出発
「お待たせしました!」
居間へ駆け込んだ時には、もうすっかり身支度を終えたマイリー達が待っていて、慌てたレイが直立して大きな声でそう叫ぶと、マイリー達が揃って吹き出した。
「いやいや、俺達も順番に世話になったお礼と挨拶をして、ちょうど終わったところだよ」
「そうそう。それでここへ来た時のお楽しみをニコスから受け取ったところだよ」
笑ったルークが、大きな包みを手にして見せる。
「ああ、お昼のお弁当!」
目を輝かせたレイの叫びに今度は全員揃って吹き出したのだった。
「じゃあ、レイルズの準備も出来たみたいだし、行くとしようか。と言っても、まずはあの大荷物を、もう一度ラピスに装着させなければいけないんだけどな」
「ああ、あの極小文字の石板は、最高の土産になるだろうからな」
立ち上がったルークの言葉に、嬉しそうなマイリーがそう言って頷く。
「殿下は、絶対に大喜びしそうっすね」
笑ったカウリの言葉に、レイも笑顔で大きく頷いたのだった。
「ブルー、お待たせ!」
螺旋階段を上がって上の草原へ到着した一同は、まずはギードとバルテン男爵とアンフィーの三人が坂道を上がって運んでくれた、持って帰る荷物が入った木箱をそれぞれの竜達に装着していった。
今回もブルーがシルフ達に命じてくれていて、レイ達が上がってきた時には、それぞれの竜達の体に鞍や手綱が既に装着した状態になっている。
「ありがとうね、ブルー」
差し出された大きな鼻先にキスを贈ったレイは、嬉しそうにそう言ってから置いたままになっていたあの巨大な石板を見た。
人の力だけでは到底運べない巨大な石の塊だ。
「では頼む」
ブルーが一言そう命じると、大勢のシルフ達が現れて石板を持ち上げた。
「手伝います!」
慌てたように、マイリー達がそう言いながらブルーに駆け寄る。
「問題ない。そこにいなさい。この重さは人の子には危険だ」
笑ったブルーがそう言って伏せるように座っていた胸元を上げて座り直す。
ふわふわと浮いて移動した巨大な石板は、ブルーの胸元に置かれ、地面に置いてあった木箱から何本ものベルトが浮き上がる。
精霊の見えないアンフィーは、もう驚きすぎて目を見開き口をポカンと開けたまま固まっている。
まるで生きているかのようにベルトが動き、石板に巻き付いてからブルーの胴体に巻かれたベルトの金具と合わさって、石板を固定していく。
「うわあ、すっげえ」
呆れたようなカウリの呟きに、ただただ見ているしかする事がない一同は、揃って呆然と頷いていたのだった。
「準備完了だな」
あっという間にしっかりと固定された石板を見て、満足そうにブルーがそう言って笑う。
「ご苦労様、ブルー。えっと、もう背中に乗っても大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。だがその前に家族にしっかりと挨拶をしておかないとな」
大きな音で喉を鳴らしたブルーの言葉に、一瞬息を飲んだレイは小さく頷いて振り返った。
無言で自分を見つめているタキスに、レイも何も言わずに駆け寄って両手を広げて抱きしめた。今ではもう、自分よりもはるかに小さくなってしまったその体を。
「レイ、愛しい私のもう一人の息子。オルダムの地での貴方のこれからが健やかでありますよう。貴方の健康と活躍を、毎日、この地から精霊王に祈らせてもらいますよ」
伸び上がってレイの頬にキスをしたタキスの言葉に、レイはぐっと涙を堪えて頬にキスを返した。
「レイ、どうか体には気をつけるんだぞ。何か困った事があったら、いつでも遠慮無く呼んでくれて良いんだからな」
タキスから離れたレイに、少し無理をして笑ったニコスもそう言ってそっと抱きついてきた。
「うん、ありがとう。僕、頑張るからね。でも、もしまた何かあったら……その時はよろしくね」
顔を見合わせて笑い合って、お互いの頬にそっとキスを贈った。
「レイ、達者でな。次に会うのがいつになるのかは分からんが、もっと立派になった其方と会うのを楽しみにしておるからな」
笑ったギードの言葉に、レイはとうとう我慢出来ずにこぼれた涙を拭おうともせずに、しっかりとギードを抱きしめた。
「うん……うん……」
鼻を啜りながら何度も頷くレイの腰の辺りを、抱きしめ返したギードがそっと叩いて離れる。
「アンフィー、子竜達の事よろしくね」
苦笑いしつつ頷いたアンフィーと、しっかりと握手を交わす。
「はい、お任せください。レイルズ様もどうかご無理なさいませんように」
笑顔で頷き合って手を離す。
バルテン男爵は、にっこりと笑って右手を差し出した。
「いってらっしゃいませ。これからも、オルダムでの更なるご活躍をお祈りしておりますぞ」
「はい、森の皆の事、どうかよろしくお願いします。それから、ギードと仲良くね」
最後はごく小さな声でそう言い、手を離したバルテン男爵は吹き出しそうになるのを誤魔化したおかげで、いきなり咳き込んでアンフィーに心配されていたのだった。
「じゃあ、いってきます! 皆も元気でね!」
最後に大きな声で笑ってそう言ったレイは、ブルーを見上げてその場から大きく飛び上がった。
途中、首元のベルトを掴んでそのまま一気に背中へ飛び上がる。もちろん、シルフ達の助けを借りての大ジャンプだ。
「お見事!」
笑ったギードの声に、ブルーの背中の鞍に座ったレイが得意げに下に向かって手を振る。
手を振りかえしてくれたタキス達を見て、ひとつ深呼吸をしたレイはブルーの首元をそっと叩いた。
「お待たせブルー、じゃあ行こう」
首を上げて自分の背中に乗るレイを見たブルーは、ゆっくりと体を起こして大きく翼を広げた。
それを見て、既にそれぞれの竜の背中に上がっていたマイリー達も竜に合図を送り、それぞれ翼を広げた竜達がゆっくりと上昇していく。
最後にブルーの巨体がゆっくりと上昇していくのを、タキス達は涙を堪えて笑顔で見上げている。
上空でゆっくりと旋回した竜達は、マイリーの乗ったアメジストを先頭にして綺麗な三角の陣形を取り、ブルーが後ろについてそのまま東を目指してゆっくりと飛び去って行った。
草原に立ったタキス達は、その姿が霞んで見えなくなるまで、誰一人口を開かず、黙っていつまでも見送っていたのだった。




