共演者とは?
「うわあ、僕の横に舞台の番号が複数書かれている!」
「おお、良かったじゃあないか。つまり複数人がお前に投票してくれたと言う事だよ。しっかり演奏しなさい」
笑ったヴィゴの言葉に、レイが満面の笑みで頷く。
レイの名前の横に書かれていた番号は全部で四つ。竜騎士隊の人達の横に書かれている番号の数も全員が四つだから、おそらく個人で演奏する上限の回数が四回なのだろう。
掲示板に貼られた他の人の名前を見ていると、舞台番号が書かれていない人や一つの人もいる。
自分にたくさんの人が投票してくれたのだと分かり、なんだか嬉しくなってきた。
「あれ? 最後に丸印のついた番号があるけど、あれは何ですか?」
ルークの名前の横にも丸のついた番号があるのに気付き、思わずそう尋ねる。
「ああ、あれは他の誰かと一緒に演奏する場合に書かれる印だよ。その辺は執事が説明に……ほら、来てくれたよ」
まさにその時、手に大きめの紙の束を持った赤い腕章をした執事が駆け寄ってきた。
「失礼致します。こちらがルーク様の演奏予定。こちらがレイルズ様の演奏予定でございます」
渡されたそれには、レイの演奏する予定の時間と場所が詳しく書かれていた。しかもその際に演奏を希望された曲も書かれているので、それを見てどれも演奏出来る曲で、密かに安堵したレイだった。
「それでお前は、誰と共演するんだ?」
「え? 何処に書いてあるんですか?」
言われて初めて見るその予定表を確認したが、何故かどこにも共演者の名前と演奏曲が書かれていない。
「ああ! ルークはお父上と共演なんですね!」
首を傾げつつルークの手元の書類を見て、ディレント公爵の名前が書かれているのに気付いて目を輝かせる。
「まあ、来るだろうなとは思っていたけど、やっぱりか……」
苦笑いしたルークがそう言ってため息を吐く。
なんだかその様子があまり嬉しそうではなくて口を開きかけた時、別の赤い腕章をつけた執事が近寄ってきて一礼した。
「失礼致します。レイルズ様、共演者の方が打ち合わせを希望していらっしゃいますが、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
あえて共演者が誰なのかを言わない執事をルークがチラリと見る。即座にその視線に気付いて、笑顔で何も言わずに一礼する執事にルークが小さく笑う。彼にはもうそれだけで、共演者が誰なのか分かってしまったからだ。
「行っておいで」
何も聞かずに、レイの背中を叩いて執事の方に軽く押しやる。
「分かりました。ちょっと行ってきますね。えっと、失礼します」
少し戸惑っていたようだがルークにそう言われてレイは笑顔で頷き、最後は少し心配そうに自分を見ているイデア夫人とクローディアに一礼してから執事を振り返った。
「では、ご案内します」
改めて一礼した執事が歩き始めたので、レイもそれに続いた。
てっきり同じ会場内にいる誰かの元へ連れて行かれるのだと思っていたが、会場から一旦出て廊下を歩き、別室へ案内されて内心で驚く。
「どうぞ、こちらです」
扉の前でそう言い、軽くノックをして扉を開けてくれた。
出てきた執事について中に入る。
「おお、わざわざすまんな」
部屋の中央に置かれた大きなソファーには、初めて見る服装のガンディが笑顔で手を振っていたのだ。
「ええ! ガンディ! 僕の共演者ってガンディなんですか?」
驚くレイに、ガンディが吹き出して大笑いしている。
「おう、そうじゃよ。まあ座りなさい」
笑顔で、ガンディが座っているソファーの隣の空いた場所を示されて素直にそこに座る。
「実は先日、陛下と飲んでいてちょっとした賭けをしてな。で、まあ結果としては見事に負けたわけだ」
笑いながらそう言って肩をすくめる。
「なんでも一つ言う事を聞く約束をしてその場は終わったのだが、昨夜急に陛下から呼び出されて、せっかくなので両公爵主催の寄付集めの夜会で一曲弾けと言われてしもうてな」
苦笑いしながら教えられたその内容に、どうして急にガンディが夜会に出てきたのかの理由が分かって納得して笑顔で頷く。
「実は内緒なのだが、別室にて陛下とマティルダ様、それからティア妃殿下もお越しになっておられる。特別招待客というわけじゃ。それでせっかくなので、陛下とマティルダ様も其方と一緒に演奏したいとの仰せじゃ。これは、最初の両公爵の演奏の際に一緒に、という意味だがな。もちろん時間制限有りじゃよ」
さらに驚きに目を見開くレイを見て、もう一度ガンディが吹き出す。
「いや、ここまで素直に驚いてくれると、驚かせ甲斐があると言うものだのう」
「えっと、あの、笑い事ではなくて……うひゃあ!」
どう言ったら良いのか分からなくてパニックになっていると、突然背後から肩を叩かれて文字通り悲鳴を上げて飛び上がった。
そして振り返ったそこに、満面の笑みの陛下とマティルダ様、そしてティア妃殿下とアルス皇子の姿があったのを見たレイは、驚きのあまり座っていたソファーから慌てて立ち上がりかけて足を滑らせ、仰向けに背中から床に転がり落ちて全員を慌てさせる事になったのだった。




