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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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古代種のシルフ達

「じゃあ、また順番に、だね」

 下を見ながらそう言って笑ったレイの言葉に、ブルーは雪の無くなった広い場所にゆっくりと降りていった。マイリー達の竜もゆっくりとそれに続いた。

 準備していたいくつかの荷物を手に、それぞれの竜の背から降りてきてお墓から少し離れた場所に集まる。

「あれ、お墓の周りだけ雪が綺麗に避けてあるね。えっと、誰かしてくれたの?」

 全体に雪が積もっている周囲と違い、エイベルのお墓の部分だけが何故か綺麗に雪が避けられていて、うっすらと地面が見えている。

 それを見たレイが、そう言いながら不思議そうにタキス達を振り返った。

 少なくとも、レイが蒼の森へ戻ってからは一度も森へは行っていないはずだが、もしかして誰か来てくれていたのだろうか? もう一度エイベルのお墓を振り返って首を傾げる。

「ああ、この辺りは雪もかなり降るし風も強いからな。この墓と周囲の囲いに雪が引っかかって塊になる事がある。なので、ノーム達に墓に積もった雪を定期的に避けておくように頼んであるのだよ。せっかく皆が用意してくれた立派な墓が、雪の重みで倒れでもしたら大変だからな」

 笑ったブルーに何でもない事のように言われて、レイだけでなくルークやマイリー達も目を見張る。

「まあ、我に取っては大した事ではない。気にするな」

 驚くマイリー達の視線に気づいたブルーは、面白がるようにそう言ってゆっくりと喉を鳴らした。

「墓守り、感謝いたします。では、始めましょう」

 軽く咳払いをしたマイリーが、持ってきていた包みを開けて中のものを取り出す。

 綺麗な布に包まれたそれは、15セルテ程の長さの持ち手がついた小さなミスリルの鈴だ。柄の先に取り付けられた輪っかに沿って房状に重なり合うようにして取り付けられたそれらが、包みを開いた拍子にシャランと軽い音を立てた。


『綺麗な音』

『綺麗な音』

『聖なる音』

『聖なる音』

『ミスリルの鈴の音』

『大好き大好き』


 ミスリルの鈴の音に誘われて、呼びもしないのに大勢のシルフ達が集まってきて騒ぎ始める。

 手に手をとって輪になって踊り始める子達がいれば、ミスリルの鈴の周りに集まって鈴に向かって風を送り始める子達もいる。

 ミスリルの鈴の音に誘われてシルフ達が勝手に集まってくるのはオルダムの教会でも見慣れた光景だが、オルダムと蒼の森で大きく違うのは、ここではその中に何人もの古代種のシルフ達がいる事だ。

 初めて見る大勢の古代種のシルフ達の姿に、マイリー達は驚きに目を見開いていた。



「あれ? いつもよりも大きい子達が多いね?」

 頭上を見上げたレイも、古代種のシルフ達が普段よりも異常に多いのに気付いて不思議そうにそう呟く。

『ああ。目覚めた森の乙女と共に、幾人もの古代種のシルフ達が精霊界の岸辺からこちらの世界へ渡って来たからな。そのおかげで未だかつてない程の数の古代種の精霊達が、今、この蒼の森で過ごしておるのだ』

 ブルーの使いのシルフがレイの右肩に現れ、レイにだけ聞こえる小さな声でそっと教えてくれる。

「ああ、そういう事なんだね。えっと、それは別に問題無いんだよね?」

 森の乙女の事を思い出して納得したレイも、小さな声でブルーの使いのシルフに話しかける。

『ああ、蒼の森は広くて深いからな。彼女達ものびのびと過ごしておるよ。精霊達が多くいる事は、すなわち森が豊かである証拠だから、何も問題ないよ』

 今度は頭上からブルーの声が聞こえる。

「よろしくね。えっと、この森には僕の家族達もいるんだ。仲良くしてあげてね」

 頭上で自分に向かって手を振る古代種のシルフ達に、レイも笑顔で話しかける。


『よろしくね』

『よろしくよろしく』

『素敵なお衣装』

『キラキラキラキラ』


 レイの言葉に笑って頷いた何人かの古代種のシルフ達が、タキスやニコスが着ている服の周りに集まり、縫い付けられた真珠やガラスの珠を引っ張ったり撫でたりして遊び始める。

「ああ、絶対に見つかると思いましたが早速ですね。遊んでも構いませんが、お願いですから生地からは引きちぎらないでくださいね」

 苦笑いしたタキスが、周りに集まるシルフ達にそう言って手を振る。


『もちろんもちろん』

『そんな事しないよ』

『なでなでするの』

『キラキラキラキラ』


「ありがとうございます。まあそれなら少しくらい遊んでも構いませんよ」

 タキスの言葉に頷き合って笑いさざめく大勢のシルフ達の様子を、マイリー達は半ば呆然と眺めていた。

「ううん、相変わらずここは俺達の常識が色々と通じない場所だなあ」

 腕を組んだマイリーのあきれたような呟きに、ルークとカウリも揃って頷いている。

「だよなあ。古代種のシルフだけでも、今見えるだけでも何人いるんだよって」

「これ、精霊魔法訓練所の教授達が見たら、腰抜かすだろうなあ」

「絶対に、筆記具持って嬉々としてあの子達のところへ突撃して行くと思うぞ」

「だよなあ、俺もそう思う。その光景が見える気がするよ」

 精霊魔法訓練所にいる教授達は、当然だがそれぞれ得意な精霊魔法があり、それらに関する著書や論文を数多く書いて発表している。

 もしも教授達がこの森のシルフ達から話が聞ければ、間違いなく新たな発見が数多くあるだろう。

 特に、古代種の精霊は通常の精霊よりも数多くの知識を持っている事が多いとされている。知識欲旺盛な精霊魔法訓練所の教授達の顔を思い浮かべて、苦笑いして黙って首を振るカウリとルークだった。

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