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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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曲の略し方とレイルズへの入札者

「えっと、一曲目は……さざなみの調べ。ううん、いきなり略すのが難しい曲がきたね」

 赤い腕章を身につけた執事から渡された予定表を見て、会場を見渡したレイは密かなため息を吐いた。

 さざなみの調べの曲は竪琴のために作られた曲で、特に流れるような上下の音の繋がりと時に大きく跳ねる音が続く為、弾き手の力量が試される曲なのだ。

 もちろん、曲自体は今のレイならばなんの問題もなく弾けるし何度も夜会で演奏しているのだが、今回は時間制限がある。間違いなく全部は演奏出来ない。

 せっかくなので、マーク達がいる時に時間超過して彼らに強制退場してもらいたいと密かに考えているレイにとっては、いきなりここでさざなみの調べがくるのはちょっと予想外だった。

 もちろん、入札をしている人達も、さざなみの調べが省略して弾くのに向いていない曲な事は分かっている。実は入札の際に、時間内に略すのが難しそうな曲をあえて選ぶ人も多い。この夜会に限って言えば、レイのように自分が聴きたいからと考えて入札の曲を決める人の方が少ないのだ。

「ああ、そっか。あそこを短くしてここと繋げば……うん、なんとかなりそうだね」

 一所懸命考えたレイの結論は、同じ音程を繰り返す曲を逆手に取り、あえて重なって何度も演奏する部分を省略して短くするというものだ。

 指で拍子を取りながら考えていると、誰かに前髪を引っ張られた。


『主様』

『一つ忠告だよ』

『確かにそれが一番簡単だろうけど』

『あまり切り詰めすぎると曲としての魅力が無くなってしまうよ』

『この曲は繰り返し演奏するのが魅力なのだからね』

『そこは心得ておかないと駄目だよ』


 不意に目の前に現れたニコスのシルフ達の言葉に、驚いたレイが顔を上げる。

「ええ、駄目かなあ?」


『主様はどこを切るおつもりなの?』

『我らにハミングで簡単に教えてくれる?』


 何か言いたげなニコスのシルフ達の言葉に頷いたレイは、少し考えてお菓子の並んだ壁際に駆け寄り、金額指定札に金額を記入して募金箱に入れてからチョコレートのお皿をもらい、少し離れた立食式のテーブルの一つに駆け寄りお皿を置く。

 ニコスのシルフ達がお皿の縁に並んで座るのを見てから、レイはチョコレートを一粒口に入れた。

 そのままごく小さな声でさざなみの調べの旋律を歌い始めた。



 指で軽くリズムを取りながら小さな声でのハミングだったが、何故か不意に止まる。

「あれ、えっと……」

 無言でしばらく考えて、止まった少し前の部分からもう一度歌い始めたが、また同じところで止まる。

 眉間に皺を寄せて無言で考えるレイを見て、ニコスのシルフ達が笑顔で頷く。

『主様にはもう分かったでしょう?』

『この曲で繰り返す部分を切るのは悪手なんだよ』

『途中でリズムがおかしくなってしまうの』

 真剣な彼女達の言葉に、レイも真剣な顔で頷く。



 実は、このさざなみの調べを短く演奏しようとすると、大抵の人が今のレイのように主旋律だけを残して繰り返す部分を略そうとする。しかしそれでは途中から曲のリズムが合わなくなってしまい、結果的に曲自体が崩壊してしまうのだ。



「ええ、じゃどうすればいいの? もう諦めて、ここでも強制退場かな?」

 二つ目のチョコレートを口に入れたレイの言葉に、ニコスのシルフ達が笑顔で首を振る。

『もちろんそれでも構わないけれどね』

『いつも頑張っている主様には』

『我らが正解を教えてあげるよ』

『こうすれば良いからね』

 笑ったニコスのシルフ達がレイの両肩にふわりと飛んでいき、こっそりと耳元で正解を教えてくれる。

「へえ、それで良いんだ」

 納得したレイが嬉しそうな笑顔で頷き、三つ目のチョコレートを口に入れたところで執事がそっと近づいてきた。

「レイルズ様。そろそろ演奏のご準備をお願いいたします」

「はあい、今行きます」

 そう答えたのはいいものの、まだ半分以上残っているチョコレートのお皿を見て、残念そうな顔になる。

「では、こちらはお預かりしておきます」

 にっこりと笑った別の執事がそう言ってくれたのでレイも笑って頷き、チョコのお皿を預けて赤い腕章をつけた執事と一緒に先ほどとは別の舞台へ向かった。


『頑張れ主様〜〜〜〜!』


 執事とともに舞台裏に下がっていくレイを見送ったニコスのシルフ達が、笑いながらそう言って声をかける。


『頑張れ〜〜』

『頑張れ〜〜』

『頑張れ〜〜』


 会場内に大勢いたシルフ達が、それを見て楽しそうに彼女達の真似をし始める。

「おう、応援ありがとうな」

 先ほど演奏を終えて会場へ戻ってきたロベリオが、シルフ達の声を聞いて笑いながらそう言って手を振る。

『皆頑張れ〜〜〜!』

 その様子を見て一斉に笑ったシルフ達が、全員纏めての応援をしてから大はしゃぎで手を叩き合って踊り始めたのだった。

「おお、レイルズの一人での初舞台か。ええ、しかも曲はさざなみの調べ? うわあ、初心者のレイルズにいきなりこれって……誰だよこれを入札した奴」

 次の奏者と曲の書かれた紙が舞台横の募金箱に貼られるのを見て、ロベリオが呆れたようにそう言って笑う。

 そして最高金額で落札したその人物の名前を見て、堪える間も無く思いっきり吹き出した。

 そこにはこう書かれていたのだ。


 演奏者 レイルズ

 演奏曲 さざなみの調べ

 入札者 竜騎士ルーク、竜騎士マイリー、ディレント公爵、ゲルハルト公爵、アルジェント卿

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