談話室にて
「いやあ、それにしてもすごい入札数だったね」
「まったくだ、なかなか面白いものを見せてもらったよ」
ロベリオとユージンの若干わざとらしい言葉に、その場にいた男性達は揃って吹き出しつつほぼ全員が頷いている。
ルークは、談話室に置かれた座り心地の良さそうなソファーに座って、軍服を着た友人達と煙草を燻らせながら楽しそうに談笑しているし、タドラと並んで別のソファーに座ったレイは、酒精の弱い貴腐ワインの入ったグラスを片手に、先ほどから次々に話しかけて来る普段はほとんど接点のない、同年代の若者達を相手にいろいろな話を聞かせてもらっている。
大盛況のうちに幕を閉じた夜会を終え会場を後にしたレイは、ルーク達と一緒に夜会参加者達との懇親会に参加しているところだ。
この談話室にいるのは、先ほどの夜会に参加していた男性達だけで、女性達にはまた別に用意された広い部屋でお茶とお菓子、それからワインを楽しみながら女性だけでのおしゃべりを楽しんでいる。
ちなみに彼らがいるこの部屋には、使用済み商品の倉庫、と扉に手書きの流暢な大きな文字で貼り紙がされていて、執事に案内されてここへ来た時に、レイは部屋を間違ったと思って慌てて引き返してしまい、後から来たルーク達に大笑いされたのだった。
「だって、商品の倉庫だって書いてあったら普通に信じて、ここは倉庫なんだと思うじゃあないですか」
「だっても何もねえだろうが。俺達は競りにかけられて用の終わった、いわば使用済みの商品なんだから、捨てられるか倉庫へ放り込まれるのが関の山だろうが? 今年はゴミ捨て場って書かれてないだけまだマシだよ」
「使い終わったからって捨てたり倉庫に放り込むなんて酷いです。せめて部屋に置くくらいはしてください!」
「何、お前さん誰かの部屋に夜這いしたいのかよ! よし! 言ってくれれば手伝うぞ! 何処の誰だよ!」
「ほら、お兄さんに言ってごら〜ん!」
「どうしてそうなるんですか! 揃って嬉々とした顔でそんな事言わないでください! 僕は、何処にも、い〜き〜ま〜せ〜ん〜〜〜!」
「何でだよ! 今お前さんが言っただろうが!」
「それは本当に、贈った品物を部屋に置いてくださいって意味です!」
「お子ちゃまだねえ。使ったら捨てなきゃならないものだって世の中にはあるだろうに、なあ?」
「うんうん、その通りだねえ。お子ちゃまなレイルズ君に、先輩達が色々と大人の付き合いを教えてあげようじゃあないか」
「そうだそうだ。先輩の話をありがたく聞け〜〜〜!」
「やめてください! そんなの聞きたくありません! もっと有意義な話をお願いします!」
「これ以上ない、有意義な話だろうが〜〜〜!」
「き〜き〜た〜く〜あ〜りませ〜〜〜〜ん!」
耳を両手で押さえて首を振るレイの叫びに、周囲にいた人達が揃って吹き出し大爆笑になった。
何をしているかと言うと、先程のレイの勘違いの話を聞いた何人もの若者達が集まってきて、レイをからかって遊び始めたのだ。
しかもその度にレイが律儀に反論するものだから、話している声を聞きつけてさらにからかう人数はさらに増えていき、もう途中からは完全にソファーごと取り囲まれてしまい、レイの姿はもう真っ赤な赤毛の先が人混みの真ん中あたりにチラッと見えている程度だ。
ちなみに事態を察したタドラは早々にレイの隣から逃げ出していて、今はロベリオの隣にちゃっかり収まってウイスキーを片手に大笑いしている。
「あれ、完全に遊ばれてるなあ。でもまあ、久々の最高記録を更新したんだから、あれくらい遊ばれるのも当然だよな」
「だよなあ、提示されたあいつが集めた合計金額、冗談抜きで二度見したもんな」
完全に面白がっているロベリオの呟きに、ユージンも笑って頷く。
「確かに。あれを見てルークが大爆笑していたもんね。僕、帰って金額を聞いた時のマイリーとヴィゴとカウリの顔が楽しみだよ。うわあ、これ美味しい。何処のウイスキー?」
ロベリオとユージンの言葉を聞いて何度も頷きながら笑ったタドラは、手にしていたウイスキーを一口飲んで目を見開いた。
「それは、俺の実家が支援している醸造所で作ったブランデーの十年ものだよ」
ロベリオが、自分も手にしていたグラスを少し揺らしてからゆっくりと口に含む。
「うん、香りも良いし、舌触りもまろやかでこれは確かになかなかの出来だ」
隣では、ユージンも手にしたグラスを揺らしながら笑って頷いている。
「これは本当に当たりだったよな。ちなみに美味しかったから、父上にお願いして本部にもまとめて贈ってもらったから、戻ったらいつでも飲めるぞ」
「良いねえ、それじゃあ戻ったら早速いただくとしようか」
「今飲んでるのに、まだ飲むのかよ」
笑ってじゃれ合っているロベリオとユージンを横目に、タドラが二杯目のウイスキーをグラスに注いだ。
「精霊王に、感謝と祝福を」
「精霊王に、感謝と祝福を。そして人気者のレイルズに乾杯!」
笑ったロベリオとユージンの乾杯の言葉に、あちこちから乾杯の声が上がったのだった。
「あ、そろそろ解放されたかな?」
「よし、じゃあこれを飲ませてやろう」
その時、ようやく解放されてへとへとになったレイが、よろよろとロベリオ達のところへ来た。
「もう疲れました〜〜」
情けない声でそう言ってタドラの横に座って彼にもたれかかる。
「重いよレイルズ。ほら、ロベリオが入れてくれたよ」
笑いながらタドラが差し出したのは、透明な水と氷が入ったグラスだ。
「冷んやりして美味しいぞ」
笑ったロベリオがそう言いながら飲むふりをする。
「良き水ですね。いただきます!」
満面の笑みでそう言ったレイは、疑う事なく渡されたそれをぐいっと一気に飲み干した。
「うええ〜〜何これ、水じゃあなくてお酒!」
慌てて口を押さえたレイの叫びに、その場は大爆笑になる。
「うああ、めっちゃキツイ……」
タドラにもたれかかっていたレイは、小さくそう呟いたきりずるずると力が抜けてタドラに膝枕してもらっている状態になってしまった。
「あれれ、レイルズ。大丈夫?」
転がってきて動かなくなったレイを覗き込んだタドラが、心配そうに顔を覗き込む。
スースースー。
あまりにも無防備な気持ちの良い寝息が聞こえてきて、顔を見合わせた三人は揃って吹き出したのだった。




