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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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シャーリーとヘミング

「ほら、君の寝床を綺麗にしているんだから、邪魔しないでください。ね、良い子だから向こうで待っていてください」

 厩舎の奥に作られてる子竜達のための一角を掃除しながら、楽しそうに周りを走り回ってはレイの袖やズボンの裾に噛み付いて引っ張って遊ぼうとする子竜達に向かって、レイは手を止められる度にため息を吐いては何度も同じ言葉を言い聞かせていた。

 一応、何か話しかけられたら大人しそうにこっちを見ているのだが、大人の騎竜と違い、子竜達にはまだほぼ言葉は通じていない。

 一定年齢以上の人に慣れた騎竜は相当賢くなるし簡単な言葉はほぼ通じるようになる。それに自分の主人をしっかりと認識して懐く個体も多い。

 しかし生後数年程度のまだ親離れもしていない子竜は、訓練らしい事は全くしてはいないので、言葉など通じる訳もないのだ。

「レイルズ様、あの子達にはまだ言葉は通じませんから、言うだけ無駄ですよ」

 笑ったアンフィーの言葉に、干し草の汚れた部分をピッチフォークですくって取り除いてたレイが振り返りながら肩をすくめる。

「そりゃあそうかもしれないけどさ。一応ちゃんと聞く態度は取ってくれているんだから、ああやって何度も同じ言葉を言い聞かせていたら、ちょっとは通じてくれないかなあって思うんだけど……駄目かな?」

「あはは。確かにお気持ちは分かりますが、少なくとも俺の知る限り、五歳未満で言葉が通じる子竜には会った事はありませんし、聞いた事もありませんねえ」

「やっぱり駄目かあ。でも、これは僕が話したいから話しているだけなの。だからいいの」

 笑って新しい干し草を広げてやりながら、大喜びで干し草の山に突っ込んでくる二匹の子竜達をレイは愛おしげに眺めていたのだった。



 汚れた干し草はまとめて堆肥置き場へ運び、使った道具も全て簡単に手入れをしてから元の位置へ戻す。

 手慣れた様子で力仕事や服が汚れる作業も厭わずに率先して真面目に働くレイを、アンフィーは密かに感心しながら眺めていた。

「これは噂以上のお方ですねえ。本当に……タキス達が揃いも揃って、もっと我儘になっても良いのに、と、何度も言っていた意味がよく分かりましたよ。確かにこれは、良い子過ぎる。あの歳で反抗期があったのかちょっと心配になるくらいに良い子ですねえ。まさか反抗期が無かったなんて事は……いくら何でもそれは無いよなあ?」

 自分の幼かった頃や兄弟達の反抗期の頃の事を思い出して、苦笑いするしか無いアンフィーだった。

「よし、これでお掃除終了だね。ほら、上の草原へ行くよ。大丈夫だから上がっておいで」

 外へ通じる螺旋階段の扉を開けてやると、慣れている家畜達や騎竜達がゆっくりと階段を上がり始める。

 しかし、子竜達は戸惑うように階段を見て悲しそうに鼻で鳴いてから後ろに下がってしまった。それを見たベラとポリーも足を止め、階段の前で立ち止まったままの子竜達を見ている。

 石の家の中に作られている家畜や騎竜達のためのこの場所は、そのまま上の草原へ上がれる螺旋階段が有るのだが、まだ小さい子竜達は螺旋階段が怖いらしく上手く上がれないのだ。

 多少の段差程度は全く平気なのだが、常に一定の感覚で上がり続け、しかも常に同じ方向に回転している螺旋階段は子竜達にとっては未知の場所らしく、今のところ何度か上がらせようとしているが最後まで上がれた事はまだ一度もない。

 無理やり上がらせようとしても、途中で恐怖のあまり立ち止まったきり動かなくなった子竜を、結局アンフィーやタキスが抱き上げて上まで連れて行く事になるのだ。

 なので普段は一旦庭に出してやり、上の草原へ続く坂道を駆け上がらせていたのだ。



 そんな子竜達の様子を聞いたレイは、小さなため息を一つ吐いた。

 レイの頭上には、呼びもしないのに勝手に集まってきたシルフ達がいて、レイと一緒に子竜達のところへ集まって行く。

「ほら、シャーリー、ヘミングもおいでよ」

 階段に戻って足をかけて見せたレイの声に、二匹が駆け寄るが階段までは行こうとしない。

「ううん、どうすれば行ってくれるかなあ。多分、一度上がればもう怖くなくなると思うんだけどなあ」

 戸惑う二匹を見て、困ったようにレイが呟く。


『呼んであげれば良いの?』


 その時、一人の大きなシルフがレイの目の前に現れた。

 ニコスのシルフ程ではないがかなり大きい。彼女は間違いなく古代種のシルフだ。

「初めましてレイルズだよ。えっと、かなり大きな子だね。もしかして蒼の森にいる古代種のシルフかな?」

 笑ってそのシルフが頷くのを見て、レイも笑顔になる。

「えっと、シャーリーとヘミング、ああ、そこにいるラプトルの子供達なんだけど、あの子達を上の草原へ連れていってあげたいんだ。だけど、どうやら階段が怖いらしくて上がってくれないんだ。ここで暮らすなら、この階段を上がるのは絶対に覚えてもらわないといけないのに」

 困ったレイの説明を聞いたそのシルフは、にっこりと笑って子竜達のところへ飛んでいった。


『ほらこっちへおいで』

『一緒に遊ぼう』


 優しい呼びかけの直後、数匹の小さな羽虫が飛んできて子竜達の目の前をからかうように飛び回り始めた。


『ほらこっちこっち』

『一緒に遊ぼう』


 他のシルフ達も集まって来て、次々にシャーリーとヘミングにキスを贈り始めた。

 そんなシルフ達には目もくれず、羽虫に興味を惹かれた二匹がまるで逃げる羽虫に誘われるかのように螺旋階段へと歩いていく。

 驚きに声もないタキス達を見て、レイは小さく笑って螺旋階段を先に登り始める。

 それに合わせるかのように羽虫達がゆっくりとレイの後を追って飛んで行き、それを追いかけたシャーリーとヘミングがその後に続く。

 階段を上がり始めた二匹を見て、アンフィーが慌てたようにその後を追って上がり始めた。

 アンフィーの視線は二匹のおぼつかない足元に注がれていて、万一にも階段を踏み外すような事があれば、即座に対応出来るように両手を少し広げた状態で進んで行く。それを見たタキス達も同じようにしながらその後を追った。

 しかし、彼らの心配をよそに、ややゆっくりではあるものの二匹は立ち止まる事も無く上の草原まで上がってしまった。

 そして、そのまま嬉々として草原に走り出て行った。



「うわあ、レイルズ様……あの、今何をなさったんですか? あの羽虫は、一体……?」

 草原を元気に走り回る二匹を見ながらのアンフィーの質問に、笑ったレイは肩をすくめた。

「えっと、蒼の森にいる古代種のシルフが出て来て手伝ってくれたんだよ。僕も初めて会った子だったね」

 当然のように告げられたその言葉に、てっきりブルーが寄越してくれたシルフのおかげだと思っていたタキス達までが、揃って驚きの声を上げる事になったのだった。

「ええ、古代種のシルフですって?」と。

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