休憩室にて
「ああ、よかった。間に合った〜〜!」
それぞれ席に座ったレイ達がまさにお菓子を食べようとしたその時、書類の束を抱えたタドラとヴィゴが休憩室に入ってきて、机の上に並んだお菓子を見たタドラがそう言いながら笑った。
「ああ、おかえり。もちろんタドラとヴィゴの分もあるって」
振り返って笑顔で手を振るルークの言葉に、持っていた書類を執事に預けたタドラが笑って拍手をしていつもの席に座る。ヴィゴも笑って頷き持っていた書類を置いて席に座った。
当然のように即座に二人の分の、お茶とお菓子が用意される。
満面の笑みで、早速ニコスがお土産に持たせてくれた栗の甘露煮が入った焼き菓子を大きく切って口に入れるレイを見て、一つため息を吐いたタドラも、嬉しそうに焼き菓子をナイフでそっと切って口に入れた。
「うん、やっぱりニコスが作ってくれるお菓子は美味しいね」
口の中の物をしっかりと飲み込んだレイが、嬉しそうなため息を一つ吐いてからカナエ草のお茶を口にする。
「確かに美味しいね」
タドラも何度も頷きながらカナエ草のお茶に手を伸ばした。
しばらくそれぞれに出されたお菓子とお茶をゆっくりと楽しんでいたのだが、レイはあっという間に用意されたお菓子を平らげてしまい、これまた当然のように出て来た二個目のお菓子を嬉々として食べ始めるのを見て、マイリー達に呆れられていたのだった。
「神殿側との話は上手く纏まったみたいだな。それで工事はいつから始めるんだ?」
おかわりのお茶が用意されている間に、タドラが先ほどの書類の確認をし始めたのを見てカウリが口を開いた。
「ああ、その件は後でカウリに相談しようと思っていたんです。前回、ジャスミンが来る際の女性用の階の工事はカウリが差配して下さったんでしたよね?」
「おう、ヴィゴに教えてもらいながらだったけどな」
「俺が教えたのは、申請書類の書き方だけだったと思うぞ」
笑ったヴィゴの言葉に、カウリも苦笑いしている。
「ちょっと質問なんですが、これによると、各部屋の基礎工事はもう全部終わっているんですよね? ジャスミンが使う場所だけじゃあなくて?」
取り出した書類を見ながらのタドラの質問に、カウリが頷く。
「おう、ちょっと見た事がないくらいにとんでもない額の予算がついていたからさあ。それならいずれニーカもここへ来る事になるのは分かっているんだし、やるなら一度で済ませた方が良いかと思って、改修工事だけは全部終わらせたんだよ。実際に現場を俺が確認してお願いしたのは、傷んでいる箇所、特に各部屋の床と天井周りの補修と壁紙の張り替え。廊下の床も、床板が明らかに浮いている箇所が何箇所もあったので全部張り直してもらった。それと窓も隙間が空いている箇所が何箇所もあったから、これもまとめて枠ごと全部新しくしてもらった。後は水回りを一新してもらったのと排水関係も併せて全部まとめて綺麗にしてもらったな。ここは特に女性の場合は、絶対に必要だろう? 家具や絨毯は、使う予定の部屋にしか入れていないから、使う部屋を決めたら内装の確認と家具の搬入は頼むよ」
「待って、それってほぼ全部終わってますよね。それなら、こんなにたくさん予算は要りませんよ?」
カウリの話を聞いて、慌てたタドラがもう一度書類を確認してからマイリーを振り返る。
「気にするな。使える予算は潤沢にあるんだから、遠慮せずに良い物を用意してやってくれ」
「でも、ちょっと多過ぎません?」
苦笑いしつつ首を振るマイリーを見て、タドラはため息を吐いて書類を置いた。
「これは、実際に使う女性の意見を聞いてから決めるべきだなあ。僕には全然分からないよ。後でジャスミンに聞いてみよう」
一連のやり取りを不思議そうにしつつも黙って聞いているレイを見て、ルークが笑顔でレイの腕を軽く叩く。
「ああ、ちょうど良いから教えておくよ」
「はい、なんでしょうか」
飲んでいたカナエ草のお茶が入ったカップを置いたレイが、慌てたようにルークに向き直る。
「ああ、そんな難しい話じゃあないよ。ニーカの今後の予定が決まったからね」
真顔になるレイを見て、ルークも真顔で頷く。
「神殿側とタドラが色々と交渉を重ねてくれて、ニーカは年が明けたら本部へ正式に引っ越してくる事になったよ。彼女の身柄は正式に竜騎士隊の所属になるので、引っ越しに合わせて、彼女は還俗して一般人となり神殿での三位の巫女の資格は返上される事になる」
「やっぱり、そうなるんですね」
「まあ、竜司祭となる事が決まっている以上、神殿内部での低い身分は逆に邪魔になりかねないからな。残すかどうかは最後まで揉めたんだけど、結局、正式に還俗するって形に収まったよ」
横からマイリーが苦笑いしつつ補足してくれ、タドラも困ったように笑っている。
「とにかく強情でしたからねえ。まあ、神殿側としては、還俗する前例を幾つも作りたくないみたいでしたからねえ」
何やら言いたげなタドラの言葉に、カナエ草のお茶の入ったカップを持つレイの手が止まる。
なんとなく全員が自分を見つめているのに気付いて、唐突に耳まで真っ赤になる。
レイ以外の全員が同時に吹き出し、遅れてレイも吹き出した。
「まあ、滅多にない還俗が同じ年に二例も出るとなると、さすがに向こうも警戒するか」
「だけど、別にわざとじゃあないから仕方が無いって」
マイリーとルークがそう言って揃ってレイを見る。
「うう、そんな先の事、僕にも分かりません!」
素直なレイの叫びに二人が満面の笑みで頷いている。
「まあ、今は焦って答えを出す必要はないさ。だが、何があっても我々はお前の味方だから安心しなさい」
「あ、ありがとうございます!」
これ以上ない笑顔のヴィゴの言葉に、耳まで真っ赤になったレイはなんとか頷いてお礼を言う。
「はあ、不意打ちはやめてください〜〜!」
真っ赤になって突っ伏すレイを見て、休憩室は暖かな笑いに包まれたのだった。




