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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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深夜の務めと密かな思いつき

「これが護符を入れる袋なんですね。へえ、ここにもすみれの花の判が押してある。この護符も綺麗ですね」

 渡された小さな紙の袋を手に取ったレイは、感心したように小さくそう呟いた。



 懐かしい味のビスケットとカナエ草のお茶をいただいた後は、若竜三人組と一緒に別室へ通されてそこにいた若い神官や神官見習い達と一緒に、用意されていた小さな紙袋に神殿の印が押された護符を入れる作業を手伝った。

 これには、若い神官達に普段はほとんど接する機会のない竜騎士達と話をさせるという目的もある為、一定時間が過ぎれば席替えを行う。その為、作業の手を止めない限りはおしゃべりも推奨されているのだ。

 ルークからその説明を聞いていたレイは、出来るだけ近くに座った人達全員と話をするように気をつけながら過ごした。

 中にはレイとさほど歳の変わらない若い神官達もいて、レイも請われるままに普段の本部の様子や夜会での出来事などを面白おかしく話して聞かせ、神官達からは、神殿内での普段のお勤めや苦労話などを聞いては顔を見合わせて笑い合った。

 途中で隣になった、フィラムと名乗ったまだ十一歳の神官見習いの少年は、唯一の肉親だった母親を急な病で亡くして行き場を無くし、一度は浮浪児となるも運良く神殿に保護されてオルダム郊外にある神殿が支援する孤児院で二年間過ごし、今は神官見習いとして神殿で働いているのだと言う。

 その際に彼が世話になった孤児院では、レイも支援している基金から様々な援助を受けていたのだと聞き、少しでも自分のしている事が身寄りのない子供達の役に立っている実際の事例を見せられて、レイは嬉しくなったのだった。



「僕の家族が言っていた言葉なんだけれどね。生きてさえいれば、いつかはみんな笑い話になるって。だから、何があっても絶対に死なないって僕は家族と約束したんだ。だからフィラム君も約束して。何があっても絶対に死なないって、生きる事を諦めないって」

 孤児院にいた頃は本当に辛くて、何度も死にたいと思ったのだと言って笑うフィラム少年の言葉に、レイは思わず作業の手を止めてフィラム少年の手を取り、真剣な顔でそう言って小指を絡めた。

「はい、約束します! 何があっても生きる事を諦めません。生き抜いて、いつか精霊王の御許にて輪廻の輪に戻る時には、胸を張って笑顔で生き抜いたのだって、そう言えるように精進します!」

「うん、応援しているからしっかり頑張ってね!」

 目を輝かせるフィラム少年とレイの約束の言葉に、周りで聞いていた他の神官達も笑顔で何度も頷いていたのだった。

「ほら、作業の手は止めない」

 笑ったルークの言葉に揃って舌を出す二人を見て、あちこちから堪えきれない笑い声が聞こえてきたのだった。



 時間いっぱいまでおしゃべりを楽しみながら護符を紙袋に入れる作業を手伝い、神殿が用意してくれた普段よりもかなり質素な夕食を文句も言わずに綺麗に平らげたレイは、ルーク達と一緒に礼拝堂へ戻り、おとなしく定刻の祈りの際に竪琴を演奏したり歌を奉納したりして真面目に過ごした。

 しかし夕食の後にはもう巫女達の奉納の舞は一度も無くて、それだけは少し残念に思ったレイだった。

 深夜近くになると、さすがに参拝者達の姿はまばらとなり、レイ達も定刻の祈りの時間以外は座席から立ち上がって祭壇前へ移動して、ゆっくりと正面から祭壇を眺めたりもしていた。

「確かに綺麗ですね」

 ゆらめく蝋燭の炎に照らされた精霊王の彫像は、普段よりも優しい顔に見えるし、同じくいつもよりも優しい笑顔に見える壁面の十二神像達も、まるで今にも動き出しそうに見えて小さく笑ったレイだった。

 十二神像と同じくらいに立派な花とお供物に囲まれたエイベルの像は、レイの記憶にあるそれとそっくりと言うわけではないが、目元のあたりは似ている気がする、そして記憶にあるそれよりも、もう少し大人びているようにも見えた。

「何だか、エイベルもいつもよりも笑顔な気がするなあ。今年の降誕祭の贈り物は何を貰うんだろうね」

 エイベル像の前に蝋燭を捧げて正式に参ったレイは、顔を上げて小さくそう呟いた。

 未成年のままに精霊王の御許へと旅立っていった子達は、輪廻の輪へと帰るまでの間、天の山の森で穏やかに過ごしながら毎年降誕祭には精霊王から直接贈り物を貰うのだと言われている。

「そっか、僕ももう成人年齢なんだからエイベルにも何か贈り物をしようかな」

 もちろん、故人であるエイベルに実際に届くわけではないが、それは何だか素敵な考えのような気がした。

「あ、そうだ。幸運のお守りである十二色の色糸でまじない紐を編んで、エイベル像の左腕に付けてあげても構わないかな?」

 時折、エイベル像には子供が作ったと思われる花輪が被せられたり、いかにも手作りといった風情のペンダントが首元に飾られたりしている事がある。

「どう思う? 勝手に手首に付けちゃあ駄目かな?」

 小さな声で、右肩に座るブルーのシルフに尋ねる。

『良いのではないか? だがそういった贈り物は、ある一定期間を過ぎれば回収されて火にくべられるがな』

「焼かれちゃうのかぁ。それはちょっと残念だなあ。でもいいや。じゃあ、降誕祭までに一つくらいすぐに作れるから、作って付けてあげようっと」

 小さく笑ってそう呟いたレイは、交代して休憩している時間に急いで兵舎の部屋まで戻り、色糸の入った木箱を抱えてすぐに戻って来た。

 そして、せっせと時間を見つけては作業を進め、降誕祭前日までに十二色の綺麗なまじない紐を完成させたのだった。

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