの呼び出しを受けて途中で席を外したままなかなか戻って来ず、その後に席を外したルークも同じく戻ってこない。
結局、ロベリオがマイリーの代理で定刻のお祈りの際に、竜騎士を代表して精霊王の彫像に正式に参拝する役を担ったりもした。
ようやく二人揃って揃って戻ってきたと思ったら、今度はアルス皇子がマイリーとヴィゴを連れて下り、レイはどうにも妙に落ち着かない時間を過ごしていた。
しかし、マイリーからこちらの事は気にせず目の前の務めをしっかりと果たすようにと言われていた事もあり、レイは内心の不安に蓋をして出来るだけ平然と振る舞い、定刻のお祈りの為にミスリルの鈴を持って整列して出てきた神官様達と一緒に、それはそれは真剣にお祈りしていたのだった。
マイリーとヴィゴが戻ってきたところで、マイリーから別室にルークが待っているから若竜三人組とレイはすぐに行くように言われて、揃って首を傾げてからとにかく別室へ向かったのだった。
「降誕祭の期間に祭壇の守りをしていて急遽呼び出されると、また何か碌でもない事が起こったんじゃあないかって、つい考えるよなあ」
「確かに。もう騒動は勘弁してくれよな」
待っていた執事の案内で祭壇裏の廊下を歩きながら肩をすくめるロベリオの呟きに、隣でユージンも同じようにそう言ってうんうんと頷いている。
若竜三人組と一緒に呼び出されたレイも、言葉には言い表せない不安に密かに身を震わせていた。
「お待たせしました。一体何事ですか?」
部屋に入ったところで、机の上に並べた資料を整理していたルークにロベリオが代表して尋ねる。
「おう、ご苦労さん。ちょっと緊急事態だったんでね。バタバタして悪かったな」
顔を上げたルークの緊急事態という言葉に全員揃って真顔になる。
「何があったんですか? まさかこの時期に国境で何かありましたか?」
真顔のロベリオの質問に、顔を上げたルークが首を振る。
「さすがにこの時期に軍を動かすほどタガルノも馬鹿じゃあないさ。戦いで死ぬより先に、凍死者が続出するぞ」
「ですよね。第一、国境で戦いになったのなら、そもそもこんな悠長な事はしてませんよね。即座に全員に出撃命令が下るはずです」
こちらも真顔のタドラの言葉に、レイも同じ事を考えていたので真顔で頷く。
「まあ、座ってくれ。一応未然に防げた事件ではあるんだが、念のためお前らにも聞いておいてもらおうと思ってな」
机の上に書類の束を置いたルークは、一つため息を吐いてから街の神殿であった事件のあらましを語った。
「ええ、ペリエルって、この前マイリーの故郷からオルダムへ来た女神の見習い巫女の子ですよね。僕は訓練所でも一緒になった事がないけど、クラウディア達から、街の神殿から一人で訓練所まで通って来ている彼女は、精霊魔法に関する事だけじゃあなくて、いろんなお勉強もすごく頑張ってるって聞いていますよ。そんな彼女に、まさかそんな事があったなんて。しかも、亡くなったお父上の姿を使って騙そうとするなんて……」
詳しい話を聞き、レイは湧き上がる怒りを抑える事が出来なかった。
亡くなった人の面影をちらつかせて闇の側へ引き摺り込む。精霊王の物語やもう一人の英雄の物語の中で、何度も語られた手段だ。
確かに罠だと分かっていたとしても、焦がれるほどにもう一度会いたいと願った失った人が突然現れたら、どんな勇者だって騙されてしまうだろう。
もしかして、精霊王が気まぐれを起こして生き返らせてくれたのではないか? と、馬鹿な考えだと分かっていても願わずにはいられないだろう。
彼女の受けた悲しみの深さを考えてぐっと拳を握る。
そして、自分に置き換えて考えてみた。もしも、もしも父さんや母さんが生き返って目の前に現れたとしたら……。
「ああ、そうか。これって闇の目に囚われた時と全く同じだよ。闇の眷属達のする事は変わらないんだね」
そこである事実に気が付いたレイは、嫌そうに首を振って小さな声でそう呟く。
しかしその場にいた全員に聞こえていて、全員揃って目を見開いてレイを見つめる。
「ああ、確かに以前聞いた話の通りだな。奴はお前のお母上の姿で現れ、お前を騙して取り込もうとしたんだよな」
ロベリオが、辺りを憚るようにごく小さな声で、レイに話しかける。
「あの時は、エイベルが導いてくれて、最後はブルーが助けてくれたんだけどね」
小さく頷いたレイは、小さくため息を吐いて肩をすくめた。
「絶対に許される事じゃあない。死んだ人を冒涜するなんて」
怒りを堪えるかのように拳を強く握るレイの呟きに、ルーク達も揃って頷く。
「今回の一件は、ラピスを中心に他の竜達まで加わって、シルフ達と光の精霊達を通じて詳しい調べを進めてくれている。恐らくだけど、女神の神殿の内部に、今回の一件を中から手引きした奴がいるはずだ。それが分かれば真犯人に繋がりそうなんだけどなあ」
『黒き精霊が消滅して支配の糸が途切れてしまっている以上、辿れるかどうかは望み薄だがな』
レイの右肩に現れたブルーのシルフの声に、ルークがため息を吐く。
「だよなあ。黒き精霊が消滅している時点で、それを誰が寄越したかなんて、調べるのは事実上不可能だって」
『まあ、次にこのような事があれば、必ず現場を押さえてやるさ。ウィスプ達にも万一にも次があれば必ず捕らえよと命じてある』
「それと、闇の結界の確保だな」
苦笑いしたルークの言葉にブルーのシルフが大きく頷く。
『我は、もしもそのような事が起これば、そちらから真犯人へと辿れるのではないかと考えている。女神の神殿をはじめ、街の至る所にウィスプ達を配置した。これで、何処で何があろうともすぐに対処出来るだろう』
自信ありげなその言葉に、ルークが笑って頷く。
「それに関しては、申し訳ないけど全面的にお任せするよ。何か手伝える事があればいつでも言ってくれ」
『これは、我が精霊王より与えられし聖なる務めにも関わる事件だからな。気にする事はない。其方達は、人にしか出来ぬことをしてくれれば良いさ』
真顔で頷いたルークは、一転して笑って両手を上げてみせた。
「って事なのでしばらくの間、俺やマイリーは急に抜ける事もあるだろうからその時はよろしくな。ああそうだ。このあとの定刻の祈りの時の正式な参拝、あれ、俺がするはずだったんだけどまたちょっと抜けるから、代わりにレイルズに頼むよ。よろしくな」
「ええ、そんな……わ、分かりました。なんとかやってみます」
さりげなく突然に重要な役目を振られてしまい、慌てたレイは咄嗟に断りかけたのだが、これも経験だと考えてなんとか笑顔で頷いたのだった。
レイの右肩に座っていたブルーのシルフは、自分の務めを懸命に果たそうとするレイの頬に笑顔で頷き、柔らかな頬にそっとキスを贈ったのだった。




