お疲れ様とおやすみなさい
「おかえりなさいませ。お疲れ様でした。夜会は……楽しかったようですね」
本部の部屋で出迎えてくれたラスティは、まだルークに襟首を捕まえられたまま子供みたいにゲラゲラと笑っているロベリオとレイを見て、苦笑いしながらそう言った。
「ただいま戻りました。すっごく楽しかったです! えっと、後で金額指定札に書いた分が請求されてくると思うから、金額を見てびっくりしないでね」
もうすっかり酔いの覚めたレイが、まだ酔っ払っているロベリオを押さえながらラスティを振り返って誤魔化すように笑った。
「おや、そんなに沢山だったのですね。了解しました。間違いが無いようにしっかりと請求内容の確認をいたします」
「おう、何しろ俺の最高金額の記録を塗り替えられちまったからな」
ルークが笑いながらそう言って、捕まえていたロベリオを彼の担当従卒であるエンバードに引き渡す。
ロベリオを受け取ったエンバードだけでなく、ラスティやタドラの担当従卒のヘルガーやユージンの担当従卒のアーノルドまでもが揃って目を見開いてルークを振り返った。ルークの隣では、ルークの担当従卒である小柄なジルまでもが驚きに目を見開いて固まっている。
「おう、そりゃあもう余裕で上回ったよ。マイリー達から預かった金額指定札も遠慮なく使わせてもらったから、あとはよろしく!」
笑顔で胸を張るルークの言葉に、従卒達が揃って吹き出す。
「かしこまりました。それでは届いた内容をしっかりと確認させていただきます」
「おう、よろしく頼むよ。それじゃあ解散!」
ルークの大声に、咄嗟に従卒達が揃って直立し、レイも慌ててそれにならう。
そして酔っ払い三人組は、それに若干遅れて揃って直立した。しかし、全く直立出来ておらずふらふらと頭が左右に揺れている。
「では、おやすみにゃさい!」
いつもよりもかなりだらしない敬礼をしたロベリオの大声に、全員揃って吹き出して大笑いになったのだった。
「レイルズ様は、ロベリオ様達と違ってお酒は残っていないように見えますが、大丈夫ですか?」
それぞれの従卒と一緒に部屋に戻る彼らを見送ったラスティは、自分で剣帯を外して上着を脱ぐレイを振り返った。
「うん、大丈夫だよ。えっと、それじゃあお湯を使ってくるね」
脱いだ上着をラスティに渡したレイは、笑顔で手を振って湯殿へ駆け込んでいった。
「まあ、今夜の夜会ではレイルズ様に相当な金額が集まるとは予想していましたが、まさかルーク様の見習い時代の記録を塗り替えてしまうとは、いやあ、本当に末恐ろしいですね」
受け取った上着をハンガーにかけてからブラシをかけ始めたラスティが、呆れたように小さく笑ってそう呟く。しかしその顔はとても嬉しそうな満面の笑みだ。
それから手早くカナエ草のお茶を準備して、湯上がりに飲んでいただけるように用意してあった氷でしっかりと冷やしておく。
準備を終えたラスティは、湯殿から聞こえてくる、ラピス様か精霊達と話をしているのだろうレイルズ様の笑い声を聞いて笑顔で頷き、あらかじめ用意してあった着替えをもう一度確認してから、それを手に湯殿へ向かった。
「それではおやすみなさい。明日も蒼竜様の守りがありますように」
「おやすみなさい。ラスティにもブルーの守りがありますように」
湯上がりに用意していたカナエ草のお茶をしっかりと飲み、ベッドに潜り込んだレイにラスティがいつものお休みの挨拶とキスをくれる。
レイもいつもの挨拶を返して、顔を合わせて笑顔で頷き合ってから一礼して部屋を出ていくラスティを見送った。
「はあ、すっごく楽しかった」
天井を見上げたレイの呟きに、枕元に座っていたブルーのシルフが笑顔で覗き込んでくる。
『確かに楽しそうだったな。疲れてはおらぬか?』
休暇から戻ってきてすぐに連日の夜会だ。平気そうにはしているが、疲れていないわけはないだろう。
「ううん。疲れてないって言ったら嘘になるだろうけど、すっごく楽しかったから別に疲れは感じていないね」
『そうか。楽しかったのなら何よりだ』
笑ったブルーのシルフに笑顔で頷くと、小さなため息を吐いたレイはゆっくりと起き上がった。
「えっと、ニコスは今何をしている? ガンディの竪琴の件は、できたらニコスに早く話しておきたいんだけど、もう寝ちゃったかな?」
『黒髪の竜人の方だな。彼なら今、湯を使い終わって水を飲んでいるよ。呼んでやるのでちょっと待ちなさい』
そう言ったブルーのシルフの隣に、即座に何人ものシルフが現れて並ぶのをレイは目を輝かせて見つめていたのだった。




