ギード対マイリー!
「では、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、手加減は無用に願いますよ。ギード」
トンファーを構えて腰を低く落として構えるギードの言葉に、同じくトンファーを手にしたマイリーが、妙に嬉しそうにそう言って同じく腰を低くして構えた。
「ふむ、見る限り構えに不自然な箇所はない。どうやら本当に大丈夫のようじゃな。となれば、遠慮は無用か。では参りますぞ! うおお〜〜!」
軽く膝を曲げて腰を落としたマイリーの自然な構えを見て、確認するかのように小さな声でそう呟いたギードは、気合いの入った大声と共にマイリーの横っ腹に力一杯打ち込みにいった。
「おお、怖い怖い。これは予想以上の打ち込みの強さですね」
甲高い音が響き平然とその鋭い打ち込みを受け流したマイリーが、何故かとても嬉しそうにそう呟きながらにんまりと笑って軽くその場で飛び跳ねる。
「さて、どこまで余裕顔でいられるやら!」
ギードが大声でそう言ってもう一度、今度は右から腹を狙ってすくい上げるようにして打ち込みにいく。
しかし、また平然とその打ち込みを受けたマイリーは、軽く跳ねてそのまま深く屈み込みながらギードのすくい上げを軽々と打ち返した。
そこから一気に激しい連打の応酬になった。
互いに一歩も譲らず、時に真正面から、また時には互いの隙をついた奇襲を死角からかけ、肘や膝での押し合いと殴り合いの攻防も挟みつつ、ほぼ互角の戦いが続いた。
マイリーの左足はしっかりと踏ん張り、床を蹴って時に跳ねる。マイリーのかなり無茶な動きにも、補助具は充分に対応出来ているように見えた。
「うっわ、すっげえ。マイリーはいつも通りだけどギードも大概容赦ねえなあ。何だよあの反応速度。マイリーの攻撃をほぼ全部無効化出来るって絶対普通じゃねえよ。いやあ……俺、よくあれに勝てたなあ」
レイの隣に座ったルークの呆れたようなごく小さな呟きに、聞こえたレイは何度もうんうんと頷いた。
確かに先程のルークとの一戦でギードは負けはしたが、あのマイリーを相手に一歩も引けを取らず互角に打ち合っている今の姿を見ると、やはりギードは凄いのだと再認識させられる。
いつも一方的にマイリーにやられてばかりのレイにしてみれば、ギードの戦いぶりは体格こそ違うがとても参考になる。
そして、夢中になって二人の戦いを見ていると、それと同時にある事実を思い知らされてもいた。
自分と手合わせをしてくれている時のギードは、まだまだ全力ではないのだという事に。そして、そのギードが強いのだと言うニコスとも、本気で戦えば間違いなく自分ではまだまだ敵わない。
それを、その事実をこの戦いを見ただけで分かるくらいには、レイも成長していたのだ。
「この素早さの上になんちゅう手数の多さ。本当にとんでもないお方よのう」
傍目には互角に見える戦いだったが、素早さではやはりマイリーがギードに勝る。手数の多さもあって次第に押され気味になってきたギードは、しかしその戦いの最中に小さくそう呟きながら密かに苦笑いしていた。
レイは拳を握りしめて息をするのも忘れて必死になって見つめているし、隣ではタキスも似たような有様で、口元を両手で覆うようにして声も出せずに二人の戦いを見つめていた。
このまま押し負けるのかと思われたその時、ギードが反撃に出た。
「とりゃあ〜〜〜!」
一歩後ろに飛ぶようにして下がりそのまま勢いよく前に飛び出して、マイリーの懐に低い位置からトンファーを前面に構えて突っ込んでいく。
「おっと!」
本来であればまともにトンファーで腹を打たれてそのまま終了になったはずだが、マイリーはギードが飛び込んできた瞬間に驚いたようにそう言って、即座に勢いよく飛び跳ねて突っ込んできたギードの肩に右手をつきそのままギードを軽々と飛び越えて、3メルトは離れた場所に着地したのだ。シルフの助けは全くない予備動作一切無しの荒技だ。
「うええ、今何したの?」
「あはは、マイリー飛んだよ」
「おいおいマイリー、予備動作一切無しでそこまで飛ぶなよ」
レイの驚きの声とルークとカウリの呆れたような声が重なる。
そして当たって受け止められると思っていたギードにすれば、突然肝心の目標が目の前から消えてなくなったわけで、当然自力では止まれず勢い余って体勢を崩してしまい、そのまま咄嗟に受け身を取って前転した。
「はい終了」
しかし、それはマイリーに無防備な背中を見せる事を意味していて、当然のように駆け戻ったマイリーに足払いをかけられ、ギードがはもう一回転して床に倒れた。
「あはは、これは参った。いやあ恐ろしいお方だ」
床に転がったギードは、そのまま両手を広げて仰向けになり、トンファーを手放して敗北を認めて両手を上げた。
そんなギードを見て、大きなため息と共にその場に座り込んだマイリーも、苦笑いしつつ首を振った。
「その言葉、そのまま貴方に返させていただきます。俺が勝てたのは単なる運ですよ。ねえギード、この際ですからレイルズと一緒にオルダムへ来てくれませんか。貴方なら軍部の格闘術の指南役で正式採用させていただきますよ」
真顔のマイリーの突然の言葉に、その場は静まり返ったのだった。




