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平和な朝の光景

『寝てるね』

『起こすの？』

『どうする？』

『どうするどうする？』

　枕に抱きついて熟睡しているレイの耳元で、集まってきたシルフ達が楽しそうに相談を始めている。

　喋りながらも、彼女達の手は止まることなくせっせとレイのふわふわな赤毛を三つ編みにしては隣とねじり合わせている。

『もぎゅもぎゅだもんね〜〜〜』

『もぎゅもぎゅだもんね〜〜〜！』

『もぎゅもぎゅ〜〜』

『楽しい〜〜〜』

『ランランラン！』

　調子外れの即興の歌を歌いながらも、彼女達の手は止まらない。

「う、うん……」

　眉間に皺を寄せたレイが小さく唸って寝返りを打ち、上向きになったまま眠ってしまった。小さく口が開いている。

　寝返りを打つのに合わせて慌てて飛び上がったシルフ達が、まだ起きてこないのを見てそろそろと降りてくる。

『びっくりしたね〜』

『びっくりびっくり！』

『でも起きないね〜〜！』

『起きない起きない！』

『続きしたい子〜〜！』

『は〜〜〜〜い！』

　ブルーのシルフほどではないが、大きなシルフが笑顔でそう尋ねると、全員が満面の笑みでそう言って手をあげる。

『じゃあ続きを〜〜〜』

『始めましょうね〜〜〜〜！』

『もぎゅもぎゅなの〜〜！』

『もぎゅもぎゅ〜〜』

『もぎゅもぎゅ〜〜！』

　唯一無事だった前髪と下側になっていた為に編めなかったこめかみ部分の三つ編みを、集まってきたシルフ達が嬉々として編み始める。そして見事に編み上がったこめかみの細い三つ編みは、まるで生きているかのようにぴょこぴょこと右に左に振り回されて、また別のシルフ達の遊び道具になっているのだった。

「ううん……」

　レイが目を覚ましたのは、それからしばらく経ってからの事だ。

　今日の午前中は特に予定も無い。元々朝練はお休みにしてゆっくり休ませる予定になっていたので、ラスティは起こしにきてはいない。

「あれ？　もしかして寝過ごしたかな？」

　いつもよりも明るいカーテンの隙間から見える光に、枕に手をついてゆっくりと起き上がったレイが首を傾げながら小さくそう呟く。

『おはようレイ、外は良いお天気だよ』

　ふわりと飛んできたブルーのシルフが、レイの膝の上に降りて笑いながらそう言って手を振る。

「おはようブルー、えっと、今って何時？」

『少し前に十点鐘の鐘が鳴っていたな』

　膝からふわりと飛んで右肩に座ったブルーのシルフが、そう言いながらレイの頬にそっとキスを贈る。

「あれあれ、ちょっと寝過ごしちゃったね。ふああ……ううん、若干二日酔いっぽい。頭が痛いよう」

　こめかみ部分を指で押さえながら、眉間に皺を寄せたレイが目を閉じながら小さくため息と吐きつつそう呟く。

『昨夜は潰れるほどではなかったが、かなり飲まされておったからなあ』

　笑ったブルーのシルフの言葉に、苦笑いしつつ頷くレイだった。

「えっと、ウィンディーネ。良き水をお願いします」

　ベッドの横に置かれた小さなテーブルに伏せて置かれたカップを手にしたレイは、もう一度ため息を吐いてからカップを顔のところまで上げた。

　すぐに出てきてくれた二人のウィンディーネたちが揃ってカップの縁を叩く。

　あっという間に並々と現れたひんやりと冷たい水を、レイは笑顔でゆっくりと飲み干す。あと二杯用意してもらって飲み干したレイは、カップを置いて大きく伸びをした。

「よし、復活！　頭痛はほぼ無くなったね」

　嬉しそうにそう言ってベッドから起きたレイは、そこで自分の髪の状態に気づいて思いっきり吹き出したのだった。

「もう、また僕の髪で遊んだね。ラスティ！　おはようございます！　僕の髪が緊急事態につき、至急応援をお願いします！」

　丁度、レイが目を覚ましたのに気付いて部屋に入って来たところだったラスティは、いつも以上に豪快に絡まり合ったレイの髪を見て、堪える間も無く吹き出したのだった。