それぞれの降誕祭の始まりの準備
ルークとマイリー、ヴィゴの三人と一緒に早めの昼食を終えたレイは、あらためて身支度を整えて城にある竜騎士達のための部屋へまずは向かった。
そこでアルス皇子と若竜三人組とカウリが合流して、竜騎士達が全員揃ったところで精霊王の神殿の分所へと向かった。
アルス皇子を先頭にした竜騎士達は当然のように注目の的だが、彼らを見て、ああ降誕祭が始まるんだね。などと話をしている貴族の人達の声が漏れ聞こえてきて、レイの背筋も自然と伸びる。
そんな彼を見て、ニコスのシルフ達は満足そうに頷き合って笑っていた。
そして到着した精霊王の神殿の祭壇の余りの美しさに、レイは感激の声を上げることになったのだった。
「うわあ、すごく……すごく綺麗ですね」
到着した精霊王の神殿の分所では、普段とは違って壁面に居並ぶ十二神の彫像の前にもそれぞれに台座が設けられ、普段よりもはるかに豪華な燭台が飾られ、積み上げられた果物や決められたお菓子、あるいはワインや固く焼きしめられたパンなどが、それぞれ木製のお皿に飾り付けられて供えられていた。
豪華な燭台には全て蝋燭が灯され、優しい光に十二神像は包まれていたのだった。
真正面に立つ、一番大きな精霊王の彫像も、揺らぐ蝋燭の光に照らされて、普段よりも優しい表情に見える。
祭壇前にも大きな燭台がいくつも並べられていて、そのほぼ全てに蝋燭が灯されている。
時折、専用の道具を持った若い神官達が、燃え尽きた蝋燭やごく小さくなった蝋燭を掻き落として掃除している。
空いた場所には、参拝者達がすぐに新しい蝋燭を灯して祈りを捧げている。
「この時期の神殿は、本当に綺麗なんだよな」
「夜になるともっと綺麗だからな。楽しみにしているといい」
目を輝かせるレイを見て、ルークとカウリが笑って教えてくれる。
「どうしてカウリは……ああ、第六班にいた頃に見たんだね」
カウリの言葉にレイが驚いたようにそう聞きかけて、一人で納得している。
「おう、初めてオルダムに配属になった年に、第六班の皆と一緒にここへ見にきて感激したんだよな。ちなみに、俺は街の精霊王の神殿の降誕祭当日の様子も知ってるぞ」
得意げなその言葉に、レイだけでなくルークやマイリー達までが揃ってカウリを振り返る。
「うおお、びっくりした。ああそうか。皆知らないのか」
苦笑いするカウリの言葉に、顔を見合わせたヴィゴとマイリーは揃って頷いた。
「後で詳しく教えてくれ。それは是非とも知っておきたい」
「了解っす。まあ、見る限り街の神殿とここに大した違いはありませんがね」
真顔のマイリーの言葉に、肩をすくめたカウリも真顔で頷き、揃って背筋を伸ばした。
今の彼らがいるのは、神殿の祭壇横に設けられた専用の席で、参列者達の方を向く形になっている。
「今日は、竪琴の演奏があるんですよね。ここでするんですか?」
一つ一つの座席の前後左右が少しずつ離れていて、かなり余裕を持った作りになっている。
「おう、基本的にはこのままここで演奏を行うよ。ちなみにヴィゴは、今回はコントラバスだから後ろに下がるけどな」
ルークの言葉にこっそり後ろを振り返ると、座席の後ろの広い場所にしっかりした丸椅子が置かれている。あの椅子なら大柄なヴィゴが座っても大丈夫だろう。
祭壇を挟んだ反対側に並んで座っている神殿付属の楽団の人達が、新たな曲の演奏を始めた。
彼らはずっと何人か毎に交代しながら演奏を行なっていて、神殿にはずっと音楽が流れている。
聞き慣れた精霊王への祈りの曲を聴きながら、目を輝かせたレイは、揺らぐ蝋燭に照らされた精霊王の彫像の横顔をずっと見つめていたのだった。
「はあ、久し振りの精霊王の神殿での舞の奉納ね」
「緊張するわ」
「そうね。ちょっと期間が空いたから、確かに緊張するわね」
舞い手仲間のエルザの言葉に、ペトラとエミューも苦笑いしている。
持ってきた簪を確認していたクラウディアも、真剣な顔で小さく頷く。
「それに、竜騎士の皆様も一緒に演奏してくださるのだもの。失敗は許されないんだからね」
笑ったエルザに背中を叩かれてしまい、声をあげそうになって慌てて口を塞ぐクラウディアを見て、他の三人は楽しそうに笑っていた。
「久しぶりのレイルズ様との共演ね!」
「きょ、共演だなんて! べ、別にいつも通りです!」
誤魔化すように立ち上がって帯を無意味に結び直すクラウディアの顔は耳まで真っ赤になっている。
「あらあら、どうしたの? 顔が赤いわよ〜〜無理なら今日の舞は別の人に代わってもらいましょうか〜〜?」
もちろん、緊急事態でも起こらない限りそんな事はないのだが、真っ赤になるクラウディアを見て他の二人も目を輝かせて彼女の背中や腕を叩く。
「もう、からかわないでください!」
真っ赤になったクラウディアは、口を尖らせて文句を言っているが、その顔はこれ以上ないくらいの笑顔だ。
最近は忙しくてなかなかゆっくり会う事も出来ないレイの、公式の場での立派な姿が垣間見られるこの時間を、クラウディアはとても楽しみにしている。
周りの皆も、そんな彼女の気持ちを全部知った上でのからかいだ。
「じゃあ、そろそろ準備を始めましょうか。しっかりやりましょうね!」
笑顔のエルザの言葉に全員揃って頷き、立ち上がってまずはお互いの衣装の確認から始めたのだった。




