草原でのひと時
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
いつもと変わらない豪華な朝食をしっかりと残さずに食べ終えたレイは、笑顔でそう言ってニコスを見た。
「ごちそうさまでした。では、一休みしたら厩舎のお掃除をしてから皆を上に連れていってあげないとね」
隣に座ったタキスの言葉に、レイも笑顔で頷く。
「そうだね。最後だし、シャーリーとヘミングと一緒にしっかり遊んでおかないとね。僕を忘れないでねってさ」
立ち上がったレイは笑ってそう言い、汚れた食器を手早く集めて水場へ運んだ。
「ごちそうさまでした。このハーブの効いたレバーペースト、とても美味しかったですよ。これもニコスが作ったんですか?」
レバーペーストの入っていた瓶を手にしたカウリの言葉に、振り返ったニコスが笑顔で首を振った。
「いえいえ、これはブレンウッドにある緑の跳ね馬亭で出しているものでございます。レイが気に入ってくれたようなので、お願いしてみたらレシピを教えてくれましたのでレイにレシピを持たせます。そちらの料理長殿ならきっと、もっと美味しく作ってくださいますよ」
「ああ! 言っていたそのレシピ、教えてもらえたんだね!」
目を輝かせるレイに、バルテン男爵が振り返った。
「おう、店主自ら書いたレシピを手渡してくれましたぞ。何でも、店主の祖母直伝の秘伝のレシピなのだとか。俺がここに来る時に、新しいレバーペーストの瓶詰めと一緒に預かって参りましたから、どうぞ土産に持って帰ってください」
笑ったバルテン男爵の言葉に、同じ事を思っていたルークとマイリーも揃って拍手をしていた。
「これは嬉しいな。レバーペーストって、どうしても味が単一だから飽きてくるんだよな。まあこれは薬だと思って諦めて食っているけど、食事の時に新しい味が出ればきっと本部の皆も喜ぶだろうさ」
「確かにそうだな。有り難い事だ。その緑の跳ね馬亭の店主殿にも感謝を。店で使っている秘伝のレシピを他人に教えてくれるなんてな。それに、このレバーペーストは何よりとても美味い」
「確かにそうだな。これは美味い」
笑顔のルークの言葉に、カウリとマイリーも何度も頷いていたのだった。
「おお、今日も良い天気だな」
「確かに良いお天気だ。だけど結構寒いな」
厩舎の掃除を終え、家畜達と騎竜達を連れて一緒に上の草原へ上がるレイ達についてきたルーク達は、竜達に手を振りながらよく晴れた空を見上げて苦笑いしている。
「確かに一気に冷えてきた感じだね。帰りはちょっと寒いかもね」
「いやあ、これはちょっとどころかかなり寒いと思うぞ。しっかり着込んでおかないとな」
笑ったレイの言葉にルークも笑って頷く。
今の彼らはやや分厚めの普段着を着ているだけなので、確かに少し寒そうだ。
「あ、温めてくれるの? いつもありがとうね」
指輪からするりと出てきた火蜥蜴が、レイの指に甘えるように頭を擦り付けてから、腕を伝ってするりと胸元へ潜り込んだ。
嬉しそうにそう言って胸元をそっと撫でたレイは、駆け寄ってきたシャリーとヘミングを見てこれ以上ないくらいの笑顔になった。
「ほら、昨夜頑張って新しいのを作ったんだよ。これはニコスからもらった端切れで作りました!」
ポケットから取り出したそれは、布の切れ端を束ねて麻紐で括っただけに見える。
しかも以前と違って振り回すための紐がついていない。これでは、追いつかれて仕舞えばあっという間におもちゃを奪われてしまうだろう。
しかし、そんなの知らないとばかりに。新しいおもちゃを見せられた子竜達は大興奮して足踏みを始めている。
「よし、じゃあ行くよ!」
右手に新しいおもちゃを掲げるようにして持ったレイが、大きな声でそう言って走り始める。
