厩舎の掃除と午後の予定
「ううん、こっちの厩舎は久し振りだけど、こんなに狭かったかなあ」
すっかり綺麗になった厩舎の中を見回して、苦笑いしながらレイがそう呟く。
「それは、お前さんがデカくなったからだと思うぞ」
呆れたように笑ったギードの言葉に、遠慮なく吹き出すレイだった。
「あはは、確かにそうかもね。何だか天井が記憶にあるよりかなり低い気がしたけど……そっか、以前の僕の身長ならこれくらいだから、それなら確かに記憶にあるくらいの高さだねえ」
屈んで背を低くしてから天井を見上げたレイがもう一度そう言って笑い、トケラの代わりにここで働いてくれているトリケラトプスのチョコの太くて長い角を、腕を伸ばしてそっと撫でてやった。
もう、雪が降り始めている蒼の森では外の厩舎や物置は全て畳んで片付けられていて、家畜達や騎竜達を石の家の中にある専用の厩舎に入れている。
まだラプトルの子供のシャーリーとヘミングには、ベラとポリーと一緒に専用の子供部屋を用意しているが、別室ではなく同じ厩舎の中に木製の仕切りを作っているだけだ。
しかし他の騎竜や家畜達ともすっかり仲良くなり、そんな仕切りは知らないとばかりに元気一杯で、好き勝手に厩舎中を走り回って遊んでいるシャーリーとヘミングだった。
「こら、そんなに走り回って転んだりしたらどうするんだよ。ほら、こっちのお掃除は済んだよ」
笑ったレイが、子供部屋用の囲いの中に新しい干し草の塊を放り込んでやると、シャーリーとヘミングは大喜びで走って来て、解す前の干し草の塊に頭から突っ込んでいった。
「ああもう、危ないって。シルフ。ちょっと捕まえてて」
先の尖ったピッチフォークを持っていたレイが、二匹が突っ込んで来たのを見て、慌てて先を上に向けて持ち直した。
『良い子は大人しくするの!』
『じっとしてなさ〜〜い!』
『だ〜め〜で〜す〜〜』
シルフ達に確保されながらも、嫌がるようにその場で飛び跳ねて地団駄を踏むシャーリーとヘミングを見て、レイはもうさっきからずっと笑っている。
「はいどうぞ。これでいいよ。シルフ、離してやって」
手早く干し草を広げてやった寝床を軽く叩いてやると、シルフ達から解放された二匹は嬉々として干草に突っ込んで行って転げ回って遊び始めた。
「やんちゃさんだねえ」
そんな子供達を見て笑って一つため息を吐いたレイは、使っていたピッチフォークを元の位置へ戻して大きく伸びをした。
「じゃあこれで厩舎のお掃除は終わりだね。えっと、他に何かする事はある?」
肩を回しながら道具を片付けているニコスとタキスを振り返る。
「ご苦労さん。いや、もうこれで全部だよ。それじゃあ俺は夕食の準備をしてくるから、レイは疲れてるだろうから少し休んでてくれていいぞ。朝、オルダムを出たのは早かったんだろう?」
ニコスの言葉にレイは笑って首を振る。
「ええ、全然疲れてないよ。じゃあ夕食まで何をしようかなあ」
その言葉に、ギードが笑顔で手を叩く。
「それなら、ツリーの飾り付けを頼んでもいいか? せっかくレイが帰って来てくれたんだからって事で、今年はちょっと早く降誕祭用のツリーを森から切ってきたんだよ。別の部屋に置いてあるから、運ぶのを手伝ってくれるか」
笑ったギードの言葉に、レイは目を輝かせた。
「ええ、もうツリーを切ってきたの? もちろん手伝うよ!」
「おう、頼もしいなあ。じゃあ運ぶとするか」
嬉々として、ギードとアンフィーの後を追って走って行くレイを見送り、タキスとニコスは顔を見合わせて小さく吹き出した。
「デカい図体になっても、中身は全然変わってないなあ」
「そうですね。何だか不思議な気分です」
ニコスの呆れたような呟きに、タキスも笑いながら頷いている。
「ううん。あれで本当に社交界の魔女達と渡り合えてるのかねえ。大丈夫かな? 割と本気で心配になって来たぞ」
一つため息を吐いたニコスは、小さくそう呟いて苦笑いしている。
「確かに、私でもちょっと心配になりますねえ。まあ、その辺りはそれこそ、ルーク様がお越しになられたらこっそり聞いてみれば良いのでは?」
「そうだな。だけどどちらかと言うと、あれは竜騎士隊の皆様方も面白がって見ていそうだけどなあ」
肩をすくめたニコスの呟きに、タキスはもう一度堪えきれずに吹き出した。
「確かにそれは有り得ますねえ。どちらかと言うと、レイなら仮に真正面から嫌味を言われたとしても、笑顔でお礼を言っていそうですよね」
「ああ、それは大いに有り得るよなあ。特に、貴族のご婦人方特有の遠回しな嫌味は、ほぼ間違いなくレイには通じないだろうしなあ」
笑ったニコスの呟きの直後、レイに託した知識の精霊のうちの一人が唐突に目の前に現れて、ニコスを見ながら笑顔でうんうんと大きく頷く。
「何だよ。もしかして、もう……それはやらかしてるのか?」
『主様は本当に無邪気で可愛いよね』
『竜騎士隊の皆からは無垢と無邪気は最強だって言われてるよ』
『他には遠征訓練で真正面から喧嘩を売られてご機嫌でお礼を言っていたね』
腕を組んだ知識の精霊のそのしみじみとした言葉に、タキスとニコスは堪える間も無く吹き出したのだった。




