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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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朝食準備

「何だよ。ずいぶんと楽しそうだな?」

 揃って笑いながら居間へ駆け込んできたレイとタキスを見て、食器とカトラリーを並べていたカウリが笑顔で振り返る。その横では、スープカップを持ったルークも同じように振り返っている。

「レイに、組織の中で物事を滞りなく進める際の大事なやり方を教えてもらっていたんです。ああ、お二人に準備をさせるなんて。申し訳ありません」

 笑って先ほどの廊下でのレイとの会話を報告していたタキスが、二人が食事の準備を手伝ってくれているのに気付いて、慌ててそう言いながら近くにいたルークの手からスープカップを受け取る。

 ニコスが目玉焼きを、アンフィーは窯の前でパンの焼け具合を見てくれているので、食器を出す人がいなかったのだろうが、お客さまであるルークとカウリに食器運びをさせるなんて、なんて失礼な事をしてしまったんだとタキスが一人で焦っていると、フライパンを揺すっていたニコスが苦笑いしながら振り返った。

「俺がするからどうぞ座っていてくださいって言ったんだけどさ、こんな時くらいしか自由に出来ないんだから、楽しみを取らないでくれって言われちゃってね。それでもう、開き直ってテーブルの準備はお願いしたんだよ」

「だって、今でこそ偉そうにしていますけど、俺もルークも元々貴族じゃあないんですから、食器の準備くらい出来ますって」

 笑ったカウリの言葉に笑顔で頷いたレイは、ニコスが準備してくれていた焼いたじゃがいもとちぎったレタスを、カウリが用意してくれていたお皿に手早く盛り付けていった。

「レイ、もうスープは出来てるから、これも頼んでもいいか」

「はあい、用意するね」

 盛り付けた焼いたじゃがいもに炒って刻んだナッツを散りばめてから、レイは用意してくれていたスープカップを手にした。

「それでマイリー達は、朝食は向こうで食べたんだね?」

 それぞれのお皿の横にスープカップを置きながらそう尋ねると、窯の前でアンフィーの背後から釜を覗き込んでいたルークとカウリが揃って吹き出した。

「いやあ、あんな楽しそうなマイリーの顔が見られただけでも、ここへ来た甲斐があったなあって、割と本気で思ったぞ俺は」

「全くだよな。ここは本部と違って人の目がないからって、マイリーったらもうやりたい放題だよ」

「ええ、マイリーったら何をしたの?」

 驚くレイの声に、またルークとカウリが吹き出す。それから二人は、先を争うようにして説明を始めた。

「少し前にニコスが三人分の朝食を作って、向こうへ持っていってくれたんだよ。それで、ちょうど起きて来たところだった俺とルークも一緒に様子を見に行ったんだよ」

「ニコスは、こっちの食事の準備もあるからすぐに戻ったんだけど、俺達は残って様子を見ていたんだよ」

「そうしたらさ、ワゴンに並んだ料理を横目でチラッと見たマイリーがさ、いきなりパンを鷲掴んで両手でこうやって半分に割って、お皿に綺麗に盛り付けられていたオムレツを、半分に割ったパンで丸ごと掴んでレタスと一緒に押し込んで挟むと、そのまま片手で持って立ったまま食べ始めたんだよ。食前の祈りもなしって!」

「その間の目線は、テーブル一杯に道具を散らかしながらこちらも顔も上げずにヤスリみたいなので膝用の可動関節をせっせと磨いているギードから全く離れないんだぞ」

「しかも食いながらバルテン男爵と楽しそうに喋ってたし」

 最後にカウリが、大きく口を開けてパンをかじる振りをして見せる。

「あれ、絶対俺達が様子を見に来ている事なんて、全くもってこれっぽっちも、カケラも視界に入っていなかったよな」

「だよなあ。本当におもちゃを前にした子供みたいに楽しそうだった。一応、今日の午後からは墓参りの予定になってるんだけど、あれ、今日の予定を忘れてないだろうな……」

 腕を組んだルークの心配そうな呟きに、その場の全員が揃って吹き出したのだった。




「なあ。このパンって、どうやって窯から取り出すんだ? 俺、これはやった事が無いんだよ」

 そろそろ良い焼き加減になってきたので、釜からパンを取り出そうとしたアンフィーは、無邪気に目を輝かせたルークにそう言われて、パドルを手にしたまま驚いたようにルークを見た。

「だって、俺は元はといえばスラム街の出身だからさ。住んでいた隙間風だらけのボロボロの家にパンを焼く窯なんてあるわけないだろう?」

「ああ……確かにそうですね。失礼しました。ええと……焼きあがったパンは、このパドルを使って取り出すんです。ほら、この平らな部分がすごく薄べったくなっているでしょう? この先の部分をパンの下にぐいっと一気に押し込んでパドルの上にパンを乗せて、それで引き出すんです。あの……よかったら、やってみますか?」

 戸惑いつつも律儀にパドルの使い方を説明する。そして、説明を終えたアンフィーは、苦笑いしながら持っていたパドルをルークに渡した。

 何しろルークは、子供のように目を輝かせてアンフィーが持つパドルを見つめていたのだから。ここでそれを無視して、自分でパンを取り出す勇気はアンフィーには無かった。

「おう、ありがとうな。ええと、蓋を開けて……うわ! 熱っ!」

「ああ、いきなり開けてはいけませんって!」

 驚いて仰け反るルークの悲鳴と慌てたアンフィーの大きな声に、レイやカウリが何事かと振り返る。

「あはは、ルークったら。火を落としたばかりの釜を開ける時は真正面に立っちゃ駄目だよ。少し横からゆっくり開けるんだよ。今はまだ中も熱いから火傷をしないように気をつけてね」

「今朝のは丸くて平らな形のパンだから、パドルを押し込む時に、ちょっとこんな感じで先を釜に擦り付けるみたいに少し立てて押し込むといいよ」

 レイが身振りを交えながら教えてくれるのを真剣な様子で聞いていたルークは、嬉々としてパドルを使ってパンを取り出し始めた。

「うん、上手いよ」

 笑ったレイの拍手に取り出したパンを網棚に乗せたルークは得意げに胸を張って見せてから、残りのパンをまた取り出し始めた。

 一つ取り出すたびに熱い熱いと言いながらも楽しげに笑うルークとレイの様子を、皆も笑顔で見つめていたのだった。

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