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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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もう一つの失われた旋律

「それで、どれがレイルズのおすすめなんだ?」

 ルークの言葉に目を輝かせたレイが、先ほどの菓子職人さんから聞いた説明を嬉々として始め、皆興味津々でレイの説明を聞いていたのだった。

「それじゃあ俺は、このレイルズおすすめの、栗の甘露煮とルバーブの砂糖漬けのパイってのをいただくよ」

「では、私もそれをいただきますわ」

「では、私はこちらのキリルのパイをいただきますわ」

 ルークとミレー夫人とイプリー夫人の三人が、レイのおすすめのお菓子の並んだお皿をそれぞれ金額指定札と交換で受け取る。

 それを見て、周りにいた人達も次々にレイがおすすめしたお菓子を購入してくれた。



「へえ、確かにこれは美味しい。言われてみれば、この赤い色は見覚えがあるな。お菓子の赤って全部キリルだと思っていたよ」

 一口食べたルークが、感心したようにそう言って笑う。

 レイも、別の小さなお菓子を一口で食べながら笑顔で頷き、先ほどの菓子職人さんが近くにいるのに気付いて軽く腕を叩いた。

「はい、ルーク様のおっしゃる通りで、以前はお菓子の赤と言えばキリルかベリーのジャムを使うがほとんどでした。この真っ赤な色のルバーブは、オルベラートの特産なのでございます。特に妃殿下がルバーブのお菓子がお好きとの事で、ご婚約が発表されて以降、オルダム近郊でも生産する農家が増えたおかげで旬の時期に新鮮な材料がたくさん手に入るようになり、砂糖漬けなどの保存の効く加工品などを大量に仕込めるようになったので、こうしていつでも扱えるようになりました」

 レイの合図に気付いた追加のお菓子を出していた菓子職人さんが、嬉しそうにそう言って解説してくれる。

「ああ、成る程。妃殿下がお好きとあらば、そりゃあ農家の人達も頑張って作ってくれるだろうな」

 蒼の森では作った事がない作物だったので、密かにどこで作っているのか考えていたレイは、オルベラートの特産だったと聞いて納得した。

「じゃあ、ニコスはきっと知っているだろうね。今度聞いてみようっと」

 ガンディの竪琴の件の報告もあるので、戻ってきてすぐになるが近いうちに連絡してみようと考えているレイだった。



 夜会の最後にもう一度両公爵のヴィオラによる見事な演奏が披露され、レイも張り切って残りの金額指定札をせっせと募金箱に押し込んで、同じく募金箱に金額指定札を押し込もうとしているルークと顔を見合わせて笑い合った。

 そして演奏を終えたゲルハルト公爵の口から、途中までの集計の時点ではあるものの、すでに目標金額を大幅に超えている事が報告され会場は拍手大喝采になったのだった。

「よかった。これで降誕祭の時に、一人でも多くの子供達に贈り物が出来るね」

 笑顔で拍手をしながら嬉しそうなレイの言葉に、ルークだけでなく周りにいた人達も笑顔で頷いてくれたのだった。



「うわあ、煙がいっぱいだね。えっと、シルフ、お願いだから煙が来ないようにしてね」

 会場を後にして、竪琴を持ったレイがルークに連れられて向かった部屋には、両侯爵や竜騎士達だけでなく、ここでも錚々たる顔ぶれが揃っていた。ただし聞いていた通り、全員が男性だ。

 既にあちこちで葉巻や紙巻きタバコに火が付けられていて、広い部屋だがうっすらと煙が充満している。

『ちゃんと守っているから心配せずともよい』

 少し喉が弱いらしいレイを守るため、ブルーは既にシルフ達に命じてレイの周りには絶対に煙草の煙が来ないようにしてくれている。

「ありがとうねブルー。えっと、それじゃあさっきの曲をもう一回教えてくれる?」

 レイが部屋に入って来たのを見て、部屋の隅の方で固まっていたウィーティスさん達が集まってくる。

 苦笑いしたゲルハルト公爵が自分の横のソファーを示してくれたので、一礼してそこに座る。

 ウィーティスさん達は、レイが座るソファーの背後へ回って早速譜面を取り出した。

「えっと、それじゃあ弾きますね」

 部屋にいる皆が笑顔で自分を見つめているのに気付き、そう言って一礼したレイは、一つ深呼吸をしてから持っていた竪琴を構えた。

 ブルーのシルフとニコスのシルフ達が何本かの弦の前に立ち合図を送ってくれる。

 笑顔でそれを見たレイは、教えられるままにゆっくりと先ほど弾いた旋律をもう一度、先ほどよりも少しゆっくりと弾き始めた。

 静かになった部屋にレイの爪弾く竪琴の音がゆっくりと響き渡る。

 先ほど弾いた部分だけでなく、その後に続く旋律も教えてもらいながら弾いていく。

 必死になって譜面を取るウィーティスさん達と違い、葉巻や煙草を手に目を閉じて聞き惚れている人や、ワインを片手にリズムを取りながら聞いている人もいる。



「優しくも哀愁漂う不思議な旋律だな」

「うむ、先ほども思ったが不思議な懐かしさを感じる調べだな」

 両公爵の言葉に、あちこちから同意する声が上がる。

 かなり長い曲だったが、無事に弾き終わったところで拍手が起こる。

 ウィーティスさん達三人は、お互いの譜面を突き合わせてそれはそれは真剣な様子で確認しあった後、揃ってレイを振り返った。

「あの、念の為もう一度……」

「いいですよ。それじゃあもう一度弾きますね」

 笑って頷き、ブルーのシルフとニコスのシルフに教えてもらいつつ、三度目の演奏で曲自体をかなり覚えてきたレイは、止まる事なく楽しそうに最後まで弾き終えた。

「ありがとうございました!」

 満面の笑みで譜面を抱えてお礼を言うウィーティスさん達を見て、レイは少し考えてブルーのシルフを見る。

「えっと、ねえブルー。以前教えてもらって弾いたのは、アルカーシュの神殿で演奏されていた四季の曲だったよね。これは何の曲なの? これもアルカーシュで演奏されていたの?」

 恐らく彼らが一番聞きたがっているであろう事を、レイが笑顔でブルーのシルフに尋ねる。

『ああ、これはファンラーゼンの前身である三つの国のうちの一つ、この地に城を築いていたファンボーデン王国で、降誕祭の祈りの場にて演奏されていた曲のうちの一つだよ。そのまま、祈りの曲、と呼ばれていたな。主に竪琴、あるいはヴィオラのみで演奏されていた、我の好きな曲のうちの一つだよ。どうだ? 良き旋律であろう?』

 笑ったブルーのシルフの得意そうなその言葉に、まさかのファンラーゼンの前身である国の曲だったと知り、ウィーティスさん達はそれはそれは大感激していたのだった。

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