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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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持つべきものは……?

「なんと、こりゃあ驚きだわい。しかもこの真ん中にあるのは……こ、これは、お前さん。このデカいのは……まさか、まさかダイヤモンドか?」

 棚の前に立つバルテン男爵の目線は、真ん中の段に置かれているやや小さめの箱に一つだけ入れられた大きな宝石に釘付けになっている。

 その宝石の大きさは他とは全く違っていて、子供の握り拳ほどもある巨大な透明の宝石だ。

 これはダイヤモンド。しかし、通常のダイヤモンドのような煌めきを反射する細かい面でのカットは一切施されておらず、恐らく原石に近い状態なのだろうやや歪んだ丸い形のままに表面を滑らかになるように研磨してあるだけだ。

 それでも濁りも汚れも全く無いそれは、明らかに他の宝石と一線を画していた。

 通常、ここまでの巨大な原石であれば、どうしても結晶の中に汚れや他の鉱物が入ったりするし、そもそもヒビが全く無いというのも有り得ない事だ。

 しかし、光の精霊の明かりを受けたそれは、完全なまでの透明度を誇り、とろけるような優しい輝きを放っている。

「これは、今から十年ほど前にあの鉱山の東側の横穴から採取した原石から取り出したものだが、ご覧の通り一切の濁りも汚れも不純物も、そしてヒビも無い。割るにはあまりに惜しくて、表面を磨いただけにしておるのだが、お前さんなら、これをどうするべきだと思う?」

 ギードが真顔のまま、同じように巨大なダイヤモンドを見つめながら静かな声で尋ねる。

「お、お前さん……こんなとんでもない物を十年も隠しておったのか。相変わらずよのう」

 呆れたようにそう呟いたきり、手は出さずに顔を寄せてダイヤを見つめる。

「うむ、確かにこれを割るのは、お前さんの言う通りであまりに惜しいわい。となると、このままカットしたとしたら……とんでもない値が付くだろうなあ。果たしてこれを買えるほどの人がおるか……」

 どう考えても、とんでも無い価格になるのは間違いない。

「もういっその事、このまま皇王様へ献上品として差し出すのが良いのではないか? お前も貴族に任じてもらえ」

「貴族なんぞ絶対に嫌じゃ。爵位を金で買ったなどと言われるのもごめん(こうむ)る!」

 思い切り首を振りながらそう言ったギードだったが、目の前の巨大なダイヤモンドを見つめて大きなため息を吐いた。

「だが、ワシも冗談抜きでこれは皇王様へ献上するしかないかと思っておるのだよ。やっぱりお前さんもそう思うか……」

「そうだな。これは王城の宝物庫へ入れるべき程のお宝じゃなあ。とても、個人で扱えるような代物(しろもの)では無いわい」

 呆れたように首を振るバルテン男爵の言葉に、ギードも苦笑いして頷く。

「やっぱりそうか。なあ、それならやはりレイが竜騎士に叙任された際に、祝いじゃと言うて皇王様へ献上するのが良いよなあ」

「うむ、そうだなあ。確かにそれならばこれ以上ない祝いの品となろうぞ」

 腕を組んで大きく頷くバルテン男爵の言葉に、またギードがにんまりと笑う。

「しかし、ワシはあくまでも辺境に住む元冒険者で、今はただの農民じゃからなあ。なので、出来ればここはそれなりに地位のあるお方に、献上の際には名義人になってもらいたいんじゃよ」

 またしてもにんまりと笑ったギードの言葉に、バルテン男爵が思い切り吹き出す。

「お前、それが言いたくて俺をここに呼んだな!」

「いやあ、持つべきものは地位のある友人よのう」

 血相を変えて叫んだバルテン男爵を見て、ギードが嬉しそうにウンウンと頷きながらそう言う。

 しばらく呆然としていたが、とうとう我慢出来ずに声を上げて笑い出したバルテン男爵を見て、ギードも遠慮なく声を上げて大笑いする。

 それから二人はしばらくの間、互いにすがるようにしてしゃがみ込んで大笑いしていたのだった。



「いやあ、それにしてもとんでもない部屋だのう。ここにある宝石だけでいくらになるのやら」

 ようやく笑いが収まったところで、立ち上がったバルテン男爵が感心したように棚の中を覗き込みながらそう呟く。

「まあな。冷静に考えたら気が遠くなりそうなので、値段は考えぬ事にしておるわい。ちなみにここにあるのは、ワシが厳選して磨きをかけたものだけだよ。磨く事自体が楽しくてついつい夢中になっておったら、気が付いたらここまで貯まってしもうたのさ。せっかくなので、幾つかレイに贈ってやろうかと思うてな。それと、掘り出したままのはあっちの部屋の棚に、それこそ大小合わせてぎっしりとさまざまな宝石の原石が詰まっておるぞ。それから装飾用のミスリルの原石もな。良さそうなのがあれば選んでくれていいぞ。友達のよしみだ。安くしておくわい」

 笑ったギードの言葉にまたバルテン男爵が吹き出す。

「ああ、丁度良かった。ブレンウッドの貴族の屋敷の改築のお披露目会に招待されておってな。まあ、色々と世話になっておるお方ゆえ、祝いに何を持っていこうか考えておったところだ。ミスリルの原石で、小さいので良いが何かあるか?」

「もちろん。好きなのを選べ。なんなら、派手に見えるように割り直してやるぞ」

「おお、それは有り難い。良いなあ。持つべきは鉱山主の友よな」

 さっきの仕事部屋を指差したギードの言葉にバルテン男爵もにんまりと笑ってそう言いながら頷き、二人は揃って吹き出してから、お互いの背中を叩き合いながら部屋を出て行ったのだった。

 それを見て、棚の上で遊んでいたシルフ達が慌てたように後を追って部屋を出る。

 光の精霊達が全員バルテン男爵の指輪の中へ戻ったのを見てから、ギードが先ほどの小さな扉の中にいた鍵のノームにもう一度右手を見せる。


『これは働き者のドワーフの手良い手良い手知ってる手』

『扉を閉めて守るよ此処を』


 小さな手でギードの手を叩いてそう言ったノームは、返す手で石の壁を叩いた。するとゆっくりと戸棚が移動して、低い音を立てて棚同士がピッタリと隙間なく並ぶ。もうこれで、戸棚の後ろに部屋がある事など全く分からなくなった。

「では、好きなのを選べ。ミスリルの原石はそっちの棚じゃよ」

 右奥の棚の下側に並んだ大きな木箱を指差すギードの言葉に、バルテン男爵は目を輝かせて頷き、いそいそと駆け寄って行ったのだった。

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