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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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正式な墓参り

「よし、準備はこれでいいな」

「よし、準備完了」

 レイがシルフ達と話をしている間に準備を整えたカウリとルークは小さくそう呟いてから、それぞれ持って来ていた小さな小箱から取り出した香炉と燭台を、墓石の前に置いた小さな折りたたみ式の木の台の上に並べた。

 香炉と燭台はどちらもミスリル製で、全面に渡って細やかな細工の入った逸品だ。

「さてと、それじゃあ始めますか」

 そう言ったカウリの言葉に、頷いた竜騎士達とレイが揃って剣を軽く抜いて音を立てて戻した。

 聖なる火花が散り、シルフ達がまた大喜びで集まってくる。



 シャリーン



 それを見たタキスが、手にしていたミスリルの鈴を腕を伸ばして持ち、手首を返して大きく一振りする。

 涼やかな音が辺りに響き渡り、一同が一斉に居住まいを正した。



 3メルト四方ほどの膝丈ほどの石の柵で囲われた墓所の中央には、五本の尻尾の棘を持つ守護竜が守る小さな墓石が置かれている。そのエイベルのお墓を正面に見る位置で最前列にマイリーとルークとカウリの三人が並び、その横にレイルズとタキスが並ぶ。

 二列目にニコス、ギード、バルテン男爵とアンフィーが並んだ。

 竜騎士達とレイ以外の全員の手にミスリルの鈴がある。

 一番最初に一歩進み出たタキスは、手にしたミスリルの鈴の柄をそっとベルトに差し込み、その場で精霊王への祈りと弔いの祈りを唱え始めた。

 二列目に並んでいるニコス達は、一定の間隔でゆっくりとミスリルの鈴をずっと鳴らしている。

 大勢集まって来ているシルフ達は、鈴の音に合わせて嬉しそうに手を叩いたり手を繋いで輪になって空中で踊り始めた。

 祈りの言葉を唱え終えたタキスがゆっくりと墓石の前に進み出て、手にしていた蝋燭にそっと指を近づけて火を灯し、それから香炉の真ん中に置かれた親指の爪ほどの大きさのお香に、そっと手にした蝋燭から火を移した。

 しばらくしてゆっくりと一筋の煙が真上へと流れる。

 用意されていた燭台に蝋燭を差し込んだタキスは、あらためて両手を握り合わせると額に当ててその場に跪いた。

 しばらく目を閉じて無言で祈りを捧げていたタキスがようやく立ち上がってレイの隣へ戻る。

 マイリーが一歩進み出てその場で腰の竜騎士の剣を抜き、流れるような仕草で膝をついて正式な作法で墓に参った。順番にルーク達がそれに続く。レイも正式な作法に則ってエイベルのお墓に参った。

 それからミスリルの鈴の柄をベルトに差し込んだニコスが進み出て、火の灯った香炉の横に置かれた小さな木箱の蓋を開け、中に入った砕いた香木をひとつまみ香炉の中へ落とした。

 優しい香りがゆっくりと立ち込める。

 その場に跪いて両手を握りしめて額に当てて祈りを捧げ、ゆっくりと立ち上がってから一礼して下がる。

 ギード達もそれに続いた。

 最後のアンフィーが祈りを終えて列に戻ったところで、彼らの後ろに座って黙って見ていたブルーがゆっくりと起き上がり墓石の上まで首を伸ばした。



「我ら精霊竜と人の子の絆の架け橋となった、幼き竜人の子エイベルに心からの感謝と祈りを捧げよう。精霊王の御許にて、安らかに眠れかし……」

 ブルーが低い声でそう言って、まるでキスをするようにそっと墓石に鼻先を押し当てた。

 ブルーの横に並んで同じく見ていた三頭の竜達は揃って大きな音で喉を鳴らし始めた。ブルーがそれに続く。

 静かな草原に、竜達の鳴らす喉の音がゆっくりと広がり消えていった。

 騒がしかったシルフ達も、いつの間にか一斉に押し黙って彼らのする事を無言で見つめている。

 顔を上げたブルーは、空を見上げるように軽く身震いしてからゆっくりと死者に捧げる祈りの歌を歌い始めた。同じく顔を上げた竜達がそれに続く。

 レイ達もそれに続いて歌い始めた。

 タキス達は、歌いながらまた、手にしたミスリルの鈴を軽く振って鳴らしている。

 人と竜達の祈りの歌声は、美しいミスリルの鈴の音と幾重にも重なり合い静かな草原に広がりやがて消えていった。



 完全に音が消えるまで沈黙が続き、タキスが改めて最後にミスリルの鈴を大きく鳴らし、ミスリルの剣を持っていた竜騎士達とレイだけでなく、ギードとバルテン男爵も一緒に軽く抜いて即座に戻し、聖なる火花を散らしたのだった。

「ありがとうございました」

 涙を堪えたタキスの言葉に竜達がまた揃って顔を上げ、まるでなぐさめるかのように大きな音で喉を鳴らし始めたのだった。

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