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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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タガルノの異変の始まりと本の虫

「なんだ、これは……」

 国境を超えてタガルノに足を踏み入れた途端に、キーゼルは呻くような声をあげた。

 ガイの言っていた通り、足元がざわつくような不快感は言い表せないほどの強さになっていた。

「うわあ。俺がいた頃よりも酷くなってるぞこれ」

 隣では、ガイも同じように顔をしかめていた。


 彼らがいるのは、五の月に戦いのあった場所からかなり南下したタガルノとの国境の関所近くだった。

 ファンラーゼン側からタガルノに入るには、エピの街からタガルノへ繋がる街道沿いにある関所しか無い。それ以外の場所は、国境沿いの全ての木が伐採されて空白地帯となっているため、例え彼らでも無断で国境を越えるのは難しかったからだ。

 正規の手続きを終えて堂々とタガルノ入りした二人だったが、足元から来る不快感に既に帰りたくなっていた。

「これは一体何事だ?」

 街道沿いにラプトルを引いて自分の足で歩いていた二人だったが、人通りが切れた途端に一目散に森の中へラプトルに飛び乗って突っ込んで行った。

「あれ、ここは普通だぞ?」

 ガイの言葉にキーゼルも同意した。

「ふむ。全く違和感が無いわけでは無いが、森の中は先程の街道の比では無いな」

 そう呟くと、キーゼルはラプトルから降りて地面に膝をつき、そっと手袋を外して掌を地面につけた。

「ノームよ。このざわつきは一体何事だ?」

 しかし、普段ならすぐに出て来てくれるはずのノームが全く現れない。

「ノームよ。如何した?」

 もう一度、ややきつめの口調で地面に向かって話しかける。

 ようやく、一人のノームが地面から現れた。

 しかし、その姿は後ろの地面が透けて見えるほどに弱々しく、完全な実体化が出来ていなかった。

『黒き民よお助けを』

「何があった?」

 座り込んで優しく話しかけるキーゼルを見て、ガイも慌ててラプトルから飛び降りて地面に座り込んだ。

『何者かに邪魔されて大地の力が弱まっております』

『我らの力も……』

 それを聞いたキーゼルは、顔を上げて空中に向かって大声で叫んだ。

「シルフ! 一族の皆に、タガルノに来るように非常召集を掛けろ!異常事態だ」

 一斉に現れた彼女達は、キーゼルの言葉に頷くと、かき消すようにいなくなった。

「キーゼル……もしかして……」

 顔色を変えたガイに向き直り、キーゼルは険しい顔のまま頷いた。

「間違い無い。タガルノの何処かの要石が外されようとしている。何処なのかまず徹底的に調べるぞ、急げ!」

 既にノームの姿は無い。

 無言で地面を見つめていたガイも、慌てて自分のラプトルに飛び乗ると、キーゼルの後に続いた。


「お前は俺から離れるな」

 森の中をラプトルに乗って走りながらそう言われて、ガイは思わず顔を上げてキーゼルを見た。

「何でだよ。調べるんなら、別行動した方が効率が良いだろ?」

 しかし、急にラプトルを止めたキーゼルは首を振った。

「駄目だ。なんだか嫌な予感がする。単独行動はやめた方が良い」

 予知能力ほどでは無いが、キーゼルの勘はよく当たるのだ。大抵は、嫌な方に。

「うわあ。素敵な予感をありがとう。俺、絶対キーゼルから離れない事にしようっと」

 軽い口調で冗談めかして言っているが、ガイの表情は真剣そのものだった。

「国境に近い箇所から、順番に確認する。付いて来い」

 ラプトルに軽く合図して走り始めたキーゼルの後を、遅れずにガイも続いた。

 キーゼルやガイの周りには、時折シルフが現れて、各地に散らばった仲間達の声を届けていた。


 世界中に散っている仲間達の最低限の人数がここに揃うまで、果たしてどれくらいの時が掛かるのか。どう考えても簡単な事では無い。

 ラプトルの背の上で、キーゼルは唇を噛んだ。


 万一、本当に要石が外されているのだとしたら、何としても封印し直さなくてはならない。

「よりにもよってタガルノで……古竜が動けぬ今、誰がその役割を果たせると言うのだ……」

 無意識に胸元に伸びた左手は、ある物を握りしめていた。

「聖デメティルよ。今度こそ、貴女のお側に行く時やも知れませぬ。どうかこの世界に安寧を……そして、どうか我が進む道をお守りください」

