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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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今日の予定と子竜達の事

「えっと、今日の予定ってどうなってるの?」

 いつも以上に豪華で量もある朝食をしっかりと平らげたレイが、飲んでいたカナエ草のお茶のカップを置いてから、そう言ってタキスを振り返る。

「はい、今日はルーク様とカウリ様、それからマイリー様がお越しになりますよ。早朝にオルダムを出発すると聞いていますが、こっちへ到着するのはどんなに早くても午後からになるでしょうね」

「昼食はこちらでご用意すると連絡してあるから、昼食の時間がいつもよりも少し遅くなるかもな」

 タキスの言葉に続いて、紅茶を飲み干したニコスも笑顔でそう教えてくれる。

「そっか。オルダムからここまでだったら、朝早くに向こうを出たとしてもお昼前に着くのはちょっと難しいだろうね」

 うんうんと頷いたレイは、残りのカナエ草のお茶を飲み干してから窓を見た。

「ごちそうさまでした。しっかり食べたからお昼は少しくらい遅くなっても大丈夫だよ。じゃあ食器を片付けたら、まずは家畜達と騎竜達を上へ連れていってあげないとね」

 笑顔のレイの言葉に、皆も笑顔で頷くのだった。



「じゃあブラシが終わったら、僕はまたシャーリーやヘミングと一緒に遊ぼうかなあ」

 嬉しそうにそう呟いたレイは、空になったカップを手にしながら不意に顔を上げてアンフィーを見た。

「ん? いかがなさいましたか?」

 同じくカナエ草のお茶を飲み終えて片付けようとしていたアンフィーが、その視線に気付いて慌てて居住まいを正す。

「えっと……僕、ここへ来てからあの子達と遊んでばかりだけど、特に何か、訓練というか、そういうのってしなくてもいいの?」

 子竜達の訓練は、全て専門家であるアンフィーの指導の元で行っているのだと聞いてはいるが、具体的にどんな事をしているのかをレイは全く知らない。ずっと遊んでばかりで、もしかして訓練の邪魔をしていたらどうしよう。不意にその事に思い至り内心大いに焦るレイを見て、アンフィーは笑顔で首を振った。

「ああ、ご心配には及びませんよ。どうぞ遠慮なく、あの子達と思い切り遊んであげてください。ほら、以前ロディナへお越しになった際に、レイルズ様がラプトルの子供達に厩舎の中で揉みくちゃにされた事がありましたでしょう?」

 笑いながらのアンフィーの言葉に、レイもあの時の大騒ぎを思い出して小さく吹き出しつつ何度も頷く。

「ラプトルの子供は、親離れするまでの数年間は危険な場所に近付いた時に鳴らす警告の鈴を覚えさせる程度で、それ以外には特に何か訓練して覚えさせるような事は致しません。あの時の子竜達のように、とにかく今は人に慣れさせて、人の手で世話をされる事を嫌がらない様にする。そして、人の事を大好きにさせるのが一番重要なんです。これは騎竜の一番最初に施す、人馴れの基礎訓練と呼ばれるものです。今の二匹のように、親離れ前のこの時期に特定の人達だけとずっと接していると、大きくなった際に人見知りをして初対面の人を怖がったり、知らない場所へ行くのを嫌がったりする様になるんです」

 突然始まったアンフィーの子竜達の訓練の説明を、レイは驚きつつも真剣に聞いている。



 確かに人を好きになる。そして初対面の人や知らない場所を怖がらない様にするのは大事な事だろう。

 移動の際に人を乗せるのが騎竜の一番重要な役割だ。レイをいつも乗せてくれるゼクスのように決まった人しか乗せない騎竜もいるが、大抵の騎竜は乗り手が常に変わる。

 人見知りをしたり、知らない場所へ行くのを嫌がるという事は、その騎竜として使いものにならないという事になる。それは絶対に駄目だ。



「はい。一番最初の人馴れの基礎訓練の重要さがご理解いただけましたね。ですので、ここには定期的にロディナから様々な人に来てもらってあの子達と接してもらい、場合によっては初対面の人にも少しくらいはお世話をしてもらう事もあるんです」

 レイは、ただただ感心してうんうんと頷く。

「なので今日は、せっかくですからバルテン男爵にも子竜達のお世話を少しお願いする事になっていますよ。ですからレイルズ様が遊ぶのは、その後になりますね」

 笑ったアンフィーの言葉に、食べ終えた食器をニコスに渡していたバルテン男爵も笑顔で頷く。

「俺も、直接子竜の世話や訓練を一からした事はないが、人馴れの基礎訓練を手伝った事は何度もありますからな。昨夜ギードから、あの子竜達が人馴れの基礎訓練の真っ最中だと聞いて、せっかくなので、ここにいる間だけでもお手伝いに名乗りをあげたんですわい」

「そうなんだね。よろしくお願いします」

「レイは、あの子達と初対面ですぐに家族認定されてしまったからなあ。逆に、人馴れの訓練相手にはならなかったんだよなあ」

 笑ったニコスの言葉に、レイもあの二匹と初めて会った時の事を思い出して吹き出した。

「あはは、そうだったよね。すっごく緊張して驚かさない様に気をつけていたのに、ちょっと匂いを嗅いだ後、ベラとポリーのところへ行って何か言って、そのあとはもういきなり僕の側へ駆けてきて大はしゃぎだったもんねえ」

「そうそう。初対面であれは普通はあり得ませんよ。あの頃はまだ、俺やシヴァ将軍でさえも散々怖がられて、物陰から遠目に見るくらいしか出来なくて、近くだと子竜達の頭の先とか尻尾とかしか見ていなかったのに!」

 悔しそうなアンフィーの叫び声に、レイだけでなくその時の状況を知っているタキス達まで揃って吹き出す。

「そうだったなあ。二人とも、毎回怖がって逃げられては悔しがっておったなあ」

 笑ったギードの呟きにタキス達がまた笑う。

「確かにそうでしたね。生まれてすぐの頃は、本当に小さかったし、怖がりさんでしたからねえ」

 懐かしそうなタキスの呟きに、ニコスとギードも苦笑いしている。

「夏仔は簡単には育たぬと聞いて、産まれるまでは心配ばかりしておったし、産まれた後はもう毎日必死で世話をしておったよなあ。それなのに、我らの心配などそんなのは知らんとばかりに、二匹揃って毎日元気一杯だったからなあ」

「そうですよね。もの凄い勢いで庭を走り回るのを見て、ひ弱な子竜を想像していた私達の心配を返してと言いたくなりましたからねえ」

「そうだったそうだった。逆に、はしゃぎすぎて怪我をさせない様に注意するのに必死だったよなあ」

 重ねたお皿を台所へ持っていったニコスも、あの頃の大騒ぎを思い出して小さく吹き出している。

「まあ、最大の山場はもう超えたでしょうから、あとは怪我にだけは気を付けて、まずはしっかりと体作りをしながら人に慣れさせるのが当面の目標ですね」

 重ねた食器をニコスに渡したアンフィーも、そう言いながら苦笑いしている。

「そうなんだね。改めてあの子達をよろしくね。アンフィー」

「はい、もちろんです。私の知識を総動員して、立派に育てて見せますよ」

 笑顔のレイの言葉に、アンフィーも胸を張って笑顔で大きく頷くのだった。

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