ダンスの時間
「おお、なかなか凄い事になっているなあ。これ、あの二人からの分だけで足りるかねえ」
女性達によって大盛り上がりになっているレイルズとのダンスを賭けた競りを見たルークは、苦笑いしつつ胸元を叩いた。そこには、マイリーとヴィゴから預かってきた、二人の名前が書かれた金額が未記入の金額指定札が入っている。
「確かにそうですねえ。追加の協賛金がどれくらいになるのかちょっと怖くなってきました。僕の少ない口座の残高で足りるかなあ」
ルークの呟きを聞いたタドラが、腕を組みながら苦笑いしつつそう呟く。
「確かにそうだなあ。俺の口座も残高が大丈夫か心配になってきたぞ」
笑って振り返ったルークも、同じように腕を組みつつ自分の口座の残高の心配を始めた。
もちろん二人の口座にはそれぞれ相当な金額が入っているので、この程度で無くなるような残高では無いのだけれども、二人ともそれを承知の上での軽口だ。
「なあ。今、確認してきたんだけどさ。アルジェント卿や両公爵様だけじゃなくて、殿下やティア妃殿下、それから皇王様とマティルダ様までが、マーシア様に協賛金の約束をしてくれているらしいぞ」
二人が軽口を叩き合って顔を見合わせて揃って笑っっていると、ロベリオとユージンが駆け寄ってきてルークの腕を叩きながら小声でそう教えてくれる。
「ああ、やっぱりそうなったか。ううん、皇王様やマティルダ様までがこの夜会に協賛金を出してくださるのって……久々だよなあ」
振り返ったルークが呆れたようにそう言って笑い、タドラは目を見開いて笑顔で拍手していた。
「確かに久々だよなあ」
「その辺りは、俺達はよく知らないんだけどなあ。ええと、いつ以来だっけ?」
ロベリオとユージンが、揃ってルークを横目で見つつそう言って笑う。
「さてねえ、いつ以来かなあ。俺、記憶力無いからよく覚えてないよ」
そっぽを向いて知らん顔をするルークの言葉に若竜三人組だけでなく、一緒に聞いていたカナシア様とサスキア様までが揃って吹き出したのだった。
もう十年以上も前の事になるが、実はルークが正式な竜騎士見習いとして紹介された初めての年に、一つのとんでもない記録を樹立しているのだ。
降誕祭前のこの時期、毎年の恒例行事となっているマーシア夫人主催の寄付金集めのためのこの夜会にて、とんでもない数の女性達からの入札を受けたルークは、この夜会での個人で集めた寄付金の史上最高金額を叩き出しているのだ。
そして、そのとんでもない金額を聞いた両陛下をはじめ多くの人達が、寄付金の一部を負担する協賛金を申し出してくれたのだ。
以来、この記録は破られていなかったのだが、ついに今年、レイルズによってこの記録は破られるのが確定となった。
「ああ、終わったみたいだな」
ようやく全ての競りが終わったらしく会場からは笑い声と拍手が起こり、舞台前では大喜びで飛び跳ねている女性達の姿がある。
舞台の上で半ば呆然と立っていたレイが、担当の執事に案内されて舞台から下がるのを見てルークは小さなため息を吐いて若竜三人組を振り返った。
「さてと、俺達もご指名いただいたお嬢様とのダンスの時間だな」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
カナシア様とサスキア様が揃ってそう言いロベリオとユージンの背中を押しやる。
「じゃあ、義務を果たしてくるよ」
二人はまるで双子のように口を揃えてそう言うと、それぞれの奥方に優雅に一礼してから舞台前につくられた広い場所へ進み出て行った。
それを見たルークとタドラも揃って吹き出し、顔を見合わせてそのあとを追ったのだった。
実は今年結婚したロベリオとユージン、それから正式に婚約を発表したタドラの三人は、去年までとは打って変わって一気に入札数が減っている。その為、ダンスのお相手はそれぞれお一人ずつだ。
ルークは、去年よりは少なくなったもののこちらは相当数の入札をいただいていて、全部で三曲、一曲目はお一人と、二曲目と三曲目はそれぞれ交代しながら三人ずつと踊る事になっている。
それぞれの執事に連れられて進み出てきた女性の手を取り、始まった音楽に合わせてゆっくり踊り始める。
レイも、同じく最初の女性の手を取りゆっくりと踊り始めた。
ようやく、女性の足を踏む心配をせずに上手に踊れるようになってきたレイは、担当執事が飛ばしてくれるシルフの合図に従いなかなかに上手く次の女性と交代する事が出来た。
その後も案内役のシルフと、ニコスのシルフ達にも時折助けてもらいつつ、無事に三曲大きな失敗をする事なく踊り終える事が出来て、最後のお一人とのダンスを終えて挨拶して別れたレイは、こっそりと安堵のため息をもらしていたのだった。




