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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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再会

「わあい、ニコスのお弁当だ!」

 渡されたお弁当の包みを右手に持ち、カナエ草のお茶の入ったカップを左手に持ったレイは、周りを見回して少し考えてから猫のように丸くなって座っているブルーのところへ駆け寄って大きな脚に座った。

 持っていたカップは、当然のように出て来てくれたノームに渡して持っていてもらう。

 それぞれにしっかりと食前のお祈りをしてから、ニコスが用意してくれたお弁当の包みを見てこれ以上ないくらいの笑顔になったレイは、包にキスをしてからそっと開いた。

「うわあ、すっごく美味しそう! 僕の好きな生ハムがたっぷりだ。あ、こっちは何かな?」

 渡された包みは二つ。一つは柔らかい白パンの間にキリルのジャムを塗って、そこにたっぷりの生ハムと薄く切ったりんごが挟んである。

 もう一つの包みには、粒辛子を塗ったふわふわでとても美味しそうな雑穀パンの間に、分厚く切って焼いた大きな燻製肉と塩漬けのキャベツを刻んだものがこれもたっぷりと入っている。

 早速大きな口を開けて、分厚い燻製肉が何枚も挟まった雑穀パンにかぶりついた。

「確かに、皆が口を揃えて美味しいって言うわけだよ。これは確かに美味い」

 カウリが感心したようにそう呟き、開けた包みの中に入っていた生ハムとリンゴを挟ん白パンを、マイリーとルークも一度顔を見合わせて嬉しそうに頷き合ってから、それぞれ持っていた包みを開けて食べ始めた。

「綺麗な景色の中で、美味しい弁当を食べると、一層美味しく感じるよね!」

 あっという間に一つ目を食べ終え、早くも二つ目を食べ始めたレイの言葉に、カウリは呆れ顔だ。

「そんなにがっつくなよ。喉を詰まらせても知らないぞ」

 カナエ草のお茶にそっと息を吹きかけながら飲んでいたカウリが、その時不意に顔を上げて立ち上がった。

 膝に乗せていた、まだ開けていない二個目のお弁当の包みが地面に転がる。

「ああ、落ちちゃったよ。せっかくのお弁当なのに、気をつけないと」

 それを見たレイが、地面を見ながら立ち上がって転がったお弁当の包みを拾った。

「はい……どうしたの?」

 しかし、カウリは差し出されたそれには見向きもせずに、レイの肩越しに森の方を見ている。

「何? どうかした……?」

 包みを持ったままそっと後ろを振り返ったレイも、見えたそれに気づいた瞬間、咄嗟に上げそうになった声を堪えるため腕で自分の口を押さえた。



 彼らからわずか10メルトほど離れたところにある森の外れの巨木の下に、いつの間にか巨大なケットシーが現れていて、座ってじっとこっちを見ていたのだ。



 この距離は、野生の動物にとっては充分過ぎるくらいに狩りの範囲内だ。

 あのケットシーが本気で襲いかかってくれば、シルフ達に防御の指示をする間も無く殺されるだろう。

「おいおい、竜がいたら来ないんじゃあなかったのかよ」

 ごく小さな声でそう呟いたカウリが、食べかけのパンを包みごとそっと地面に置いた。

 完全にケットシーと目が合ってしまい動けないレイの右手は、拾ったお弁当の包みを掴んだままだ。

「おい、そいつを落とせ。右手は開けておかないと」

 カウリの焦ったような小さな声に、レイは無言で首を振るだけだ。

 マイリーとルークも、二人の様子がおかしいのに気づいた直後にケットシーの存在に気が付いたが、何も出来ずに揃って動けないでいた。

 周囲に集まったシルフ達は、緊張をはらんだ表情でじっと見つめているだけだ。

 黒っぽい赤毛の縞模様のその巨大なケットシーは、しばらく無言でレイを見つめていたが、不意に目を瞬き尻尾を軽く打ち振った。

 積もっていた落ち葉が、軽い音を立てて飛び散る。



「これは一体何事ぞ? あの小さかった人間ではないか。わずかの間にここまで大きくなるとは、人の子の成長とは早いものよなあ」



 目を細めたそのケットシーの嬉しそうな言葉に、カウリ達の目が見開かれる。

「ああ、やっぱりあの時の……えっと、あの子じゃ無くてお母さんかな?」

 満面の笑みになったレイの言葉に、ゆっくりと起き上がったそのケットシーはもう一度尻尾を打ち振った。

 また落ち葉が舞い飛ぶ。

「父親にございます。主殿。その節は大変お世話になり申した」

 面白がるようにそう言って森の方を見る。木々の間にあと二匹の親子のケットシーの姿が見えて、レイは歓声をあげた。

「よかった。あの子供も元気そうだね」

「ああ、言ったであろう?」

 首を伸ばしてくれたブルーの大きな鼻先をそっと撫でる。

「主殿が我が森にお越しとあってご挨拶に参りましたまで、では、これにて」

 平然とそう言ったその巨大なケットシーは、ゆっくりと立ち上がるとそのままゆらゆらと尻尾を揺らしながら森の中へ消えていった。待っていた親子がそれに続く。

 その仲睦まじい様子の三匹の姿が木々の間に消えて完全に見えなくなるまで、誰一人声を上げる事すら出来ずに、無言で森を見つめていたのだった。

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