大切なツリーに込められた想い
「あはは、もう今の説明だけでレイの普段の様子がほぼ分かった気がするなあ」
笑い過ぎて出た涙を拭いながらのニコスの言葉に、同じく大笑いしていたタキスもうんうんと頷いている。
「どうやら、心配は無用のようですねえ」
「俺達ごときが心配する必要は無いみたいだなあ」
顔を見合わせた二人はほぼ同時にそう呟き、また勢いよく吹き出して大笑いしたのだった。
一方、ギードとアンフィと一緒に用意してくれていた大きなイチイの木を居間に運んだレイは、ギードが持って来てくれた飾りを見て目を輝かせた。
「また、飾りの種類が増えてるね! うわあ、竜達がいるし竜騎士様もいるね!」
ニコス特製のフェルト細工と刺繍で仕上げたそれらは、見慣れた竜騎士隊の伴侶の竜達だ。
「クロサイトもいる……あ、これはターコイズだね。うわあ、すごい」
まるで生きているかのように細やかな部分まで作られたそれを見て、レイはもうこれ以上ないくらいの笑顔だ。
「こっちはタキスの力作じゃ。どうだ、かなり上達しただろう?」
もう一つ持って来た木箱を開けると、そこには大小の白木の星がいくつも並んでいる。
「ああ、本当だ。タキスすごい!」
少し色合いが変わっているのは、懐かしい、ここへ来て初めての降誕祭の時にタキスが作ってくれた少し歪んだ丸い星だ。新しいものは、それに比べたらかなり綺麗な作りになっている。
「こっちはアンフィーが作ってくれたぞ」
笑ったギードが取り出して見せてくれたのは、木の実や柊を使って作った掌ほどの大きさの小さなリースや魔除けの飾りだ。
「アンフィーも器用なんだね。すごい」
見事に作られたそれらを見て、ひたすら感心しているレイだった。
「恥ずかしいのであんまり見ないでください、綺麗に見えますけど、色々誤魔化している箇所もありますから」
満面の笑みのレイに見つめられて、恥ずかしそうに顔を覆ってギードの後ろに隠れるアンフィーだった。
その後、戻って来たタキスとニコスも手伝って全員でツリーに飾り付けを行った。
ツリーの頂点に飾る大きな星飾りは、ブルーの使いのシルフとニコスのシルフ達が張り切って運んでくれた。
「ほお、今年のツリーも見事だのう」
「今年はお客様が大勢来られますから、我々だけでなく皆様に見てもらえますね」
嬉しそうなタキスの言葉に、レイも笑顔で頷いた。
もうレイは成人しているのだから、本来ならばこれほどに大きなツリーを飾る必要は無い。元々降誕祭のツリーは、未成年の子供の為の魔除けの意味合いがある。
だが、蒼の森ではレイが来るずっと以前から毎年降誕祭には大きなツリーを飾っている。これは、幼くして亡くなったタキスの息子のエイベルの為のツリーでもあるのだ。
「きっと、エイベルも喜んで見てるよ」
ちゃんとここにあるツリーに込められた意味を分かっているレイの優しい言葉に、目を潤ませて何度も頷くタキスだった。
ツリーの飾りを楽しそうに突っついたり引っ張ったりして遊び始めたシルフ達は、自分達を見ているレイとタキスに気付くと、楽しそうに笑って手を振ったりツリーの枝の中に隠れたりし始めた。
「遊ぶのは構わないけど、飾りを落としたり枝を折ったりしちゃあ駄目だよ」
笑ったレイが、言い聞かせるように真面目な顔でそう教える。
『わかってるよ』
『わかってるわかってる』
『これは大事なツリーなの』
『大事大事』
『だから大事に遊ぶの〜〜〜!』
レイの言葉に揃ってうんうんと頷いたシルフ達は、それはそれは大真面目な顔でそう言うと、最後は一斉に遊ぶのだと宣言してまた好きに遊び始めた。
ニコスのシルフ達までが一緒になって遊び始めたのを見て、レイも笑って目の前にあったブルーの飾りをそっと突っついたのだった。
