様々なお土産
「よし、それじゃあお土産を開けようよ!」
アンフィーから離れて笑顔で頷き合ったレイは、照れ隠しをするように大きな声でそう言って、積み上がっている木箱を見上げた。
「じゃあ、順番に開けていこうか。えっと、まずこれは何かな?」
釘抜きを持ってきてくれたギードと一緒に、まずは木箱の蓋を開けていく。
「あ、これは布が入ってるよ。じゃあこれはニコスの分だね」
一つ目の箱には、綺麗な布が降り畳んでぎっしりと入っていた。それから布に縫い付けられた沢山のボタン。糸や針もたくさん入っていた。
「ああ、これは有り難い。大切に使わせていただきます」
嬉しそうにニコスがそう言ってそっと布を撫でる。
「これってもしかして、僕のシャツの型紙だね」
一番上に置いてあった大きな封筒の中には、何枚もの型紙が入っていた。
「これがシャツになるんだって言われても、やっぱり分からないや」
レイが自分が着ているシャツの襟元を撫でてから、ニコスが見ている型紙を横から覗き込む。
「このシャツもニコスが作ってくれたんだよね」
上着の襟元のボタンを外したレイの言葉に、顔を上げたニコスが嬉しそうに頷く。
「ああ、着てくれているんだな。着心地はどうだ?」
「すっごくいいよ。どこも窮屈じゃあないしね」
笑って腕を回すレイを見て、ニコスは手にしていた型紙に視線を落とした。
「オルダムの竜騎士隊の本部におられるガルクール様には、いつも本当によくしていただいているよ。これを作るだけでも大変だろうになあ」
そう言って、愛おしげに型紙をそっと撫でる。
「ガルクールには、僕もいつもお世話になってるよ」
笑顔のレイの言葉に、ニコスも笑って頷く。
「まあ、その辺りの話もまた後で詳しく教えてもらおう。でもまずはこっちが先だな」
笑ったギードが、そう言いながら次の箱を開ける。
「おお、これには食糧か。これまた色々と送ってくださったのだなあ」
この辺りでは手に入らないチョコレートの塊を始め、貴重なスパイスや塩漬け肉の塊がいくつも入っている。
「何ですか、これは?」
もう一つの木箱にも食料が入っていたのだが、そちらには瓶がぎっしりと入っている。そこから陶器の壺を取り出したタキスが、不思議そうにそう呟く。
「ああ! 罪作りだ!」
それを見たレイの言葉にギードが勢いよく吹き出す。
「おお、久々にその名を聞いたなあ。まさか蒼の森にいて罪作りを食える日が来ようとはな。これは飲む楽しみが出来たぞ」
嬉しそうなギードの言葉に、タキスとニコスは首を傾げている。
「それって、ロディナの干し肉と対を成す、酒の肴と名高い罪作りですか。これはまた珍しいものを」
アンフィーが感心したようにそう呟き、タキスとニコスが納得したように頷く。
「ああ、これが罪作りですか。噂は聞いた事がありますが、食べた事はありませんねえ。これはどうやって食べるのですか?」
タキスの呟きにニコスも苦笑いしながら首を振っている。陶器の瓶には、鑞付けされた布でしっかりと蓋がしてあるので、簡単に開けられないので、今、壺の中を見る事は出来ない。
「じゃあ、僕が知ってる料理の仕方を教えるから、作ってくれる?」
「もちろん、じゃあご指導よろしくお願いします」
笑ったニコスの言葉に、レイは満面の笑みで頷いた。
「じゃあ、これは一旦地下の食糧庫へ運べば良いな」
「ああ、後で整理するから食料は箱ごと置いておいてくれるか」
食料の入った二個の木箱を、ギードが一旦台車に乗せて置いておく。
「この小さな箱は、また種を色々と送ってくださったようですね。有り難い事です。これは春になったら使わせていただきますね」
一回り小さな木箱には、薬草の種やハーブの種をはじめ、様々な野菜や穀物の種が細かく整理されてぎっしりと入っていた。これだけでも、ちょっとしたひと財産になるほどの量だ。
