大人達のじゃれあい
「なんだよ。何を一人で笑ってるんだ?」
ルークとマイリーが、二人がかりでアンフィーに基本の構えの型の指導をしていた時、ブルーの横で笑い転げているレイに気付いたカウリが不思議そうに首を傾げながらそう尋ねてきた。
「あのねあのね! ブルーがアンフィーの事を竜の保父役って呼んだんだよ。竜の保父さんって、確かにアンフィーにこれ以上ないくらいにピッタリの呼び名だよね!」
ブルーの鼻先に抱きついたレイが笑いながら目を輝かせて報告する。
「あはは、上手いこと言うなあ。確かにそりゃあぴったりの名前だ。竜の保父さん。うん、良い呼び名だ」
カウリも当然、竜達が自分の主以外の人の名前を呼ばない事は知っているので、竜達が交流のある人に対して好き勝手な呼び名を付けているのも知っている。
「確かに、あの元気な子竜達の飼育を担当している彼にはぴったりの呼び名ね。では蒼竜様、我らもそう呼ばせていただきますね」
こっちへ首を伸ばしたカウリの竜のカルサイトも、面白そうに笑いながらそう言ってアンフィーを見てからブルーを振り返った。
「ああ、好きにすると良い。どうやら彼も、充分に信頼の出来る人物のようだからな」
最後のブルーの言葉はごく小さな声だったためにレイ達には聞こえなかったが、他の竜達には充分に聞こえている。
同じくそう思っていたそれぞれの竜達も、満足そうに目を細めて頷いていた。そして面白がりながらも真剣な様子で指導している愛しい主達の様子を、それからあとは飽きもせずにずっと眺めていた。
また、マイリー達が交互に説明してくれる基本的な事を一言一句たりとも聞き逃すまいと、アンフィーはそれはそれは真剣な様子で話を聞いているのだった。
周りを見る余裕など全くないアンフィーには、自分の呼び名が竜騎士と竜達の間で話題になっているのも、全く気が付いていないのだった。
「へえ、基礎運動をずっとやっていたって言うだけの事はあるなあ。意外にしっかり体は出来ているよ」
「確かにそうだな。アンフィーの年齢でその体格なら、普通は脂肪の方が多いんだがな」
感心したようなルークの呟きに、完全に面白がっているマイリーの呟きが重なる。
「お褒めいただき光栄です。ですが本気で子竜達と向き合っていればこれくらいの体力や腕力が付くのは当然です。まだ親離れ出来ないような小さな子竜達の飼育は、皆様がお考えになる以上に実は激務なんですから!」
苦笑いしつつ胸を張るアンフィーの言葉にルークが遠慮なく吹き出す。
「ご心配なく。それはもう、俺達だって分かっているつもりだよ。レイルズがここであの金花竜達と追いかけっこをしているのを見ただけで、ちびっ子のお世話が超激務なんだって充分過ぎるくらいに分かるよ。本当に、大人と違って子供はどこの世界でも元気一杯で旋風みたいなものだからなあ。いつも見ていて感心するよ」
笑いながらもそう言いながらうんうんと頷くマイリーに、ブルーのところから戻ってきたレイが不思議そうにしている。
「あれ、マイリーには子供はいなかったよね? それに妹さんのパウラさんご夫婦のところにもお子さんはおられないって聞いた覚えがあるけど、それならマイリーは何処で子供を見たの?」
「まあ、一応俺にもそれなりに友人がいるからな。例えば出産祝いや子供のお披露目で屋敷へ行った時に、その子に兄弟がいれば当然出てくるから、俺でも最低限の相手はするよ。だから一応子供の異様なまでの元気さや無茶振りは知っているつもりだよ。しかしまあ、冗談抜きであれと一日中付きあえる皆を心の底から尊敬するよ。悪いが俺には絶対に無理だな」
苦笑いして首を振るマイリーの言葉に、同じく苦笑いしつつ何度も頷くルーク。
そんな二人を横目で見たカウリは、わざとらしいため息を吐いて首を振った。
「ええ、もうすぐ父親になる予定の俺に、今それを言うか?」
「ああ、すまんすまん。別に悪気は無いって。カウリの事は心の底から応援しているから、頑張って戦ってくれたまえ。応援はするよ」
「新米親父殿の健闘を祈る!」
笑って謝るマイリーに続き、無駄に凛々しいルークがそう言ってその場で直立して敬礼をした。当然マイリーもそれに倣う。
「応援感謝します!」
同じく直立したカウリがそう応えてしばしの沈黙の後、三人だけでなく、聞いていた全員が揃って吹き出したのだった。




