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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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さまざまなお願いと男女の感情?

「競りは、すぐに終わったみたいですね」

 舞台を見ながらレイがそう言って、笑っている。

 先ほどの男性の前に水色のドレスを着たお嬢さんがいそいそと進み出る。

 あちこちから笑い声と時折冷やかすような掛け声が掛かる。

「ああ、誰かと思ったら、ディリー子爵の長男か。って事は、あちらは噂の婚約者殿だな。って事は、他の入札者は彼女達の友人達か。へえ、協定結んでまで入札するとはねえ」

 女性に耳元で何か言われて笑った男性が、いきなりその女性を横抱きに抱え上げてくるりと一回転した。

 歓声を上げた女性が慌てたように男性にしがみつき、また笑い声が聞こえる。

 そして、お互いの頬にキスを贈り合ったあと、男性は女性を抱いたまま軽く一礼して舞台から下がっていった。

 笑い声と揶揄うような口笛の音がそのあとを追う。

「成る程。仲直りの為の協定入札か。やるなあ」

「仲直り、ですか?」

 ルークの呟きに、舞台を見ていたレイが不思議そうに振り返る。

「そうさ。あの二人は婚約者同士で仲も良いんだけど、なぜか時々すごい喧嘩をするらしいんだ」

「それは僕も聞いた事がある。つかみ合いの大喧嘩になった事もあるって聞くよ」

 ルークの説明に笑ったタドラがそう言い、ロベリオ達も吹き出しながら頷いている。

「ええ、男性と女性がつかみ合いの喧嘩? それって……一方的に男性が勝って終わると思うんだけど、違うの?」

 あの立派な体格で、軽々と先ほどの女性を横抱きに出来るほどの腕力のある男性なのだから、どう考えても腕力での喧嘩は成り立たないと思うのだが違うのだろうか?

 不思議そうにしているレイを見て、フェリシア様とサスキア様までが揃って笑っている。

「ううん、レイルズ様には、複雑な男女の関係はまだまだ未知の世界のようね」

「その辺りは、これからに期待ってところかしらね?」

 笑った彼女達の言葉に、ロベリオとユージンが双子のように揃って頷く。

「だけどどうだろうなあ。レイルズも彼女も、どちらもこれ以上ないくらいの良い子なんだよ。どう考えても、つかみ合いの喧嘩なんてしているところを想像出来ないよ」

「ええ、僕絶対にそんな事しません!」

 笑ったロベリオの言葉に慌てたように真顔のレイが反論すると、また皆が笑う。

「そんなの分かってるって」

 笑ったルークに背中を叩かれて、首を傾げる。

「つまりな、男女間でつかみ合いの大喧嘩が出来るってのは、間違いなく相思相愛だからだよ」

 重々しいルークの言葉に、レイが驚きに目を見開く。

「しかも、どちらかというと男性の方がベタ惚れ状態って事だよなあ」

「確かに。だけどさっきの様子を見るに彼女の方も相当なベタ惚れ状態だと思うぞ。いくら寄付の大義名分があるからって、一体この入札にいくら使ったんだよって」

「確かにそうよね」

「でも良いじゃない。ちゃんと仲直りして、しっかり寄付もしているんだからさ」

 笑っているロベリオとユージンの言葉に、サスキア様とフェリシア様までがそう言ってまた吹き出している。

「えっと……」

 どうにも分からなくて、助けを求めるようにブルーのシルフを見る。

 しかし、笑っているだけで何も教えてくれないし、ニコスのシルフ達も揃って笑っているだけだ。

「まあ、これは後日改めて時間のある時に詳しい話をしてやるよ。純粋なレイルズ君には、まだまだ男女間の感情は知らない事だらけみたいだからなあ」

 まだ笑っているルークの言葉に、口を尖らせる。

「ルーク、僕で遊んでるでしょう」

 完全に拗ねたその口調に、あちこちから吹き出す声が聞こえたのだった。



 そんな話をしている間も、舞台の上では次々に競りが始まっていて、女性を抱き上げたり頬にキスをしたり、時には用意してあったのだろう豪華な花束を男性が跪いて渡したりもしている。

 だが確かにどれもちょっとしたお願い程度で、ある意味可愛らしいお願いばかりだ。

 しばらくして、今度は楽器の演奏が始まった。

 女性を前にして男性がヴィオラや笛の演奏をしている。中には、何故か複数の女性を前に楽器の演奏をしている人もいる。

「あれ? 一人に一つのお願いなんだよね?」

「あれも一種の協定入札で、女性同士で相談して一人の申込書に複数人の名前を明記して入札するんだ。この場合、書いた金額は一人当たりの金額なんだ。それで成立すれば、今みたいに複数の女性の前で一曲の演奏をする。まあ言ってみれば、複数のお願いを同時にきくって感じだな。楽器の演奏には多い入札方法だね」

「へえ、いろんなやり方があるんだねえ」

「無邪気に感心しているけど、多分お前のはもっと凄いと思うぞ」

「え? 何か言った?」

 ルークが小さな声でそう言い、楽器の音と重なったために聞こえなかったレイが振り返る。

「なんでもない。ああ、そろそろ最初のダンスの時間だな」

 その言葉に驚いて舞台から会場内を見ると、何人もの人達が進み出て手を取り合って踊り始める。

「ダンスはほとんどが、恋人同士だな。あるいはこの場で女性の側からの告白とかもある」

 次々に入れ替わりながら、皆楽しそうに笑顔で踊っている。

「演奏やダンスが始まっているのに、ここでじっとしたまま何もしないって、なんだか不思議な感じですね」

 周囲を見回しながら笑ったその言葉にルークが吹き出す。

「まあ、嵐の前の静けさってところだな。さて、今年はどうなる事やら」

 苦笑いするルークの言葉にレイが首を傾げたところで、音楽が終わり拍手喝采となった。

 何故か抱きしめ合ってキスを交わしている人もいるのだが、皆、見ないふりをしている。

「ちなみに、あれが今言った、どちらかが告白して晴れて恋人同士になった奴らだよ」

「まあ、この辺りはお目こぼしされるんだけど、ただしあまり酷いとああなる」

 笑ったルークとタドラが示しているのは、彼らの近くで抱き合ったまま濃厚な口づけを交わしている男女で、無言で集まってきた執事達が、まるで先日のマーク達がやった強制退場のように男女を取り囲んだまま無理やり下がらせてしまった。それを見て、笑いと拍手が起こる。

「あはは、あとは裏で好きにしてくれってところだよ。まあ、こういうのは毎年あるから気にするな」

 意外に近くで濃厚なキスを見せられ赤面しているレイを見たルーク達は、そう言ってまた面白そうに笑っていたのだった。

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