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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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まずはアルジェント卿のお屋敷へ!

「じゃあ、そろそろ時間だし食べ終わったら準備しておいで。外は結構寒くなってきているから、厚手のマントを羽織ってくるようにな」

 カナエ草のお茶を飲み干したルークの言葉に、頷いたレイも口の中のものをちゃんと飲み込んでからカナエ草のお茶を飲み干した。

 一通りの今日の予定と子供劇についての説明が終わって、ラスティが用意してくれていた軽食をルークと一緒に食べたところだ。

「えっと、服はこのままでいいんですか?」

 観劇の際の服装が分からなくて素直に質問する。

「おう、そのままでいいよ。まあ、基本的には俺達男性は制服を着て帯剣していれば問題ないって。制服を着ない人なら通常の正装だな。だけど女性の場合はもっと複雑で、既婚か未婚かによっても違うし、昼か夜かによっても着るドレスや装飾品なんかが変わるんだけどさ」

「以前少し聞いた事があるけど、女性の場合は本当にそうなんだね。思ったんだけど、そんな大変な決まり事、それっていったい何処の誰が決めたの?」

 真顔のレイの質問に、ルークだけでなく不意打ちをくらったラスティまでが揃って吹き出す。

「あはは、確かにそうだよなあ。ううん、誰が決めたんだろう? それは俺も考えた事がなかったなあ」

 呆れたようなルークの呟きに、ラスティも困ったように考えている。

「宮廷内での、今のようなさまざまなマナーが確立したのは、確か三国の同盟の元ファンラーゼンが国として建って以降の事ですね。それを考えると、お決めになったのは、初代皇王様か二代目の皇王、あるいはその奥方様や周辺のお方々辺りでしょうかね?」

「周辺のお方々って事は、悪名高い側室達だな」

 苦笑いするルークの言葉に、ラスティも困ったように頷く。

「悪名高いって?」

 無邪気な質問に、二人はそろって首を振った。

「まあ、その辺の詳しい話はまた今度日を改めてしてやるよ。今日のところはここまで。じゃあ俺も上着を変えてくるよ」

 休んでいたレイと違い、午前中も何か用事があったのだろう。上着の袖周りが少しシワになっているのを見てため息を吐いたルークが立ち上がる。

「こっちの資料は、お前の分だから返却の必要は無いよ。どこかへまとめて置いておくと良いぞ」

 先ほどまで見ていた資料を指差しながらそういったルークに、レイは笑顔で頷く。

「分かりました。じゃあこっちはいつもの書類入れに入れておきます」

 散らかっていた資料の束をひとまずまとめておき、ラスティが用意してくれていた新しい上着に着替えてしっかりと剣帯を締めてから渡された厚手のマントを羽織る。

「ううん、いつものマントよりも分厚いから、かなり暖かいね」

 嬉しそうなレイの言葉に、脱いだ上着をハンガーに掛けていたラスティが振り返る。

「今日は良いお天気ですが、ここ数日は、日が暮れて以降はかなり気温も下がってきていますからね。風邪をひいては大変ですので、暖かくして行ってください」

「えっと、劇場へはラプトルに乗って行くのかな?」

 まだ明るい窓の外を見ながらそう呟いたレイを見て、ラスティがにっこりと笑って頷く。

「今回は、レイルズ様は直接劇場へは行かずに、ひとまずアルジェント卿のお屋敷へラプトルで行っていただき、卿とご一緒に馬車で一の郭にある劇場へ向かっていただきます。ルーク様は今回はご友人方とご一緒されるとの事ですので、同じ劇場へは行きますが、別行動でお席も違う場所になりますね」

「ああ、そうなんだね。さっき一緒に行くって聞いた中にルークの名前が無かったからどうしてなのかなって思っていたんです。そっか、ルークはお友達と一緒に観るんですね」

 気になっていた事を教えてもらい、納得したレイは一つ深呼吸をする。

「では参りましょう。アルジェント卿のお屋敷までは私もご一緒させていただきます」

 ラスティが一緒に行ってくれると聞き、嬉しそうに目を輝かせる。

「うん、よろしくお願いします!」

「レイルズ様、うんではなく、はいですよ」

 にっこり笑ったラスティの言葉に、誤魔化すように小さく舌を出すレイだった。



 準備が出来たところで、ラスティと一緒に厩舎へ向かう。

 当然のように準備万端整ったゼクスを厩舎担当の顔見知りの兵士が即座に引いて来てくれて、自分で鞍を取り付けるところからやりたかったレイは、密かにため息をこぼしたのだった。

「うん、ありがとうね。では行ってきます」

 いつものようにレイを取り囲む位置についてくれる護衛のキルート達と一緒に、ラスティを先頭にしてまずは一の郭にあるアルジェント卿のお屋敷に向かって出発したのだった。



 少し日が傾き始めた一の郭の広い道を、ラプトルに乗ってゆっくりと進んでいく。

「この辺りの紅葉樹は、葉っぱが全部落ちているね。もうすっかり丸裸になっていて、とっても寒そう」

 そう言ってレイが見上げた大きな街路樹は、確かにもうすっかり葉が落ちて細い枝先まではっきりと見える。

「この辺りは郊外の森ほどではありませんが、綺麗に紅葉しますから落葉も早いですよ」

 笑ったキルートの言葉に、見上げていたレイも頷く。

「これだけの木が落葉するのなら、相当な落ち葉が出るよね。この道のお掃除は誰がするの?」

 周囲を見回しながらの質問に、前を進んでいたラスティが振り返る。

「もちろん周辺のお屋敷の者達が掃除しますよ。実を言うと、どこまで誰が掃除するかというのは割と揉め事になる場合も多く、ほとんどの場合適当には行わずに、きちんと周辺の屋敷同士でその辺りは詳しく決めておりますね」

 驚くレイに、ラスティはにっこりと笑って頷く。

「もちろん、瑠璃の館の前の道も、周辺のお屋敷としっかりと取り決めを行なっておりますのでご安心を。あの辺りは、元々古い屋敷ばかりですから、皆様しっかりと心得ておられますので、特に問題があったとは聞いていませんね」

「へえ、そうなんだね。確かに石畳の道だと、枯れ葉は全部飛んでいっちゃうもんね。森の中みたいに、自然に落ち葉が腐葉土になるわけもないんだから、ちゃんと集めないと」

 納得したように頷くレイに、ラスティが小さく笑う。

「さすがによくご存知ですね。ですので、基本的に敷地内へ飛んできた落ち葉は、道と違ってそのお屋敷が集めて腐葉土に出来るんですよ」

「あれ? もしかして誰がお掃除するかで揉めるのって……誰が腐葉土の元になる落ち葉を集めるかって意味だったの? 僕、皆お掃除が嫌で、誰がお掃除をするのか押し付け合いっこするんだと思ってました!」

 無邪気なその言葉に、ラスティだけでなく一緒に聞いていた護衛の者達まで一緒になって、そろって吹き出して大笑いになったのだった。

「街の中では落ち葉は貴重ですからね。どこのお屋敷もそれなりに庭は整えておりますから、腐葉土は皆欲しがるんです」

 笑ったラスティの言葉に、感心したように頷くレイだった。

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