ブルーの背中
「ほお、皆なかなかに立派な装いではないか」
揃って草原へ上がってきた一行の姿を見て、ブルーが面白そうに顔をこちらへ向けてそう言って笑う。
「まあ、せっかくの正式な墓参りでございますからなあ。我らも一応それなりに整えさせていただきました」
苦笑いしながら肩掛けの刺繍をギードがそっと撫でる。
「うむ、皆よく似合っておるぞ。では、背中に乗りなさい」
いつの間にか、竜達の背にはいつもの手綱や鞍が乗せられている。
「あれ? これって誰がやってくれたの?」
ここにはいつも準備をしておいてくれる第二部隊の兵士達はいない。なので、正装では少し動きにくいが手綱と鞍を乗せるところから全部自分でするつもりで上がって来たのだ。
不思議そうに首を傾げるレイの様子を見て、ブルーが笑う。
「ああ、我がシルフ達に命じて準備をさせたのだよ。まあ、普段から其方達がするのを見ていたおかげで、皆さほど苦労することも無く出来たようだな」
そう言って平然と笑うブルーの言葉に、マイリーとルークとカウリが無言になる。
「おいおい、これを全部シルフ達にやらせたってか?」
「マジかよ。冗談にも程があるぞ」
呆れたようなルークの呟きに、同じく呆然としたカウリも自分の竜の背中に乗せられたいつもの鞍を見ている。見る限り、どこにも齟齬はないようだ。
「いや、そもそも俺達の鞍と手綱は、朝持って上がってきた木箱の中にあったはずだぞ?」
真顔のマイリーは、蓋が開いたままの空っぽの木箱を見た。
「しかもこれ、釘で封がしてあった筈なんだけどなあ……」
ルークの呟きに、三人揃ってブルーを見上げる。
「当然、ノームに命じて開けさせたまで。我にとっては大した事ではないさ。ほら、早く乗りなさい」
伏せた状態のブルーを見て、レイが笑顔で頷く。
「えっとブルー、アンフィーも一緒に乗せてあげても構わないよね?」
「ああ、もちろん構わんよ」
笑って喉を鳴らすブルーの言葉に、タキス達の後ろに控えていたアンフィーが驚きに目を見開く。
「ええ……あの、よろしいのですか?」
アンフィーは、ルークかカウリに頼んで後ろに乗せてもらうつもりだったのだが、まさかの一番大きな古竜が背中に乗れと言う。
戸惑うようにルークを見たら、にっこりと笑って頷かれた。
「ええ……あの、では、よ、よろしくお願いします!」
直立してそう言った後にブルーの向かって深々と一礼したアンフィーは、満面の笑みで自分を見つめているレイにも同じく深々と一礼した。
「えっと、バルテン男爵も一緒で構わないよね?」
同じく、ギードの後ろに控えていたバルテン男爵を見てから、もう一度レイがブルーに尋ねる。
「ああ、構わぬよ。我の背中は大きいので、二人くらい増えてもなんの問題も無いさ」
完全に面白がる口調のブルーの言葉に、しかしバルテン男爵は慌てたように首を振った。
「いやいや、古竜の背に乗るなど恐れ多い。あの、俺はギードと共にラプトルで参ります故、どうか……」
「あはは、ギードだけじゃあなくてバルテン男爵もお空は怖いの?」
無邪気なレイの言葉に、ギードとバルテン男爵が揃ってうめき声をあげ、ルーク達が吹き出す。
「そっか、ドワーフは高いところは怖くて駄目だって言うの、冗談だと思っていたけど、本当なんだ!」
「べ、別に……怖いわけでは……」
「じゃあ一緒に行こうよ! ラプトルで行ったら、かなり時間がかかるよ」
あくまでも無邪気なレイの言葉に、断る言葉が無くなったドワーフ二人が諦めたように揃って大きなため息を吐く。
「まあ、諦めろ。その代わりと言うてはなんだが、墓参りの後に其方達が喜ぶ所へ連れて行ってやるよ。ああ、それを言うならアメジストの主殿も、恐らく喜ぶと思うぞ」
笑ったブルーの言葉にギードとバルテン男爵だけでなく、自分の竜に乗りかけていたマイリーも手を止めてブルーを見上げた。
「ラピス、一体なんの話だ?」
不思議そうなマイリーの質問に、地面に伏せたままのブルーが面白がるように目を細めた。
「まあ、それは後の楽しみに取っておくがいい。さあ、日が暮れるのは早いのだから、さっさと乗りなさい」
笑ったブルーの言葉にもう一度諦めのため息を吐いて顔を見合わせてから、レイ達に続いてブルーの背によじ登るギードとバルテン男爵だった。




