バルテン男爵の到着と子竜達の遊び相手
「おお、ようやくの到着だな」
茂みの向こうから、ラプトルに乗った人影が見えて、振り返ったギードがそう言って笑う。
「いらっしゃい! バルテン男爵!」
疲れて座り込んでいたレイも、そこ声に顔を上げて笑顔で手を振る。
「おお、レイルズ様。お久しゅうございます。していかがなさいましたかな? お加減でも悪いのですか?」
足を投げ出して地面に座るレイを見て、ラプトルから降りながら心配そうにそう尋ねる。
「大丈夫。シャーリーとヘミング、えっと子竜達と追いかけっこをして走り回って力尽きたところです。もう、二匹ともすごく元気で大変なんだよ」
楽しそうにそう言って笑うレイのところへ、呼ばれたと思ったのかシャーリーとヘミングが駆け寄ってくる。
「うわあ! だからちょっと待ってってば!」
飛び掛かられて慌てるレイには知らん顔で、遊べとばかりに彼の袖や襟元を咥えて引っ張り始める。
「もう、やめてってば。本当に君達はやんちゃさんだねえ」
子供とはいえラプトルの力はかなりのもので、座っていたレイは無理やり引っ張られるみたいにして立ち上がり、笑ったレイがそう言って子竜の顔を両手で捕まえて揉むみたいにして撫でてやる。
子竜達は揉みくちゃにされても嬉しそうに目を細めて甘えている。
「ああ、かなり元気だとの話は聞いておりますが、確かにそのようだなあ。それに俺の事も怖がりもせんなあ」
一応レイの影に隠れるようにしているものの、初めて見るバルテン男爵に子竜達は興味津々だ。
「ほほう、ほんに見事なまでに金色に輝いておるなあ。これは素晴らしい」
金花竜のヘミングを見ながら、バルテン男爵が感心したようにそう呟く。
「分かっておるな? 言ったように金花竜に関しては、内密にな」
笑ったギードが念を押すかのようにそう言って口元に指を立てるのを見て、バルテン男爵も笑って口元に指を立てた。
「もちろん心得ておるとも、心配ご無用」
「まあ、蒼の森へ邪な心を持った者が入って来ればどうなるかは、知っておるから心配はしておらぬがな」
笑ったギードの言葉に、当然それも知っているバルテン男爵も苦笑いしていたのだった。
実を言うと、シヴァ将軍が定期的に人を引き連れてここを訪れるようになって以降、数度、彼らの後をつけて一緒に森へ入ろうとした不審者達をシルフ達が密かに撃退しているのだ。
金花竜に関しては、ロディナでもごく一部のものしか知らず厳しい箝口令が敷かれているので、金花竜の情報そのものが漏れたわけではないようだが、シヴァ将軍自ら何度も訪れるのならおそらく何かあるのだろうと不審者達は考えたようだ。
ちなみにバルテン男爵は、ギードから口止めされた上で金花竜の話を聞いている。
「じゃあ、子供達はシルフ達に頼んでおいて、我らは戻って飯にするか」
ブラシを入れたバケツを手にしたニコスの言葉に、レイも笑顔で頷く。
「うん。僕、お腹空きました!」
「おう、ちゃんと用意してあるからしっかり食べろ」
笑ったニコスの言葉にレイが大喜びで飛び上がり、それを見たシャーリーとヘミングが一緒になって張り切って飛び跳ねていたのだった。
「ブルー、それじゃあ食事に行ってくるね!」
草原の隅で寛ぐブルーに笑顔で手を振ったレイは、ラプトルを引くバルテン男爵と並んで坂道を降りて行った。
「ああ、ゆっくりしておいで。その間は我が子供達の様子を見ておいてやる故な」
目を細めて優しい声でそう言ったブルーは、レイが坂道を降りていくのを見送ってから草原を見回した。
黒頭鶏達がまた集まって来ているのを見て、黙って足元の草地を爪で掘り返して少し移動してやる。
そして、ベラとポリーの影に隠れながらも、興味深々で自分を見上げる子供達をチラリと横目で見た。
素知らぬ顔で丸くなったブルーは、ゆっくりと深呼吸を一つしてから丸くなって目を閉じた。
長い尻尾が普段と違って丸く体に沿って巻き込むのではなく、投げ出した状態のままで尻尾の先だけがまるで生き物のようにぴょこぴょこと右に左に一定のリズムで動く。
しばらくすると、我慢出来なくなったシャーリーとヘミングが、小走りにブルーのそばまで駆け寄って来て、大きな尻尾の先を追いかけ始める。
素知らぬ顔で目を閉じているブルーだが、当然そんな子竜達の様子は手に取るように分かっている。
二匹の目の前を尻尾の先をちらつかせては、すぐに動かして逃げる。当然追いかける二匹だが、あと少しのところで何度も逃げられてしまう。
悔しそうに地団駄を踏む二匹の目の前を、揶揄うように尻尾の先だけが器用に動き回る。
結局、レイ達が食事を食べ終えて草原に上がってくるまでのかなりの時間、ブルーは知らん顔で寝たふりをしながら、嬉々として走り回る二匹の子竜達を、尻尾の先だけで延々と飽きもせずに遊ばせていたのだった。
思わぬ遊び相手を見つけたシャーリーとヘミングは、最初の頃のブルーを怖がっていたのが嘘のように、もうその後はずっとブルーの周りを目を輝かせてまとわりつき尻尾を飽きもせずに追いかけ回して、ブルーを辟易させる事になるのだった。




