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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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レイの演奏とそれぞれの時間

「よし、頑張ろう!」

 舞台袖で小さな声でそう呟いたレイは、手にしていたいつもの竪琴をそっと撫でた。

 ニコスのシルフ達が、その竪琴の上側部分に並んで座るのを見て、レイも笑顔になる。

「よろしくね。頑張って弾くから、もしも間違えそうな時にはこっそり教えてね」

 ごく小さな声でニコスのシルフ達にそう話しかける。


『もちろんもちろん』

『ちゃんと見ているから安心してね』

『大丈夫大丈夫』

『主様頑張れ〜〜〜!』


 最後は声を揃えて笑いながら応援してくれた。

「うん、応援ありがとうね。もちろん頑張るよ」

 レイも笑顔でそう言って竪琴を抱え直すと、一つ深呼吸をしてからゆっくりと舞台へ進み出ていった。


『あの執事に合図をすると砂時計がひっくり返されるからね』


 耳元で、ニコスのシルフの一人が教えてくれる。

 指さされた方を見ると、大きな砂時計を手にした執事がこっちを見ている。

 用意されていた椅子に座ったレイは、会場に向かって一礼してからその執事を見て小さく頷く。

 今回は、とにかく時間が限られているので会場への言葉での挨拶はしない。

 心得た執事が砂時計をひっくり返したのを見て、レイは早速演奏を開始した。

 しかし、始まったレイの演奏を聞いて会場が一瞬ざわめく。

 そしてそれを聞いた、血統主義のリーゼン夫人が口元を扇で押さえつつにんまりと笑う。

「おやおや、これは早速やってくれるようだね。ついでに入札者の面目も潰してくれると良いわ」

 ごく小さな声でそう呟いたが、はじまった演奏を聴いて次第に眉間に皺が寄り始める。



 会場に一礼しただけで早速演奏を始めたレイだったが、それは前奏部分の繰り返し部分を一部省略した演奏だったのだ。

 しかし、その後に続く主旋律の部分でもう一度会場内が密かにざわめく。

 始まったその演奏は、初心者がやりがちな繰り返す部分を略すのではなく、曲の一部を丸ごと飛ばしながらも聴かせる部分はしっかりと繰り返す演奏をするというもので、特に難しいとされる音が何度も上下する部分や、激しい波を表す人気の部分はそのまま丸ごと演奏するという、ある意味レイの竪琴を弾きこなす技術が際立つ演奏となっていたのだ。

 時折、チラチラと砂時計を見つつ演奏している様子を見るに、明らかに即興で省略しながら演奏している。

 レイの演奏に聞き惚れていた人達が、慌てたように募金箱に駆け寄り金額指定札を入れていく。

 また舞台から遠いところにいる人達は、赤い腕章をつけた執事に、金額指定札を渡してレイの名前を告げていた。こうしておけば、後程彼の名前の募金箱に入れてもらえる仕組みだ。

 あちこちで、レイの名前を記入した専用の袋に金額指定札を入れる執事達の姿があった。



 そして舞台の上で必死になって演奏していたレイだったが、途中である事実に気がついていた。

 繰り返す部分が多いと、演奏している時間を合わせるのが容易なのだ。

 こうなったら時間ピッタリで終わらせたくなったレイは、あえて繰り返す部分をさらに重ねて弾きながら、微妙な時間を調整していた。

 そして、最後の砂が落ちるのとほぼ同時に見事に演奏を終わらせる事が出来たのだった。

 どよめきと共に大きな拍手が起こる。

 無事に演奏が終わった時、レイの前に置かれた募金箱は、入りきらなかった金額指定札が箱の上に山積みにされた状態になっていたのだった。



「いやあ、見事だったよ」

「やってくれるだろうとは思っていたが、ここまでとは!」

「見事だった」

 舞台から下がって会場に戻ってきたレイは、早速両公爵とアルジェント卿に捕まってお褒めの言葉と主に貴腐ワインを勧められたのだった。

 一応それほど酒精の強くないものを選んで勧めてくれていたので、改めてお礼を言って大好きな貴腐ワインをいただいた。

「あの、せっかくですがまだこの後にも演奏があるので、貴腐ワインはまた後ほどいただきます」

 両公爵とアルジェント卿がレイにワインを勧めているのを見て、次から次へとワイングラスを手にした人達が集まり始めてしまい、慌てたレイは途中でそう言ってワインを断る羽目になった。

 その後は、ならばとこれをと、次々に用意されるお菓子をいただいて過ごした。

 もちろん、知り合いの誰かが舞台に上がって演奏をしているのを見たら、即座に金額指定札を取り出していたし、マイリーとヴィゴの二人の見事な演奏や、ルークのハンマーダルシマーなど、竜騎士隊の人達の演奏にも、もちろん張り切って金額指定札を書くレイだった。



 そんなレイの周りには多くの人達が常に集まっていて、リーゼン夫人をはじめとする血統至上主義の方々は、途中からは仲間内だけで集まってただ悪口を言うだけしか出来なくなっていたのだった。

 それでも文句を言いつつも、しっかりと彼らの募金箱にもそれなりの金額を入れていたのは、ある意味さすがと言えただろう。

 一方レイの方は、集まってこっちの様子を伺っている彼女達の存在にはもちろん気付いてはいたが、特に嫌がる様子もなくにこやかに挨拶をしていたし、彼女達が歌で舞台に上がった時にも、もちろん張り切って募金箱に金額指定札を入れていたのだった。

 そして、二度目の舞台の準備の為、呼びに来てくれた執事と一緒に一旦下がったレイは、次の演奏曲を確認しながら密かな笑いを堪えられないのだった。

 だって、反対側の舞台袖には放浪の賢者の衣装を着て付け髭を付けたマークとキム達が、それはそれは真剣な様子で控えているのが見えたからだった。

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