 祈りながらキーゼルが握りしめているそれは、レイやガイと同じ木彫りの竜のペンダントだった。

 しかし彼が持っているそれは、ガイの持っていたペンダントよりも更に年季が入っていて、色褪せてあちこち傷だらけだった。



 図書館から戻ったレイはその手に、大きな袋に入れられた本を抱えていた。

 本によっては城内に限り貸し出しが出来ると教えてもらったレイは、リーブルに許可を貰って、特別にこの幻獣図鑑と精霊図鑑を貸し出してもらったのだった。

 嬉しくて嬉しくて、抱えた二冊の本を何度も抱きしめる。

「良かったな。貸し出してもらえて」

 ルークの笑い声に、レイは何度も頷いた。


 本来であれば、まだ騎士団にも竜騎士隊にも籍のないレイは、本を閲覧は出来ても貸し出してはもらえない。

 しかし、多くの封印された本を解いた事や、竜騎士の保証がある彼を、司書官長であるリーブルは信用して貸し出してくれたのだ。

「ありがとうございます。大事に読みます」

 嬉しそうに本を抱える彼を見て、リーブルも嬉しそうに笑ってくれた。

「本がお好きとは嬉しいですね。此処には一生かかっても読みきれないほどの蔵書がありますから、是非、本棚単位で制覇してみてくださいね」

「本棚単位で制覇って、無茶言わないでくださいよ」

 苦笑いする若竜三人組を見たルークは、自慢気に胸を張った。

「俺は、三段まで制覇したぞ。今四段目を攻略中だ」

 驚く三人とは別に、レイが不思議そうにルークに尋ねた。

「え? 三段とか四段ってどう言う意味?」

「さっき、その本を借りる時に、レイルズの名前の書いた紙にその本の題名を記入しただろ。あれが図書札(としょふだ)、あの紙には個人単位で通し番号が振ってあって、いつ誰が何の本を借りたか分かるようになってるんだ。一枚の紙に五十冊迄書ける」

 頷くレイを見て、ルークは更に説明を続けた。

「俺はこっちに来てからしばらく、とにかく勉強三昧だったからね。此処に通い詰めて毎日朝から晩までひたすら本を読んでたんだ。気がついたら自分の図書札が二枚目三枚目と増えていって、ある時彼に言われたんだ。おめでとう一段目を制覇しましたねって」

「1段目?」

「そう、あそこの本棚って一段に百冊程度並ぶらしいんだよ。それで司書の間では、借りた本の数が百冊で一段、って言う風に呼ぶらしい。大体、数年で一段らしいよ。俺みたいに一年以内に二段目以降まで借りる人は少ないらしくてね。ちなみに、十段で本棚一つ分だぞ」

「凄い! じゃあルークは三百冊以上の本を読んでるって事?」

「まあそうなるな。最近はさすがにそこまでの速さでは読んでないから、攻略はゆっくりだけどな」

「ルークは何の本を読んでるの?」

 レイの質問に、ルークは笑いながら答えた。

「お前と同じで、歴史や地理はさっぱりだったからな。まずは歴史関係。凄い量が有るけど、まあこれは読むだけだからな。地理は、戦術や兵法と密接に繋がってるから、それは教授達に教えてもらいながら関連図書をひたすら読み漁ったよ」

「普通、俺達貴族の間では、十代で一段、二十代で二段目まで進んでいれば上等って言われてるんだけど、ルークは此処に来たのが十六の時だからね。それでもう四段目って凄いや」

「此処で読んでる本を含めたら、もっと凄い数になるけどな」

「僕も頑張ろうっと」

 満面の笑みのレイに、ルークも笑顔になった。

「好きなだけ本が読めて貸してもらえるって、凄い環境だよな」

「うん。僕、此処に住みたいくらいだ」

 振り返って夕闇の中に見える王立図書館の建物を見て、嬉しそうに笑った。

「それはさすがに無理だけどな。いつでもまた連れて来てやるぞ」

 ルークの言葉に、レイは嬉しそうに笑って大きく頷いたのだった。


 当たり前に本がある環境で育った貴族出身の三人と違い、ルークは、本がどれだけ高価で、簡単に手に入らない物であるかをよく知っている。

 その本を好きなだけ読めて、ましてや貸してもらえるなんて。

 ここに来て知識と教養の重要性を思い知ったルークにとって図書館は、好きに手に入る知識の宝庫だったのだ。



「レイルズへの贈り物には、本が良さそうだね」

「そうだな、何が良いか考えるのが楽しそうだ」

「それなら重ならないように、贈る前に皆で相談しないとね」

 こっそり話す三人の声は、レイには聞こえていないようだった。

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