ルークとタドラの競りとレイへのお願い?
「それじゃあ行ってくるね」
「まあそこで見ていてくれ」
レイを振り返って揃ってそう言って笑ったタドラとルークが、執事の案内で舞台に上がり左右に離れて立つ。
出てきた彼らを見てどっと拍手が沸き起こり、舞台の前には、またしても多くの女性達が嬉々として集まってきた。
そして舞台袖に一人だけ残されたレイは、早速始まった賑やかな二人の競りと、次々に決まった可愛らしいお願いを叶える二人を眺めていた。
そして、競りは無しでタドラのもとに笑顔で駆け寄る一人の女性が現れた。迎えたタドラも笑顔で優雅に一礼すると、そのまま二人で向かい合って揃って歌いながら手遊びを始めた。
竜騎士隊の中では一番小柄なタドラだが、その彼が膝を曲げて屈まないといけないくらいにお相手の女性は小柄だ。
まるで大人と子供のように笑顔で手遊びをする二人を見て、あちこちから笑いと手拍子が起こる。
次のお願いを叶えようとしていたルークも、お相手の女性と並んで手を止めて、その様子を笑顔で見つめていたのだった。
最後にそれぞれ一曲ずつ歌と演奏も披露した二人が、大きな拍手の中を笑顔で舞台から下がってくる。
ダンスのお願いはレイの分まで終わったところでまとめて踊るのだと聞いているので、ここではダンスは無しだ。
「お疲れ様でした。皆楽しそうだったね」
「おう、今年もいろんなお願いがあって中々に賑やかだったなあ。だけどまあ、何であれ真面目に鍛えておくと損はしないよなあ」
途中のお願いで、かなりふくよかなお嬢さんを軽々と横抱きにして大きな拍手をもらっていたルークは、軽く首を回しながらそう呟いて笑っている。タドラも頑張って平然と抱き上げていたので、苦笑いしつつ何度も頷いていたのだった。
「今年の僕へのお願いに頬へのキスが無かったのは、もしかして婚約発表で遠慮してくれたのかな?」
どちらも制限人数いっぱいのお願いを聞いたのだが、確かにタドラへのキスのお願いは成人したばかりのお嬢さん一人だけで、しかも額へのキスだった気がする。
「そりゃあもう、誰かのものになるのが確定しているやつのキスは、やっぱり値打ちが下がったんじゃあないか?」
笑ったルークの言葉にタドラが吹き出し、ルークと顔を見合わせて肩を震わせて笑っていた。
「レイルズ様。ではそろそろ舞台へ上がっていただきますようお願いいたします」
すっかり和んで話をしていたところで、執事に声をかけられて慌てて振り返る。
「はい、今行きます。じゃあいってきますね」
「おう、いってらっしゃい。まあせいぜい頑張ってくれたまえ」
笑ったルークがそう言ってレイの背中に声をかけ、執事から渡された今回の競りでのルークが負担する寄付金の明細に目を通す。
「了解。去年よりも少ないって事は、やっぱりあいつに流れたか。さあて、どれくらいの金額になるんだろうなあ」
呆れたような、面白がるような口調でそう呟いたルークは、金額指定札に明細に書かれた金額を記入して、素早くサインをして執事に返した。
隣では、タドラも同じように記入した金額指定札を執事に渡している。
「さて、新人さんの初競りは、どれくらいの合計金額になるんだろうねえ」
「そうだね。ルークの記録を抜かれるのはもう確実だろうから、あとはどこまで金額が上がるかだね」
ルークと並んで舞台を見たタドラも、完全に面白がっている口調だ。
「まあ、おそらくだけど相当な金額になるだろうな。これに関しては、カウリだけじゃあなくてマイリーやヴィゴもいざとなったら協賛してくれるってさ。ほら、いいもの預かってきているんだよな」
金額未記入でサインだけが入った三人分の金額指定札を胸元から取り出して見せたルークの言葉に、タドラが驚きに目を見開く。それから二人は顔を見合わせて揃って吹き出したのだった。
「では、只今より最後の競りを開始いたします。皆様ご準備はよろしいでしょうか?」
神妙な顔で舞台の中央にポツンと一人で立たされているレイの背後に、執事が二人がかりで新しい大きな掲示板を運んでくる。
思わず振り返ってそこに書かれている内容を見たレイは、堪える間も無く吹き出してしまった。
そこには、レイへのお願いの一覧が書かれていて、お願い毎に番号が振られていたのだ。
そして、そこに入札した方達の名前がずらりと書かれている。どれも相当な人数が書かれているが、中には一人だけしか書かれていないお願いもある。
「へえ、独創的なお願いは、競争相手がいないから入札したのがそのまま通っちゃったんだね。一体何のお願いなんだろう?」
小さく呟いて見ようとしたところで、側に控えていた執事に目配せされて大人しく前を向いた。
密かにため息を吐いたレイは、いつの間にか右肩に座って笑っているブルーのシルフを横目で見る。
「ブルー、今の僕の置かれた状況を見て、絶対面白がってるでしょう?」
『まあ否定はせぬな。良いではないか。其方が頑張ってお願いをきけばそれだけ寄付金も増える。ちなみにお願い全部の半分を其方が負担すればとんでもない金額になるので、そこは救済措置があるから心配せずとも良いぞ』
当然張り切って払うつもりだったレイが、その言葉に驚いて目を見開く。
『特に若い見習いの竜騎士は、初めての年には今の其方のように大人気になる事が多い。だが、この競りに関しては、個人が負担する金額に上限設定があるのだよ。なのでそれ以上の金額になった場合、直接関わる事の多い先輩達、其方の場合は他の竜騎士達だな。その人達が寄付金の一部を協賛金という形で払ってくれるんだよ』
「ええ、僕ちゃんと払うのに」
口座にあるとんでもない金額を思い出してそう言ったのだが、ブルーのシルフだけでなく、ニコスのシルフ達までが表れて揃って首を振った。
『まあ、そこは先輩を立ててありがたく負担してもらいなさい。いずれ其方が先輩になった暁には、後輩の面倒をしっかりと見てやればいいさ』
笑ったブルーの言葉に、納得したレイは笑顔で頷き、改めて胸を張って前を向いた。
そして予想以上に集まって来ていた大きなスプーンを持った大勢のお嬢様達を見て、必死になって吹き出しそうになるのを堪えていたのだった。




