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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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内緒の話

「いやあ、なかなかに楽しい夜であったわい」

 夕食の後、バルテン男爵が土産に持って来たあの人形を手に、皆で何をどんな風に作るかでそれぞれが好き勝手な事を言って大いに盛り上がり、まあ物は試しでまずは何か作ってみようという事で話がまとまったのだった。

 今回持って来た人形はレイに渡す分なので、再度改めてここにも全種類の人形を見本を兼ねて届ける事になった。当然、その時には人形だけでなく衣装を作るのに必要な材料や人形の設計図などが、ギードの元へ全部まとめて届けられる予定になっている。

「じゃあ、僕がオルダムへ戻ったら、人形のドレスや小物を作るのに使えそうな生地やボタンなんかを沢山届けてあげるね!」

 レイの得意げな言葉に、皆で揃って拍手をしたのだった。



 普段、ニコスがタキス達に作っている服はブレンウッドのお店で購入した木綿や麻の生地で、色も生成りや茶系が殆どだし柄などもほとんど無い簡素なものだ。一方レイのシャツや部屋着に使っている生地は、マティルダ様からの贈り物をはじめ、竜騎士達やレイがここへ来る時に土産として持って来た絹の生地で、色も白や生成りだけでなく、さまざまな染料で染められた綺麗な色の生地があるし、物によっては糸自体を染めてから織る格子模様や幾何学模様の生地もある程だ。

 貴族のお嬢さん方が遊ぶ事を考えれば、木綿や麻の生地だけで無く、絹のドレスや服も当然必要になる。だが、さすがに貰い物の生地をここで使うわけにはいかないが、ブレンウッドの街で絹の生地は店では売っていない。それらは貴族の屋敷に出入りする商人達が優先して扱っている品物だからだ。

 ニコスが困っているのを聞いたレイが、それならオルダムへ戻ったら色々届けると約束したのだ。

「なら生地の確保は出来たな。人形の本体を作る木工細工用の木なら、硬い物も色々と有るから何とかなるだろうさ。肝心の関節部分の金具をワシが作れるかどうかは、設計図を見ねばなんとも言えんが、さて大丈夫であろうかのう」

 小さな人形を手にしたギードは、予想以上に小さそうな関節部分を見て苦笑いしている。

「何を言っておるか。お前さんなら設計図さえあれば簡単に出来るわい。そう思って頼んだんだからな」

 当然とばかりにそう言ってにんまりと笑うバルテン男爵をギードはチラリと横目で見てから、テーブルの下でこっそりとつま先でバルテン男爵の脛を蹴っ飛ばしたのだった。



「それじゃあ、おやすみなさい」

 レイがそろそろ眠くなって来たところで今夜は解散となり、バルテン男爵はギードと共にギードの家へ戻った。

「うむ、ここの炉はいつ見ても良いなあ。もう少し街から近ければ、俺が住みたいくらいだよ」

 客間へは戻らずに二人揃ってそのままギードの仕事部屋へ行き、今は火を落としている大きな炉を見て感心しているのだった。

「まあ、それは老後の楽しみにとっておけ。お前さんならいつ来てくれても構わんぞ」

 笑ったギードが、机の上に散らかしていた細工物を小箱に入れる。

「ほう、何を作っておったのだ?」

 興味津々で覗き込むバルテン男爵の言葉に、ギードは小箱の中身を見せた。

「レイへの贈り物だよ。まあ、まだ半年あるから何とかなるさ。今はここに嵌め込む石を磨いておるところよ」

 作りかけの細工を見せながらギードが嬉しそうに説明を始める。

「石は何を使うのだ? 蒼竜様の守護石は、確かラピスラズリであったな」

「ラピスはここに嵌める。こっちにはダイヤを嵌めようと思うてな」

 納得したように頷くバルテン男爵を見て、ギードはにんまりと笑った。

「おお、それは素晴らしい。あの鉱山からは宝石の原石も色々と出る故好きなのを選べるであろう。しかしこの辺境の森の中にいて、美味いご馳走だけでなくリヒテンシュタイン工房の新酒の赤ワインまでいただけるとは思わなかったぞ。お前さん、なかなかに良い生活をしておるではないか。ん?」

 からかうようなバルテン男爵の言葉をギードは鼻で笑った。

「まあ、皆それなりに苦労して来たからのう。今はご褒美の期間だと思うておるよ。それはそうと、お前さんに一つ相談があるのだが聞いてくれるか?」

 今度はギードがそう言ってにんまりと笑うのを見て、バルテン男爵が嫌そうに一歩下がる。

「なんじゃ改まって。しかもその笑みの意味は?」

「いやなあ。以前俺の鉱山から出たものなんだが、少々扱いに困っておるものがあるんだよ。良い機会なのでお前さんの考えを聞きたくてな」

 指で手招きするギードの言葉に、バルテン男爵が真顔になる。

「鉱山から出た、扱いに困るものだと? 一体何が出たのだ?」

「言っておくが、お前さんを信用しての事だ。ここで見た事は他言無用ぞ」

 真顔で頷くバルテン男爵を見て、ギードは仕事部屋の奥にある棚の前に立った。

 ギードがここを買う前はブレンウッドのドワーフギルドが管理していた家なので、バルテン男爵にはそこに何があるのか解って顔が引き締まる。

 無言で棚の前に立ったギードは、棚の奥に作られた小さな扉を開いた。

 そこには一人のノームが座っていた。

「すまぬが開けてくださらんか」

 笑ってそう言い、ギードは右の掌を上にしてそのノームの前に差し出した。


『これは働き者のドワーフの手良い手良い手知ってる手』


 にっこりと笑ってそう言うと、鍵のノームはギードの手を撫でてから返す手で棚を叩いた。

 すると、棚が枠ごとゆっくりと左右に開いて棚の奥に作られていた隠し部屋が姿を現した。

 ランタンを手にするギードを見て、バルテン男爵は右手に嵌められたダイヤモンドの指輪をそっと撫でた。

「明かりをお願いします」

 呼びかけに光の精霊が四人現れて一気に明るさを増し、部屋の四隅に飛んでいって座った。

「おお、これは明るい。ありがとうございます」

 笑顔のギードがそう言うと、壁面に作り付けられたガラス張りの戸棚へ向かった。

「おお、これは素晴らしい……」

 バルテン男爵が堪え切れないように小さく呟く。

 その七段に仕切られた平たい大きな戸棚には、上質な天鵞絨(ビロード)が中張りされた箱がいくつも並んでいて、その中にはさまざまにカットされた宝石の数々がぎっしりと並んでいて、光の精霊達の灯す明かりを受けて、どの石もこれ以上ないくらいの美しい輝きを放っていたのだった。

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