寝癖と朝食
翌朝、いつものようにシルフ達に起こされたレイは、寝ぼけたままベッドから出ようとして、あまりの寒さに思わずもう一度毛布の中へ潜り込んでいった。
『起きなさ〜い!』
『起きなさ〜い!』
『朝ですよ〜!』
『おはようおはよう』
『おはようなの〜!』
「寒いよ。何これ……」
寝ぼけたレイが毛布の隙間から顔を出しながら文句を言うと、タキス達の吹き出す声が聞こえて、慌てて毛布から顔を出した。
「ああ、もうまたやられた〜〜!」
複雑怪奇に絡まり合って、またしても芸術作品のようになった髪を押さえてレイが叫ぶのと、今朝もやって来ていた、皆で行く寝癖見学会! の面々が揃ってもう一度吹き出すのは同時だった。
「おお、これまた……今朝も、なかなかに、芸術的な、鳥の、巣に、なって、おるなあ……」
笑いすぎてひきつけを起こしているギードの言葉に、またタキス達が吹き出す。
「もう! 僕の髪はおもちゃじゃないって毎回言ってるのに〜〜! それと、部屋にこっそり入ってくるの無し〜〜!」
笑いながらベッドから起き上がったレイの文句に、また全員揃って吹き出す。
「何を言ってるんですか。ちゃんとノックしましたよ。それでレイがちゃんと返事をしてくれたんですけれどねえ」
「覚えておらぬのか?」
タキスとギードに呆れたようにそう言われて、ベッドに座ったレイの眉間にシワが寄る。
「えっと……?」
『確かに、ノックの後にレイが返事をしておったなあ。はあい、もう起きるよ。とな』
ブルーのシルフの言葉に皆が揃って頷くのを見て、レイも苦笑いしながら毛布に突っ伏した。
「あはは、全然覚えてません! でも、いつもラスティが起こしに来てくれた時に返事してるから、無意識に同じように返事しちゃったのかもね?」
照れたように笑って、もう一度自分の頭を触る。
「もう、本当に何がどうなってるのか全然わからないよ。何をしたらこんなに髪の毛が絡まる訳?」
毛糸のカーディガンを羽織ってベッドから下りながら口を尖らせるレイの言葉に、集まっていたシルフ達がそろって目を輝かせた。
『あのねあのね!』
『まず天辺のところを細い三つ編みにして〜!』
『それからその周りも三つ編みにして〜!』
『出来上がった三つ編みを!』
『また三つ編みにするの!』
『それから余った毛を絡ませて〜〜!』
『もぎゅもぎゅってするんだよ〜〜!』
『それから後ろの毛は〜〜!』
「だから! これの作り方を聞いてるんじゃないってば!」
嬉々として作り方の説明をはじめたシルフ達の言葉に抗議の悲鳴を上げるレイ。そしてまたしても吹き出して笑い崩れる大人達。見ていたブルーのシルフも堪えきれないように吹き出し、結局今朝も、またしても皆で大笑いになったのだった。
「はあ、毎朝賑やかで楽しいのう」
「本当ですねえ。俺なんてレイルズ様がお帰りになってからだけで、もう一生分笑った気がしますよ」
居間へ戻ったギードの笑いながらの言葉に、同じくまだ笑っているアンフィーが食器棚を開けながらそう言って何度も頷く。
「確かに、俺達の腹筋はこの数日だけでも相当な仕事をしていそうだよなあ」
大きなフライパンを持ったニコスが、黒頭鶏の卵を割り入れながらそう言ってうんうんと何度も頷いている。
「ニコス、お皿は何を出しますか?」
「ああ、いつもの平たいお皿の大きいのと、スープカップも頼むよ」
「了解です。じゃあ、後はいつものパン用の小皿とお茶用のカップっと」
アンフィーは、ニコスが用意しているメニューを見ながら、食器とカトラリーを戸棚から取り出していく。ギードは、石窯から焼けたパンをパドルで取り出して、一旦冷ますために網棚に並べていく。
「おはよう! 無事に寝癖討伐完了です!」
その時、元気な声と共にすっかりいつもの髪型になったレイとタキスが入って来た。
「おはようさん。おお、すっかり元通りだな。別にあのままでもよかったのに、バルテン男爵に見せてやりたかったのになあ」
笑ったギードの言葉に髪を押さえたレイが顔をしかめて見せ、また揃って大笑いになったのだった。
「ほら、いつまでも遊んでないで席に着いて。玉子が焼けたぞ」
慌てて積み上がっていたお皿をアンフィーが並べ、ニコスが目玉焼きと分厚く切って焼いた燻製肉を並べていく。あとは用意してあった温野菜を盛り合わせれば完成だ。
「パンはいつものカゴに入れますよ」
レイが、網棚からまだ暖かいパンをカゴに入れてテーブルの真ん中に置く。
タキスは、沸かしてくれてあったお湯を見て、手早く紅茶とカナエ草のお茶を用意する。
準備が出来たところで全員がそれぞれの席へつき、しっかりと食前の祈りを捧げてから食事を始めた。
「美味しい。やっぱりニコスが作ってくれる料理が世界一だね」
「まあ王都でご馳走食ってるレイにそう言ってもらえるだけで、俺は嬉しいよ」
じゃがいものスープを一口食べたレイの言葉に、照れたように笑ったニコスがそう言い、皆も笑顔で頷き合っていたのだった。




