訓練場にて
「お見事」
ギードとカウリの声が同時に聞こえて、咄嗟に立ち上がったレイ達は目の前の光景に驚きのあまり言葉が出ない。
足払いと同時の横殴りの一撃を放ったカウリの攻撃を、ギードは右腕のトンファーを立てて見事に止めていたのだ。
しかも、まともに足払いをかけられていたはずなのに、何故かギードは倒れていない。
「おお、さすがだねえ。今の同時攻撃を止めて踏ん張るか」
「まあ、それなりに場数も踏んでおりますからなあ」
呆気に取られて呆然としている見学の三人を無視して、動きを止めた二人が平然とそう言って笑い、ゆっくりと離れて一礼した。
「今のは引き分けかな?」
「そうですなあ。まあ引き分けで良いかと」
同時にため息を吐いた二人の笑い声に、ようやく我に返ったレイ達が拍手をした。
「えっと……ねえ、今のって何がどうなって引き分けになったの? 僕、全然見えなかったけど……ギードはどうして倒れなかったの?」
呆然としたレイの呟きに、満面の笑みのギードとカウリが振り返る。
「よし、今のやり方を説明してやるゆえ、こちらへ来なされ」
「お願いします!」
「ギード! 俺にも教えてください!」
目を輝かせて立ち上がって走って行ったレイの後ろ姿を見たルークも、慌てたようにそう叫んでギードの元へ走って行ったのだった。
『ほお、あのドワーフもなかなかやるのう。咄嗟に床に立てた左手のトンファーに体重をかけて転ばぬように身体を支えて足払いをかわし、更に同時に横殴りにきたところを上体を後ろへ逸らしてかわしつつ、片方の手に持ったトンファーを立ててそれを止めるか。小太りでデカい図体の割にずいぶんと柔らかい身体をしておるのだなあ。あの反射神経は確かに見事よなあ』
呆れたようなブルーの評価に、ニコスのシルフ達も苦笑いしつつ揃って頷いていたのだった。
「ギードすごい! だけどこれを説明されても、絶対僕には出来そうもないです!」
今の動きを実際に再現してもらいながらどう動いたのかの説明を聞いたレイは、満面の笑みでそう言って拍手しながら首を振っている。そしてその隣では、ルークも同じように苦笑いしながら首を振っていたのだった。
「確かに説明を聞けば成る程とは思うけど……俺もこれを出来るかと聞かれたら、そんなの絶対無理だって言うなあ」
「ご謙遜を。ですがまあ、こればかりは練習して出来るようなものではありませぬからなあ。ひたすら場数を踏んで経験して身体で覚えるしかないさな。強いて言えば、どんな動きにも反応出来るように柔軟な身体を作り、あとは咄嗟の判断力を養う事、くらいかのう?」
無邪気に感心するレイの視線を受けて、肩をすくめたギードがそう言って笑う。
「いやあ、それにしても現場を離れて久しいが、腕と勘は衰えてはおらんようで安心したわい。まだまだ若いもんには負けませぬぞ」
拳を握ってにんまりと笑ったギードの言葉に、ルークとカウリは揃って拍手をしたのだった。
「なんだ、楽しそうだなあ。せっかくだから俺も混ぜてくれよ」
その時、マイリーの声が聞こえて全員が揃って振り返る。
そこには、いつもの補助具をつけてシャツ姿になったマイリーと、同じく身軽な姿のバルテン男爵が並んでいた。
「あれ、もう話は終わりっすか?」
からかうようなカウリの声に、マイリーがにんまりと笑って左足の補助具を軽く叩く。
「金具はそのままだが、ベルトの調整を少し変えてあるんだ。折角だから動きを見たくてな」
「無茶はしないでくださいよ」
準備運動を始める二人を見て、ため息を吐いたカウリが手にしたままだったトンファーを見てからマイリーを振り返った。
「なあマイリー、ギードがこれの達人なんだよ。すっげえ強いんだ。ひと運動した後でいいから手合わせして見せてくれよ。ちなみにギードは俺と引き分けたぞ」
顔の前でトンファーをちらつかせながらそう言って笑う。
「ああ、それはすごい。是非お願いしますよギード」
「もちろん喜んで……なあ、本当に大丈夫なんだろうなあ?」
笑ったマイリーの言葉に頷きつつ、ギードは最後に小さな声でバルテン男爵の背中を叩いた。
「おお、もちろん大丈夫だよ。構わんから思い切りやってくれ」
これ以上ない笑顔のバルテン男爵の言葉に、屈伸運動を始めたマイリーを振り返ったギードは、苦笑いしつつ密かなため息を吐いたのだった。




