朝練と今日の予定
「おはようございます！」
「おはようございます！」
「おはよう。よろしくね！」
別室で基礎運動をするロベリオとティミーと別れていつもの朝練の訓練場に来たレイは、すぐに駆け寄って来てくれたマークとキムと笑顔で挨拶を交わし合い、早速柔軟体操を始めていた。
しかし、休暇の後半は少ししか柔軟体操をしていなかった事もあって、案外体が硬くなっていて驚きの声を上げたレイだった。
「ううん、ちょっと思っていたよりも体が硬くなってる気がする。気を付けて柔軟体操をしないとね」
「ああ、休暇中は確かにそれほどまとまった運動は出来ないでしょうから、確かに体は硬くなりがちですね。お怪我をなさいませぬよう、ゆっくり戻していきましょう」
レイの背中を押してくれていたマークが苦笑いしながらそう言い、少し押す力を弱めてくれた。
「ええ、そこはしっかり頑張って早く戻さないと駄目なんじゃあないの？ 構わないからもっと押してくれて良いよ」
屈伸運動をしながら器用に顔だけ振り返ったレイの言葉に、マークとキムが二人揃って慌てたように首を振る。
「駄目です。レイルズ様。無理は禁物ですよ！ 体が硬くなっていると思わぬ怪我の原因にもなりかねませんから！」
「ええ、そこまで酷いわけじゃあないのに」
口を尖らせるレイの言葉に、二人がまた揃って首を振る。
「駄目です。焦らずゆっくりやりましょう！」
「うう、分かりました」
眉間に皺を寄せて口を尖らせつつ返事をするレイをうっかり真正面から見てしまったマークとキムは、堪えきれずに思いっきり吹き出してしまい、誤魔化すように揃って咳き込んでレイに心配されていたのだった。
途中に、今日は二人も精霊魔法訓練所へ行くのだと聞き、一緒に行く約束をこっそりしたのだった。
いつもよりも念入りにしっかりと準備運動と柔軟体操を終えた後は、来てくれたキルートに一対一で相手をしてもらった。
しかし、キルートからもいつもよりも少し動きが悪いですねと指摘されてしまい、後半は改めてキルートの指示の下でゆっくりと剣術と棒術の基礎の型をなぞる訓練をして過ごした。
「ううん、基礎運動の重要性を認識する時間になっちゃったなあ」
そろそろ朝練の終了の時間になり、いつも以上に出た汗を拭いながら日々の訓練を続ける事の重要性を身にしみて理解する時間になったのだった。
「お疲れさん。あれ？ どうしたんだ。ずいぶんと汗をかいているじゃないか」
ロベリオとティミーと合流したところで、いつもならふわふわな髪の毛が汗のせいでペシャンコになっているのを見て心配されてしまった。
「大丈夫です。ちょっと体が硬くなっていたので、乱取りには参加せずに基礎運動と基本の型の確認をずっとしていたんです。動きはゆっくりなんだけど、あれってずっとやっていると結構辛いですよね」
レイの説明に納得したロベリオが苦笑いしながら頷く。
「レイルズ君は相変わらず真面目だねえ。俺だったら間違いなく休憩してるな」
「それは駄目です！」
「それは駄目です！」
左右から年下の二人に真顔で注意されてしまい、歳上の面目丸潰れになってしまったロベリオだった。
一旦部屋に戻り、しっかりと汗を流してからいつもの竜騎士見習いの制服に着替えて食事に行く。
「ねえラスティ、マイリー達はまだ起きていないの？」
いつものように山盛りに取ってきた食事を平らげながら、気になっていたので隣に座ったラスティに質問する。
「マイリー様は、今日まで休暇のご予定ですので、お目覚めにはなっているようですがお部屋でゆっくりなさっておられますね。ヴィゴ様とルーク様とカウリ様は、先ほど朝食を終えられて会議に出席の為に揃ってお城へ向かわれました。ちなみにタドラ様もお食事を早々に終えて神殿へ、ユージン様は、所用で昨日からご実家へお戻りになられています」
マイリー達でなく、全員の予定を教えてくれる。
「あれ、そうなんだ。休暇明けなのに朝から会議ってご苦労様だね。えっと、ティミーの予定は？」
レバーフライを二枚重ねで丸パンに挟みながら、反対側に座ったティミーを振り返る。
「僕も今日は、精霊魔法訓練所です」
「ああ、そうなんだね。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
レイの半分もない食事を、レイよりもゆっくりと食べていたティミーが、嬉しそうな笑顔でそう言って頷く。
「巫女様達も今日は来られる予定のはずですので、これでマーク軍曹とキム軍曹が来てくれたら、久し振りに全員揃いますね」
「ああ、二人も来るって言っていたよ。じゃあ、久し振りの全員集合だね」
レイの嬉しそうな言葉に、ティミーも嬉しそうに何度も頷くのだった。
「キム軍曹が書いた合成魔法に関する論文を全て読ませてもらいました。凄いなあ。僕も頑張ってもっといっぱい勉強しないといけませんね」
「ええ、もう全部読んだの？ ティミーはまだ、精霊魔法に関しては基礎講義の途中だって聞いたよ」
驚いたレイが、口の中の物をしっかりと飲み込んでから驚いたように目を見開いてティミーを見た。
「はい、でも基礎講義の教科書は全部読み終えました。もう、次の魔法陣の展開に進めるそうなんですが、実技でまだ幾つか不安な部分があるので、今はそこを中心に教えていただいているところです。あ、僕も癒しの術が安定して使えるようになりましたよ。攻撃系の精霊魔法はあまり得意では無いんですが、癒しの術に関してはかなり優秀だって教授に褒めていただきました」
「ティミー凄い！」
あまりティミーの勉強の進み具合を聞いていなかったレイは、得意げに報告してくれるその内容を聞いて、何度も驚きの声を上げていたのだった。
どうやら、武術の面では体が小さい事もあってまだまだこれからだが、座学や知識面ではティミーは相当優秀な生徒のようだ。
彼がここへ来てからの時間を考えて、もう感心するしかないレイだった。
