ニーカとクラウディアの日常
「ディア、今日の分の蝋燭の仕分けはこれで全部終了のはず。空箱はそことこっちにあるので全部よ」
「了解。じゃあ向こうに運んでおくわね」
整理した蝋燭の入った小箱を数え直して整理していたニーカの、振り返った元気の良い声に台車を押して戻ってきたクラウディアも笑顔で応える。
仕分けの終えた蝋燭の入った小箱をそれぞれ決められた棚に収め、蝋燭が入っていた大きな木箱は別の倉庫へ運んでおく。こうすれば、蝋燭の業者が空箱を引き取り、また新しい蝋燭をいっぱいに詰めて納品してくれるのだ。
いつもの蝋燭の整理が終わり綺麗に手を洗い終えた二人は、揃って事務所へ顔を出して午後からの予定の届け出の書類を提出してから昼食に向かった。
「先週って私とジャスミンは、タドラ様やフォーレイド高等神官様との講義の日だったから、お掃除にはディアが一人で行ってくれたのよね」
「そうだったわね。でも、前回は大物のお掃除は無かったから一人でも簡単に終わったわよ。竜騎士隊の皆様もお忙しかったみたいで、終わる頃にティミーが顔を出してくれただけだったもの」
「そう言っていたわね。せっかくの一人でのお掃除当番だったから、レイルズと二人っきりになれたのかと思って、ジャスミンと楽しみにしていたのに。残念だったわね」
「もう、からかわないで! 彼だって忙しいのよ!」
ニーカの言葉に真っ赤になったクラウディアがそう言って廊下の壁にすがって顔を覆う。
「そっか。でもそれなら今週も会えないから寂しいわねえ。まあ、休暇なら仕方がないんだろうけれどさ」
「きっと、今頃森のご家族と楽しく過ごしておられるわ。土産話を聞くのを楽しみにしているの」
「そうね。私も楽しみだわ。ああ、ほら見て。今日はどちらもすっごく美味しそうよ。ねえ、ディアはどっちにするの?」
食堂に到着して入口に積み上がったトレーを手にしたニーカの言葉に、考え事をして少しぼんやりしていたクラウディアが慌ててトレーを手にしてメニュー表を見る。
ここの食堂では、決まったメニューがいつも二種類用意されていて好きな方を選べる。この食事の時間は、皆の憩いのひと時なので、メニュー選びも密かな楽しみのうちなのだ。
「ううん、私は鶏肉かなあ」
「じゃあ、私はちょっとお腹が空いてるからこっちの燻製肉にしようっと。ねえ、せっかくだから一口ずつ交換しましょうよ」
「ええ、いいわよ」
笑った二人がそれぞれの料理の並んだお皿とパンをもらい、ポットにお湯だけを入れてもらう。
通常は紅茶が用意されているが、彼女達はカナエ草のお茶を飲むので紅茶は取らない。
空いた席に並んで座った二人は、ポットにカナエ草の茶葉を入れて蓋をしてから、しっかりと食前のお祈りを捧げた。
「降誕祭は楽しみだけど、年が明けたらディアとはずっと一緒にいられないのね。分かってはいるけど、やっぱり寂しいなあ」
口をとがらせたニーカがそう言いながら、切り分けた燻製肉をクラウディアのお皿に渡す。クラウディアも大きく切り分けた鶏肉のソテーを、代わりにニーカのお皿の端に置いた。
「こんなに大きく切ったら、ディアのが無くなっちゃうわよ?」
渡した燻製肉の倍くらいの大きさの鶏肉を返されて、ニーカが慌てたようにクラウディアを見る。
「お腹空いてるんでしょう? 貴女は育ち盛りなんだからしっかり食べなさい。子供が遠慮なんてするもんじゃあないわよ」
胸を張ったクラウディアが、妙に大人びた口調でそう言って笑う。
「おやおや、私からすれば貴女達は二人ともまだまだ子供だよ。隣に失礼するよ」
その時、笑った声が聞こえて、背の高い保安部のルディ僧侶がクラウディアの隣に座った。
しっかりと食前のお祈りをした彼女は、自分の鶏肉をクラウディアとニーカのお皿に大きく切って分けてくれた。
「ほら、いいからしっかり食べなさい」
笑ってもう一度そう言ったルディ僧侶は、素知らぬ顔で食べ始めた。
顔を見合わせた二人は、笑顔で揃ってルディ僧侶を見る。
「ありがとうございます! では遠慮なくいただきます!」
「はいどうぞ。子供が遠慮なんかするもんじゃあないよ」
笑って手を伸ばして二人の頭を大きな手で撫でてくれる。
嬉しそうに笑ってもう一度お礼を言った二人も、それぞれ食べ始めたのだった。
「ごちそうさまでした。あの、ありがとうございました」
「ごちそうさまでした。お腹一杯になりました。本当にありがとうございました!」
それぞれに食事を終えてルディ僧侶にもう一度しっかりお礼を言った二人は、急いで食器を片付けてからお掃除の準備をする為に道具置き場へ向かった。
「相変わらず元気だねえ」
優しい眼差しで食堂を後にするニーカとクラウディアを見送ったルディ僧侶も、自分のお勤めの続きをするために事務所へ戻って行ったのだった。




