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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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少女達と光の精霊

「はあ、緊張したわ」

 最後の役割を終えて舞台から下がったニーカの呟きに、ジャスミンも笑って何度も頷く。

 彼女達の周りでは同じように舞台から下がってきた巫女達や神官達が揃って苦笑いしつつ頷いている。

「邪魔になるからさっさと下がりましょう」

 年上の子達の言葉に、皆慌てて一列になってそれぞれ与えられた控え室へ下がった。



「この後ってどうするの? 馬車で送って下るのよね?」

 控室で着ていた服を脱ぎながら、ニーカが小さな声で尋ねる。

 一緒に下がってきたペリエルは、緊張のあまりその場に座り込んでいるし、まだ顔が真っ赤になったままだ。

「大丈夫? ほら、これを飲むといいわ。ウィンディーネ、良き水をお願い」

 笑ったジャスミンが、部屋に用意してくれてあったグラスを手にして小さな声でお願いすると、グラスの縁にウィンディーネが現れて笑顔で頷き、そっとグラスを叩いた。

 一瞬で七分目くらいまで水が出て止まる。

「す、すごいですね……」

 先程まで空っぽだったグラスに入った透明な水を見てそれしか言葉が出ない。

「あなただって、すぐにこれくらい出来るようになるわよ」

 笑ったジャスミンからグラスを受け取り、小さく頷いて水を飲む。

「冷たくて甘い……美味しい」

 口に入った水は、今まで飲んだどの水とも違って口の中で溶けるみたいに、何の苦もなく飲み込むことが出来た。

「着替えが終わったら、少し早いけど降誕祭の贈り物をいただけるわ。一緒にいきましょうね」

 ウルリカの言葉に、皆笑顔で頷く。

「あの、ありがとうございました。美味しかったです」

 お礼を言ってジャスミンにグラスを返す。

「私、精霊達は見えるんだけど、まだ実技は全然で……どうやったらそんなに上手くなりますか?」

 見習い巫女の服に着替えながらのペリエルの小さな声での質問に、思わず着替えの手を止めたジャスミンが振り返る。

「あら、だって貴女はまだ秋にオルダムへ来たばかりで、精霊魔法訓練所へ通い出してから、まだふた月にもならないのよね? そんなので実技が上手く出来ていたら、そっちの方がびっくりだわ」

 若干わざとらしいその言葉に、巫女の服を着て襟元を整えていたニーカも笑顔で振り返る。

「確かにそうね。実技なんて、精霊達と仲良くなっていればすぐに上手くなるわ。だから今は、まずは精霊達と仲良くなるのが先よ。それに、貴女は光の精霊達も見えるんでしょう?」

「あ、はい。まだ自分ではよく分かりませんが、一応全属性に高い適性があるって言われました」

「いいなあ。私は水は最上位まで、風は上位まで使えるんだけど光の精霊魔法への適性は無かったみたいなのよね」

「み、水の適正値が最上位まで! それはすごいです!」

 胸元で手を握るペリエルの言葉に、ニーカは苦笑いしている。

「貴女だって上位の適正値があるんでしょう? 頑張り次第では、最上位だって夢じゃあないわよ」

「そうなんですね! 頑張ります!」

 目を輝かせるペリエルに、ニーカとジャスミンも嬉しそうに頷き合う。

「頑張ってね。わからない事があれば、相談に乗るわよ。いつでもシルフを……ああそうか。まだ自分でシルフを飛ばすのは無理ね」

 顔を見合わせたニーカとジャスミンは、困ったようにそう言って考える。

「あの、ありがとうございます。今は一日中授業があるんですが、基礎の座学が終われば、近いうちに午前中は自習時間がもらえるらしいので……あの、図々しいようですが……」

 言いかけた言葉が途切れてしまう。

「もちろん、一緒に勉強しましょうね。だけど、年が明けたら私達は竜騎士隊の本部へ引っ越しが決まっているのよね。だから、何処まで一緒に勉強出来るかはちょっと分からないの。ごめんね」

 話をしているこの二人が何者なのか思い知らされた気がして、泣きそうになりつつ小さく頷く。

 ちょっと光の精霊が見えたからって調子に乗ってしまったみたいだ。

「精霊魔法訓練所にはクラウディアがいるから、彼女と仲良くしてくれたら嬉しいわ。ディアは私にとっては大事なお姉さんなの」

 ニーカの言葉に、ペリエルも遠慮しつつも笑顔になる。

「彼女も光の精霊魔法が使えるから、教えてもらうといいわよ」

「ああ、確かにそれがいいわね。それなら、一緒にいつも勉強しているマーク軍曹やキム軍曹にも教えてもらうといいわ」

 ジャスミンとニーカの言葉に、目を輝かせるペリエル。

「あの、初めて訓練所へ行った時に挨拶はしました」

 軍服を着た男性が二人いて、案内役の人から、すごい方々なのだとは聞いた覚えがあるが、実を言うと軍服と剣が怖くて、挨拶はしたもののろくに顔を見ないままだったのだ。

「じゃあ、自習時間がもらえるようになったら、クラウディア様を探してみます」

 内心の不安を押し殺して笑ってそう言ったペリエルの頭上には、呼びもしないのに集まってきたシルフ達と一緒に小さな光の精霊達が全部で四人、楽しそうに手を取り合って踊っていた。

「ああ、来てくれたのね」

 自分に向かって手を振る、最近仲良くなった光の精霊達に向かって笑って手を伸ばす笑顔のペリエルの言葉に、着替えを入れた包みを手にしていたニーカが驚いたように顔を上げる。

「ええ、ちょっと待って! ねえ、初めて見る子達だけど、それってもしかして……光の精霊?」

 周りに集まってニーカを見つめているシルフ達を見てから、もう一度ペリエルの頭上にいる子達を見る。

「ええ、待って! ニーカ、その子達が見えるの?」

 ニーカは光の精霊魔法の適性は殆どなくて、ごく僅かに気配だけが感じられる程度だったのだ。

 それなのに、今の彼女は明らかに光の精霊を見つめている。

『ニーカ! やっと見えるようになってくれたんだね!』

 その時、姿を消していたクロサイトの使いのシルフが現れて、目を輝かせながらそう言ってニーカの頬に何度もキスを贈った。

「スマイリー、やっぱりこの子がそうなのね。へえ、ルーク様から聞いてはいたけど、本当に急に見えるようになるのね」

 驚いたように頭上を見上げているニーカの呟きに、目を輝かせて拍手をしているジャスミンとペリエルだった。

 ウルリカをはじめとした巫女達は、突然の出来事に全く反応出来ずに、手を叩き合って大喜びしている三人を呆然と見つめていたのだった。

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