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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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1929/2488

舞台裏のひと時と蒼の森の家族達

「お疲れ様でした!」

 整列した混成合唱団の子供達の元気な挨拶に、レイだけでなくルーク達も全員が笑顔になった。

 始まりの歌の祭事を終え、今度はレイを先頭にして舞台となった中庭から下がった竜騎士達は、舞台に出ていた全員が下がるまでその場に留まっていた。

 そして、まずは合唱団の子供達と順番に手を叩き合っていく。

 これは、竜騎士様と直接触れ合えると、特に参加した子供達が楽しみにしている貴重な時間なので、実は子供は苦手なマイリーも、この時ばかりは笑顔で目を輝かせる子供達の相手をしている。

 レイは、参加している子供達に負けないくらいの満面の笑みで、歓声を上げる子供達としっかりと手を叩き合っていた。

 実は、昔の話だがこの交流の際に未発見の精霊魔法の適性がある子供が、竜騎士と接したおかげで精霊達が大騒ぎをして発見された事があり、以来、これは竜騎士の正式な役目として降誕祭の間中毎日行われているのだ。

 ちなみにこの混成合唱団は、貴族の、未成年で十代の子どものみで構成されている。通称、子供倶楽部の活動の一つだ。特に、この合唱団には歌の上手い子が多く、成人後はそのまま有名な歌の倶楽部に入る事も多い。



「お疲れ様! 一つ夢が叶ったね」

 神官に先導された子供達が帰っていくのを見送り、そのまま整列していた第四部隊と第二部隊の兵士達と敬礼を交わす。

 しかし、すぐ近くにいたキムに、レイはついうっかりいつもの調子で話しかけてしまった。

「あ、こ、光栄です!」

 真っ赤になったキムが咄嗟にそう答えて直立する。

 初めてこの始まりの歌をレイと一緒に見に行った時、キムがいつかこれをやってみたいと話していたのだ。次の年にも、カウリも一緒に始まりの歌を見に行って、同じようにあれをやったら気持ち良さそうだと言って笑った覚えがある。

 実際に、割と本気で願っていたのは事実だが、まあ第四部隊で火の精霊魔法を使える者ならば、これは誰もが一度は言ったことがある、いわばお約束の会話でもある。

 まさかレイがそんな話を、彼の本気の夢として覚えていたなんて思ってもみなかったキムは、大勢の前でいきなり話しかけられて羞恥のあまり真っ赤になっていたのだった。

 隣では、その時の会話を思い出したマークが、直立したまま必死になって吹き出しそうになるのを堪えていたのだった。



「いよいよ降誕祭前の祭事が始まりましたね。あんな無邪気な様子で、レイは本当にちゃんとやれているでしょうかねえ?」

 火が少し小さくなった暖炉の前に屈み、タキスは小さな声でそう呟いた。

 そして、オルダムにいた頃、恋人同士だったアーシアと一緒に毎年始まりの歌を聴きに中庭に通った事を不意に思い出した。

 ツリーに灯された蝋燭の灯りに照らされた彼女の笑顔を、うっとりと目を閉じて竜騎士達の歌を聴くアーシアの横顔を、タキスは今でも昨日の事のように思い出せる。

「懐かしいですね……」

 アーシアを失って以降も、幼かったエイベルを連れて、毎年忙しい合間を縫って必ず一度は二人で始まりの歌を聴きに行った。

 まだ小さかったエイベルに肩車をしてやり、当時の竜騎士様を見せてやった時の事も思い出した。

 格好いい。僕も竜騎士になりたいと目を輝かせるエイベルに、竜騎士になれるのは人間だけなのだと言えずに困った時の事まで思い出してしまって、タキスは不意に浮かんだ涙をこっそり拭った。

「レイは本当にちゃんとやれているのでしょうかねえ」

 もう一度小さな声でそう呟いて、暖炉に追加の薪をくべる。

「そりゃあ、レイならばそれはそれは真剣な様子で務めているのではないか?」

 新しい薪の束を抱えて持ってきてくれたギードが、タキスの呟きが聞こえたらしく、そう言って笑っている。

「今までは、ほぼ貴族の人達と軍人の間だけでの勤めだけだったが、降誕祭は、花祭りと並んで城に勤める貴族階級以外の人の目にも竜騎士見習いとして間近で触れる貴重な機会だからな」

 アンフィーと一緒にジャガイモの皮剥きをしていたニコスの言葉に、タキスとギードが揃って振り返る。

「ああ、確かに言われてみればそうですね。花祭りと降誕祭の始まりの歌くらいしか、竜騎士様が直接貴族以外の人の目に触れる機会なんてありませんね」

「まあお城に勤める人なら、精霊王の神殿の別館や女神の神殿の分所で偶然お見かけする事もない訳ではありませんがね」

 薪の束をギードと手分けして暖炉の横に積み上げながら、当時を思い出したタキスがそう言って笑う。

「どうしておるのだろうなあ。ついこの間、オルダムへ行くのを見送ったばかりなのにもう懐かしいよ。レイに会いたいのう」

 薪の束をくくっていた麻紐をまとめて結びながら、大きなため息を吐いてツリーを見上げるギードの言葉に、全員が揃って頷いたのだった。

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