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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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いってきます

「さて、名残惜しいがそろそろ時間だよ」

 マイリーの言葉に一瞬笑いが止まったレイは、それでも一つ深呼吸をしてから笑顔で振り返った。

「もうそんな時間なんだね。えっと、遠征用の制服に着替えてくれば良いんですか?」

「ああ、それでいいよ。それじゃあ戻ろうか。子竜達はあのままでいいんですか?」

 ポリーが咥えたおもちゃを、二匹がかりで引っ張って遊んでいる子竜達を見たマイリーが指差しながら近くにいたタキスを振り返る。

「はい、ここはしばらくシルフとノームに面倒を見てもらうように頼んでおきます。それにしても子竜達との新しい遊び方をレイに教えてもらいましたね。おかげで当分の間、子竜達と遊ぶ時に楽が出来そうです」

 笑ったタキスの言葉にマイリーも苦笑いしている。

「確かにそうでしょうね。あれを見ただけで、彼がいかに優秀な精霊使いかがお分かりでしょう? 最近では、精霊魔法訓練所の教授達からも、こと精霊魔法に関してはもう教える事が無いと言われていますよ。大学での成績も非常に優秀なようです。まあ若干苦手な科目はあるようですがね。我々が日々教える事にしても、ごく形式的な決まり事ばかりですよ」

 小さな声で言われたマイリーの言葉に笑ったタキスが嬉しそうに頷く。

「確かに思っていた以上に優秀なようですね。それでもオルダムで得る知識も経験も、ここにいては決して知り得ない事ばかりです。どうか、あの子の事よろしくお願いいたします」

「もちろんです。出来る限りの事をすると約束しますよ」

 最後は真剣な様子のタキスの言葉に、真顔になったマイリーもそう言って頷く。

「それから確かに本人の口から聞いた事がありますね。苦手授業の筆頭は、古典文学と兵法と用兵なのだとか。基礎医学にも若干苦労しているようですね」

「さすがによくご存じだ。まあ、苦手といっても、どの科目もそれなりの成績は取れていますので、留年するほどではないですからご心配なく」

 笑ったマイリーの声が聞こえたのか、ルークとカウリも苦笑いしつつ頷いている。

「護衛役の者の報告によると、古典文学の授業があった日の行き帰りでは、ひたすら古典文学への文句を連ねているのだとか」

「あはは、それは俺も毎回聞いていますよ。どうして同じ言葉で二個も三個も意味があるんだよ! ってね」

 最後のレイの口調を真似たカウリの言葉に、聞いていた全員が揃って吹き出す。

「ん? どうかした?」

 子竜達を見ていて、今の話が全く聞こえていなかったレイが、不思議そうに振り返って首を傾げる。

「何でもないよ。それじゃあ戻ろうか。着替えないとな」

 マイリーは、上半身は普段用の楽な服装だが、補助具を取り付けてあるズボンはもう遠征用の制服を着ている。

「はい。えっと、そのおもちゃはあげるから好きなだけ遊んでね。きっと、壊れたらニコスかアンフィーが新しいのを作ってくれると思うよ」

 駆け寄って来た二匹に、レイは膝を少し曲げて子竜達に顔を寄せて真剣な様子で言い聞かせている。

 子竜達も真剣な様子で時折うんうんと顔を上下させながら、分かっているのかいないのかは別にして、一応はしっかりと聞いているみたいに見える。

「それじゃあ元気でね。遊ぶのは良いけど、怪我には気をつけるんだよ」

 手を伸ばして二匹の頭をそっと交互に撫でたレイは、一つため息を吐いてから顔を上げた。

 そして、待ってくれていたルーク達と一緒に早足で岩の家へ戻ったのだった。

 岩に取り付けられた、家へと続く螺旋階段を降りていくレイの後ろ姿を、子竜達は何か言いたげに扉が閉まるまでずっと見つめていたのだった。



「着替えはこれでよしっと。次はいつ帰って来られるかなあ……」

 部屋に戻って着替えを終えたレイは、小さくそう呟いてベッドに座った。

 机の上には、遠征用の道具が入った袋が置かれている。

 お土産も全部渡したし、持って行くものは木箱に詰めてあるので、レイが自分で持って行くのは個人装備であるあの鞄くらいだ。

『もう休暇も終わりだな』

 ふわりと現れたブルーのシルフが、座っているレイの膝の上に現れて優し声でそう言いながら自分を見上げている。

「そうだね。えっと……なんだか凄く濃厚な五日間だったよね。色々あったしさ」

 苦笑いしながら胸元の木彫りの竜のペンダントを撫でる。

『そうだな。色々とあったな』

 笑ったブルーのシルフの言葉に、レイも小さく笑ってベッドに仰向けに倒れ込んだ。

「昨夜、楽しかったなあ。マイリーもあんな風に笑うんだね」

『確かに楽しそうだったな。良いではないか。何しろ休暇中なのだからな』

「そうだね。休暇だもんね」

 笑って腹筋だけで軽々と起き上がったレイは、すっかり綺麗に片付いてがらんとした自分の部屋を見回した。

「じゃあ行くね。次に帰ってくる時まで、ここを、皆を、お願いだから守ってあげてね」

 呼びもしないのに勝手に集まって来て、自分を見ている蒼の森に住む古代種のシルフ達を見上げて笑う。


『ここは良き場所』

『主様の故郷』

『我らが守るよ』

『守るよ守るよ』


 古代種のシルフ達だけでなく、周りにいた他のシルフ達も得意そうにそう言って揃って胸を張って見せる。

「うん、ありがとう。お願いね」

 笑ってそう言ったレイはベッドから立ち上がり、置いてあった自分のミスリルの剣を剣帯に装着して机の上の遠征袋を手にした。

「じゃあ、いってきます」

 扉を開けたところで、部屋を振り返ったレイは、はっきりとそう言うとそのままもう振り返らずに廊下へ出て行ったのだった。

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