「これは、まとめて薬草庫で保管しますね」
「そうだな。これは春までに整理をすれば良かろう」
笑ったギードが、食糧の入った木箱の上にその木箱を置いた。
「えっと、次は……あ、これは僕の荷物だね」
嬉しそうにそう言って笑ったレイが、木箱から細長い大きな箱を取り出す。
「おお、これはまた大きな箱だな。何が入ってるんだ?」
ニコスが興味津々で覗き込むのを見て、レイは嬉しそうにそっと蓋を開けた。
「これは天体望遠鏡だよ。使い方は教えてあげるから、よかったらこれで星空を見てみてよ。月なんてとても綺麗に見えるし、時期が合えば輪っかのある惑星や冥王の名前を冠する星だって見えるんだよ。それから……ほら、これが天体盤。これがあれば、今の季節の星がどんなふうに見えるのかがすぐに分かるんだ。これは全員に一つずつ持ってきたからね。簡単だからすぐに使えるよ。夜になったら使い方を教えてあげるから、頑張って覚えてね」
レイが天文学を習っているのはもちろん全員が知っている。
「へえ、天体望遠鏡は俺も何度か見た事はあるけれど、自分で一から調整した事は無いなあ」
ニコスの言葉にレイの目が輝く。
「へえ、そうなんだ。一番、天体望遠鏡の仕組みを解ってくれそうなギードに説明しておくつもりだったけど、ニコスも分かるなら是非使ってよ」
「ああ、そうだな。じゃあ夜を楽しみにしておくよ」
嬉しそうに笑ったニコスの言葉に、レイも嬉しそうに頷いて天体望遠鏡の入った木箱を横に置いた。
それから、自分の持っていた包みからもう一つのお土産を取り出した。
「えっと、これは僕が以前ルークと一緒に巡行へ行った時に、クレアの街の軍の司令官殿からお土産で頂いた物なんだ。数があったから、皆にもと思って持って来たの。ほら、天体盤になっているんだよ」
そう言って、天体盤のペンダントを取り出して順番に四人に渡す。
「あの、私まで頂いてよろしいのでしょうか?」
恐縮するアンフィーに、レイが笑顔で大きく頷く。
「もちろんだよ。それからアンフィーにはこれもあるんだ。えっと左の腕を出してくれる?」
得意げにまじない紐を取り出すレイを見て、タキス達も揃って笑顔になる。
「あれ?」
だけど、差し出されたアンフィーの左腕を見てレイの手が止まる。そこには、少し色の落ちた細めのまじない紐が、既に一本しっかりと結ばれていたのだ。
「ああ、それは私が作ったまじない紐です。ほら、私達には以前レイが結んでくれたまじない紐がお揃いでありますが、彼には無いでしょう? それで彼がここへしばらくいてくれると決まってから、私が作って結んだんです。アンフィーも家族ですからね」
「そっか、じゃあ二本も要らない?」
「いいえ、これは複数結んでも何ら問題はありませんから。ぜひ貴方からも結んで上げてください」
笑ったタキスの言葉に、レイも笑顔で頷きアンフィーの腕を取る。
「じゃあ、結ぶからちょっとじっとしていてね。えっとこれの注意はタキスから聞いているよね?」
手早く紐同士を結び始めたレイを見て、アンフィーも嬉しそうに頷く。
「はい。タキスに結んでもらった時に詳しく聞きました。でも、まだまだ切れる様子はありませんが、実を言うと、シャーリーとヘミングが少し前からこれに気付いて興味津々で咥えて引っ張ろうとするんですよ。なのでもしかしたら、あの子達に食いちぎられる日もそう遠くないかもしれませんねえ」
「あはは、悪戯っ子達だねえ」
最後の一本を結んだレイが、そう言って吹き出す。
「そういえば、上の草原で走り回っていたけど、あの子達も大きくなったよね」
ブルーに気付いてすっ飛んで逃げていた小さな子竜達を思い出して、皆揃って笑顔になるのだった。