当然のように嬉々として後を追いかける子竜達。
あっという間に追いつかれたが、今日のレイはそんな事は予想済みだ。
「シルフお願い!」
そう叫んだレイは、前方に向かって思いっきり掴んでいたおもちゃを投げたのだ。
レイを追い越して、そのままおもちゃの落下地点へ走る二匹だったが、そのおもちゃが何故か地面に落ちる寸前に突然の風に煽られて勢いよく別の方向へ吹き飛ぶ。
慌てて踵を返しておもちゃを追いかける二匹だったが、またしても追いつく寸前に吹き付けた突風にあおられて、おもちゃが別方向へ飛んでいく。
「クキ〜〜〜〜!」
ジタバタと足踏みをして不満げに大きな声をあげたシャーリーが、一気に加速して飛んでいくおもちゃを追いかけて走る。
ちょうど目の前に落ちてきたところを大きな口を開けて噛み付いた。
おもちゃを捕まえてご機嫌になったシャーリーに、金花竜のヘミングがようやく追いついて、咥えていたおもちゃを横から掻っ攫った。
「ウキュ?」
一瞬何が起こったのか分からなかったらしいシャーリーが、ポカンと口を開けて走り去るヘミングを見送る。
「クキ〜〜〜〜〜〜!」
また大きな声で鳴いたシャーリーが、勢いよく走ってヘミングを追いかける。
早く生まれたシャーリーの方が、ヘミングよりもひと回り大きいので当然足も速い。
あっという間に追いつかれてしまい、おもちゃを奪われるヘミング。
しかし、一瞬口から離れたその時に、またしてもつむじ風に吹っ飛ばされて後方へ吹っ飛ぶおもちゃ。
二匹が揃って踵を返して、競い合うようにして並んで飛んでいくおもちゃを追いかけ始めた。
空中で不自然にポーンと大きく跳ねたおもちゃは、待っていたレイの手の中にぴたりと収まった。
「ポリー! お願い!」
鞍も手綱も無いポリーの背中に飛び乗ったレイがそう叫ぶと、一声鳴いたポリーが勢いよく走り出した。
「おいおい、鞍も手綱も無しって……」
「大丈夫、みたい……だなあ」
ルークとカウリの呆れたような呟きに、皆苦笑いしている。
おもちゃを掴んだままポリーの首に両腕で掴まっているレイは、ご機嫌で声をあげて笑っている。
「クキ〜〜〜!」
「キカカカ!」
散々後を追いかけて走り回った二匹だったが母親の全力疾走に追いつける訳もなく、途中で疲れて止まってしまった。
おもちゃが欲しい二匹が、口を開けて足踏みをしながら不満げに鳴いてポリーに向かって文句を言っている。
「ポリー、拗ねてるみたいだから、ちょっと返してあげるね。シルフ、お願い!」
笑って背中から飛び降りたレイが、持っていたおもちゃをポーンと頭上に高く放り投げた。
それを見て、嬉々として追いかけ始める二匹とポリー。そして横で見ていたベラとヤンとオットーも、嬉々として追いかけっこに乱入したのだった。
「へえ、こりゃあ考えたな」
「確かに自分で走るよりも、シルフ達に頼んだ方が早いし安全だよな」
見ていたルークとカウリが、感心したようにそう呟く。
「えへへ、昨夜寝る前にあのおもちゃを作っていたら、シルフ達が集まってきて遊び始めたんだ。それで、お願いしてみたら出来るって言うからさ。それで遊んでもらうように頼んでみました。だって、僕が全力で走ってもすぐに追いつかれちゃうから、あの子達にしたら面白くないでしょう?」
笑ったレイの言葉に、感心して見ていた一同から拍手が起こったのだった。
「おやおや、これまた楽しい遊びを発見したようだな」
草原の端で、のんびりと様子を見ていたブルーの呟きに、三頭の竜達も嬉しそうに目を細めた。
「そうですね。とっても楽しそう」
「あの小さな子竜達は、本当に可愛いわね」
「確かに、無垢な子供というのは見ているだけでも楽しいわね」
うんうんと頷きながら、シルフ達が飛ばすおもちゃを追いかける二匹を愛おしげに見つめていたのだった。




