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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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演奏と歌声

「なんと、見事な演奏じゃろうなあ」

「本当ですね。もう聞き惚れてしまいましたよ」

 嬉しそうなギードとタキスの呟きに、演奏を終えたレイは少し照れたように、でも嬉しそうに笑っている。

 ニコスはもう、演奏の途中から感動のあまり涙ぐんでタキスに支えられて座っている状態だ。

「本当に素晴らしい演奏だったよ。若様の竪琴も、ふさわしい弾き手に出会えて幸せだろう。本当にありがとうな。レイ……」

「僕なんかまだまだだけど、そう言ってもらえるだけで嬉しいよ。それにあの竪琴は僕も気に入ってるんだ。ほら、泣かないで」

 笑ってニコスを抱きしめたレイは、そう言ってそっと頬にキスを贈った。

「じゃあ、最後にせっかくだからこの曲で締めよう。ほら、レイルズも演奏するんだよ」

 笑ったルークに耳打ちされた曲を聞き、レイが目を輝かせる。

 慌てて竪琴を構えるレイを見て、タキス達も慌てて座り直した。それを見たアンフィーも、まだ手にしていたヴィオラをケースに戻して、慌てたようにギードの隣に座り直した。



「本来なら、これは竜騎士が全員いないと演奏しない曲なんですがね。まあここはエイベル様のお父上に敬意を払って特別に、って事で」

 苦笑いしたマイリーの言葉にルークとカウリ、それからレイが揃ってそれぞれの楽器構えて、マイリーの合図で演奏を始めた。


「遥かに果てなき山並みを超え、彼方より来たりし偉大なる竜よ」

「その大いなる翼の下にて、幼き我らを守りし偉大なる竜よ」


 演奏しながら歌い始めたルークとレイの声が重なる。やや高めのレイの声は、ルークと二人で歌うとまるで少し低い女性の歌声のようにも聞こえる。


「そは憧れ、麗しのオルダムの空を舞う偉大なる竜よ」

「精霊達は(たわむ)れ、小鳥は歌う麗しの花の街オルダム」

「そは憧れ、麗しのオルダムの空を舞う偉大なる竜よ」

「願わくば我も共に()かん」

「その翼が示す先の世界へ」


 ここで、マイリーとカウリが演奏をやめて歌おうとした時、それぞれの竜の使いのシルフ達が現れて彼らの代わりに歌い始めた。それも、いつものシルフ達の声ではなく、それぞれの竜達の声で。

 驚きに目を見開く一同を見ても、素知らぬ顔で楽しそうに歌う竜の使いのシルフ達。

 レイの竪琴の上に座ったブルーのシルフも、そんな彼らを見て満足そうに頷くと一緒に歌い始めた。


『麗しの花園に佇む君に、せめて一目と願くも』

『あえかな女神のため息に、我泣き濡れて惑し夜も』


 驚きに一瞬歌うのが止まったレイ達だったが、すぐに笑顔になって一緒に歌い始める。


「遙かなる空を変わらずに舞う、偉大なる竜よ」

泡沫(うたかた)の夢』

「消えゆく先に忘れた何か」

「いざ探しに行かん」

『君と見上げる果てしなき空に』

「変わらずに舞う偉大なる竜よ」

「そは憧れ、麗しのオルダムを守りし竜よ」


 竜の使いのシルフ達と笑顔で交互に歌い交わす竜騎士達を、タキス達はもう感動に目を潤ませながら、ただただうっとりと聞き惚れていたのだった。


『いざ共に行かん』

『その翼が示す先の世界へ』


 やや短めの簡易版での演奏だったが、最後の歌の部分は全員での見事な合唱となり、締めくくりの最後の竪琴の演奏部分はしっかりと弾かせてもらい演奏が終わった。

 最後のヴィオラの音が途切れるまでその場の誰一人動こうとせず、静けさの中をタキスが堪えきれないとばかりに小さなため息を吐き、そこで我に返った観客達は大きな拍手を送ったのだった。

「す、素晴らしかったです。まさか、偉大なる翼を目の前で演奏していただけたなんて」

 感動に目を潤ませるアンフィーの言葉に、バルテン男爵も拍手をしながらものすごい勢いで頷いている。

「僕も楽しかったです。本当はこれってもっと長い曲なんだけどね」

 照れたように笑ったレイの言葉に、マイリー達も苦笑いしていた。



「それにしても、アンジー。さっきのあれは一体どうやったんだ?」

 ヴィオラを置いたマイリーが、自分の左肩に座っているシルフを見る。

「そうそう、あれってたまにラピスがやっている伝言のシルフと同じだよな」

「驚いたよ。一体どうやったんだ?」

 ルークとカウリも、それぞれ自分の肩に座っているシルフ達に慌てたように話しかける。

『我が教えてやったのだよ』

『少し時間がかかったが、他の竜達も覚えてくれたようで我は嬉しいよ』

 ブルーのシルフの得意そうな言葉に、全員が揃って絶句する。

「それって、教えられて出来るようなものなのか?」

 言外に自分達も知りたいと言わんばかりのマイリーのその言葉に、ブルーのシルフは面白そうに笑った。

『どうであろうな。レイは使えるようになったのだから、人の子に扱えぬという訳ではあるまい』

 全員からの無言の注目を受けて、レイが困ったようにブルーのシルフを両手で捕まえる。

「ちょっと待ってよブルー、僕に振らないで!」

 慌てたレイの叫びに、タキス達が揃って吹き出す。

「あれって、ラピスの使いのシルフだからそのままの声が届くんだと思っていたけど、お前も出来たんだ」

 呆れたようなルークの言葉に、困ったようなレイが頷く。

「えっと、だけど僕にも説明しろって言われても分からないよ。気が付いたら出来るようになっていたんだもん!」

「無自覚かよ!」

 真顔のルークの叫びにカウリとマイリーが吹き出す。

「やっぱり、自覚なき天才はやる事が違うなあ」

 呆れたようなカウリの呟きに、タキス達も揃って吹き出し部屋は笑いに包まれたのだった。

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