休暇最後の夕食
休暇最後の夕食は、普段は使っていない広い部屋にテーブルと椅子を並べ、部屋の隅に焼き台を出して山盛りの肉や野菜を焼いて皆で食べる事にした。
この部屋は、もともとここが作られた当初はドワーフの職人達の食堂として使われていた部屋だったらしく、広くて綺麗な洗い場や、換気の為の窓が、部屋には多めに作られているし、東側の壁には丸くて大きな切り窓が並んでいる。
「土産でいただいたお肉がまだまだ沢山ございますので、どうぞ遠慮なくお召し上がりください」
山盛りに切ったお肉のお皿を持ってきたニコスの言葉に、マイリー達も笑顔になる。
「ああ、あとはもう好きにいただきますから、ニコスもどうぞ俺達に構わず食べてください」
お酒の用意を始め、客人であるマイリーとルークとカウリのために甲斐甲斐しく動くニコスを見て、途中で立ち上がったルークが笑顔で止めに入った。
「いつも申し上げていますが、ここにいる間は、俺達も王都では出来ない自由を満喫してるんですよ。ですから、どうぞ過剰なお世話は必要ありませんから座ってくださいって。ほら、ニコスも飲みましょう」
笑って空いていたグラスをニコスに持たせて、ワインを注ぐ。ニコスは最初の乾杯の時に少し飲んだだけで、まだ何も食べていないし飲んでいない。
「お、恐れ入ります」
慌てたようにルークの方を向き、注いでくれるワインを黙って見つめる。
「レイルズのこれからと、皆様のご健康を願って、乾杯」
改めて自分のグラスを掲げて笑ったルークの乾杯の言葉に、あちこちから乾杯の声が重なる。
「ほら、ニコスはここ! もう次のお肉が焼けるよ」
ギードとバルテン男爵が焼いてくれる大量のお肉をお皿に山盛りにもらって席につき、自分の隣の椅子を叩くレイの言葉に、ニコスとルークが揃って吹き出す。
「おいおい、いくらなんでも取りすぎだって。後の奴らの事も考えろよ……うん、そもそも焼く量がおかしかったな」
レイが持つ山盛りのお肉のお皿を見たルークは、呆れたようにそう言って鉄板の上を見てから無言になった。それからうんうんと頷きながらのしみじみとした呟きに、同じく山盛りに取っていた全員が揃って吹き出す。
何しろ、バルテン男爵が世話をしている焼き台では、鉄板が見えないくらいにぎっしりと敷き詰められた大量のお肉が焼かれていたのだ。
もうもうと上がる煙は、シルフ達がお世話をしてくれて、即座に換気用の窓に抜けているので部屋の中にはほとんど煙が無い。
「こちらの肉はもう焼けておりますぞ。どうぞお取りください」
そしてもう一枚の網台でも、時間差で上手く焼き上がるようにしているギードが、これまた大量の焼き上がったお肉をバルテン男爵の鉄板の端に寄せて置き、用意されていた新しいお皿に勝手に焼けたお肉を山盛りにしているところだった。
「あはは、こりゃあ凄い。では、俺も遠慮なくいただきますね」
笑ったルークもそう言って言葉通りに山盛りのお肉をもらい、あとはもうそれぞれ好きに飲んだり食べたりしていたのだった。
「へえ、このワインは肉に合うなあ。どこのワインだ?」
「ああ、それは……」
それぞれに違う知識を豊富に持つ者同士の話題はいつまでも尽きず、皆笑顔で大いに食べて飲み、気がすむまで大いに語り合った。
レイルズのオルダムでの様子や、貴族達の生活ぶり。またバルテン男爵が普段担当しているギルドマスターとしての仕事の話など初めて聞く話が数多くあり、レイもワインを片手に目を輝かせて知らない話を聞いていたのだった。
皆のお腹が満腹になり、マイリーとバルテン男爵とギードの三人が、お酒を片手にまた補助具の金具について顔を寄せて真剣に話しを始めたところでニコスが散らかった食器を手早く片付ける。それを手伝ってから、レイは一旦部屋に戻って天体望遠鏡を持ってすぐに戻ってきた。もう一度出て行ったレイは、しばらくして両手に天体盤と星の説明の載った本を数冊抱えて戻ってきた。
そして部屋を見回して少し考えてから、東側の壁にある切り窓の一つを全開にして、そこで天体望遠鏡を取り出して手早く組み立て始めた。
「あ、天体望遠鏡だ。言っていた星雲って、ここから見えるのか?」
ルークとカウリが、興味津々の様子で駆け寄ってくる。
「うん、今の時間ならここからでも見えるよ。えっと、合わせるからちょっと待ってね」
本を開いてとあるページで手を止めたレイは、真剣な表情でそのページを読んでから小さく頷き、組み立ての終わった天体望遠鏡を覗き込みながら、時折顔を上げて手にしたコンパスを確認しながら目的の箇所を探していた。
「よし、これでしっかり見えるよ。はい、どうぞ」
机の空いた場所に広げた本を置いたレイの言葉に、まずはルークが嬉々として天体望遠鏡を覗き込む。
「うわあ、すげえ。本当に星の塊だ!」
天体望遠鏡を覗き込みながらのルークの突然聞こえた大きな声に、話に夢中になっていたマイリー達も何事かと顔を上げる。
「ああ、天体望遠鏡を設置してくれたのか。どれどれ、俺にも見せてくれよ。さっき話をしていた星雲だろう?」
目を輝かせたマイリーがそう言って立ち上がり、ギードとバルテン男爵もその後を追ってこっちへ来る。
「そうだよ。でも、一台しか持って来なかったから順番にね」
笑ったレイがそう言い、これまた興味津々のバルテン男爵に本を開いて見せながら、順番待ちの間に嬉々として星雲の詳しい説明を始めたのだった。