その後は、地下の食糧庫へ行って、レイが持って来た食材をタキスとギードと一緒に片付けるのを手伝った。
「アンフィーもお料理が出来るんだね」
ニコスを手伝って夕食の準備の為に残ったアンフィーを思い出して、レイが感心したようにそう呟く。
「彼は器用ですからねえ。シヴァ将軍やロディナの人達が大勢来てくださった時などにも、ニコスを手伝って一緒に料理をしていましたよ」
「本人に言わせると、やっているのは野菜の皮むきや下拵え程度で大した事はしていないそうだが、ニコスの話を聞く限り、かなり色々と作れるようだな。だが味付けには自信が無いらしく、味付けだけはニコスが全部やっているらしいがな」
「へえ、そうなんだ。だけどそれでもすごいよね。僕も最近は全然作っていないから、ニコスに教えてもらったパンの作り方、覚えてるかなあ」
誤魔化すように笑うレイの言葉にタキスとギードが思い出したのは、彼がここへ来て初めての年の降誕祭の前に起こった、あの闇の目との戦いだった。
翌朝、疲れ切った彼らが寝坊した朝に、レイが母上様が作っていたのだというショートブレッドを焼いてくれたのだ。
本来であれば、ショートブレッドはもっと甘くして、表面にもお砂糖をたっぷりとまぶしてお菓子として食べられるものだが、彼が作ったそれはかなりお砂糖を減らして塩味をつけたものだった。だが、そのおかげで料理と一緒に食べる事が出来たのだ。
「あの時レイが作ってくれたショートブレッドは、そりゃあ美味かったなあ」
ギードの呟きに少し目を潤ませたタキスも大きく頷き、レイは少し恥ずかしそうにしつつも笑って頷く。
「ああ、あのレシピならまだ覚えてるよ。懐かしい。あれも大して甘くなかったよね」
竜騎士隊の本部にいれば、どんな贅沢なお菓子だって好きに食べられる。
だけど、母さんが作ってくれたような甘く無くて硬いパンケーキや塩味のショートブレッドが不意に食べたくなってしまい、レイの目にもうっすらと涙が浮かぶ。
「僕は、母さんが作ってくれたあの硬くて全然甘く無いパンケーキが食べたいなあ……ジャムが染み込んで甘くて柔らかくなったところを残しておいて、最後に一口で食べるんだ。すっごく贅沢した気分になったんだっけ。あんな風にワクワクしながらパンケーキを食べる事なんて、もう無いんだろうなあ」
山のように積み上がった食材を見て小さくそう呟いて笑ったレイは、何か言いたげに心配そうに自分を見つめるタキスとギードを振り返った。
「じゃあこれでもう終わりかな。僕、お腹が空いて来たよ」
誤魔化すように笑ったレイは、そう言って吊り下げられたソーセージの束を見た。
「その大きな体を維持しようと思うたら、確かにしっかり食わねばなるまいて。では、一通り片付いた事だし戻るとしようか」
「そうですねえ。お腹が空き過ぎたレイがソーセージをそのまま齧り始めては大変ですからね」
「何それひどい! いくら何でもそんな事は……しないと思うよ」
「待て待て、今の間はなんじゃ? まさか本気で食うつもりだったか?」
「えへへ、実を言うとこのソーセージってすっごくいい香りがしていたから、このままでも食べられそうだなあって、ちょっと思ってました」
やや細いしっかりと燻されたソーセージを指差すレイの言葉に、タキスとギードが揃って吹き出す。
「食糧庫を荒らされては大変だ。では早急に撤退するとしようぞ」
重々しいギードの宣言に三人同時に吹き出し、笑いながら先を争うようにして階段を駆け上がって行った。
ソーセージの束の上にはウィンディーネ達が現れて、楽しそうに笑いながらそんな彼らを見送っていたのだった。




